長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『キック・アス/ジャスティス・フォーエバー』

2018-02-14 | 映画レビュー(き)

カルトヒット作の続編ながら少しも見向きされなかった本作。果たしてどんな大コケ映画なのかと思いきや、前作『キック・アス』の印象と少しも変わらない。ギャグと笑顔を引きつらせるバイオレンス描写。カッコ良過ぎるクロエちゃん。ニコラス・ケイジに代わる“狂った大人枠”のジム・キャリーは珍しく振り切れ具合が足りないが、特段ディスるような仕上がりではない。いったい何が悪いの?

クロエ扮するミンディは父の遺志に従い、“普通の女の子”になるべく学園生活を送っていた。クロエちゃん、写真ではイマイチ伝わらないのだが、動くとやっぱり猛烈に可愛いのである。アクションシーンもいいが、学内のビッチたちと戦うべくファッションで対抗する彼女がアカ抜けていく姿はアイドル映画としても正しい。前作に特段思い入れのない僕としてはコレで十分であった。

『キック・アス/ジャスティス・フォーエバー』13・米
監督 ジェフ・ワドロウ
出演 アーロン・テイラー=ジョンソン、クロエ・グレース=モレッツ、クリストファー・ミンツ=プラッセ、ジム・キャリー
 
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『96時間レクイエム』

2017-06-09 | 映画レビュー(き)

 リーアム・ニーソン主演アクションシリーズ第3弾。今回はファムケ・ヤンセン扮する元妻が何者かに殺害され、ブライアン・ミルズが殺人容疑をかけられるという“ニーソン版『逃亡者』”となっており、もはや原題“TAKEN”も邦題『96時間』も関係ない状態に。追う刑事にフォレスト・ウィテカーを担ぎ出してニーソンの向こうを張らせるも、これまでに培ったニーソンの無双キャライメージがたたり、少しもスリルが高まらないのはご愛敬だ(そもそも『逃亡者』は90年代前半に絶頂期を迎えていたハリソン・フォードとトミー・リー・ジョーンズという配役の妙が成功の要因だった)。

アクション俳優として遅咲きだったニーソンの明らかな老いも気になる。彼自身は度々このアクション俳優としてのバブルを一時的なモノと公言しており、本作の不発はアクション俳優としてのキャリアの引き際としては良いかも知れない。

謎解きもスリルもないまま、オチは黒鶴瓶(ウィテカー)による一言。
「オレは始めから(犯人が)わかってたよ」
 じゃあなんとかすれ~!!


『96時間レクイエム』15・米
監督 オリビエ・メガトン
出演 リーアム・ニーソン、フォレスト・ウィテカー、ファムケ・ヤンセン、マギー・グレイス、ダグレイ・スコット
 
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『キングスマン』

2017-05-11 | 映画レビュー(き)

 原作マーク・ミラー、監督マシュー・ボーンの『キック・アス』コンビ最新作は“英国らしさ”をこれでもかと肯定したブリティッシュイズム溢れる快作スパイアクションだ。
 表の顔はロンドンの高級テーラー、その裏の顔は世界の平和を陰から守る秘密結社“キングスマン”というボンクラ設定を、今やオスカー俳優となったコリン・ファースを筆頭にマーク・ストロング、マイケル・ケインら眼鏡とスーツが似合うミドル達が大真面目に演じているのが堪らない。
『スカイフォール』『スペクター』と同様に“旧いものは良い”という精神に則って、いかに英国的な物が唯一無二なのか実証して見せるのが本作だ。

もちろん、ボーン×ミラーのコンビだから堅苦しさはない。根底にあるのは初期007シリーズへのオマージュに満ちた、スパイアクションというジャンルへの偏愛だ。
世界征服を企むのは悪の組織でもテロリストでもなく、既に僕らを征服しているシリコンヴァレーのIT長者だ。ゲスな人間をとことんゲスく演じてくれるサミュエル・L・ジャクソン叔父貴が、悪党の慣例にそって主人公に振る舞うディナーはなんとビッグマック。ケータイもマクドナルドも不偏で均一化された世界標準だが、鍛錬とオーダーメイドによって創られた“キングスマン”たる英国式マナーの特権性にはかなわない。公営団地の悪ガキから英国紳士へと成長していく新星タロン・エガートンは後半、映画を牽引し、頼もしいデビューを飾っている。

ボーンは『キック・アス』以上に下品でノリの良いキレを発揮している。
とても運動神経がいいようには見えないコリン・ファースがアメリカ南部はキリスト教原理主義者の集う教会で300人斬りを繰り広げるアクションシーンは2015年最高のアクションシークエンスの1つだ。あの人たち、なんにも悪くないのに!w

『キングスマン』15・英
監督 マシュー・ボーン
出演 タロン・エガートン、コリン・ファース、サミュエル・L・ジャクソン、マイケル・ケイン、マーク・ストロング
 
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『キングコング 髑髏島の巨神』

2017-04-24 | 映画レビュー(き)

 レジェンダリーピクチャーズがギャレス・エドワーズ版『GODZILA』に続いて放つモンスター映画ユニバース第2弾は、気持ちがいいくらいに振り切れた快作だ。ジョーダン・ヴォート=ロバーツなる無名の新人監督の“キングコングとベトナム戦争時代の米兵が戦う”というワンアイデアから製作が始まったというが、なかなかどうして。企画不足の消化不良なハリウッド映画が相次ぐ昨今、この新鋭は観客の見たい絵をしっかり見せ、我々の快楽中枢を満たしてくれる。

1973年、米軍のベトナム戦争撤退が決まった日。謎の政府機関によって未知なる“髑髏島”への探検隊が編成される。
研究チームはジョン・グッドマン、護衛の米兵隊隊長はサミュエル・L・ジャクソン。共にキチ〇イ役ならお手の物の怪優が画面に揃い踏みし、これだけで十分、怪獣映画なみのインパクトだ。この2人の前ではイケメン・ヒーロー枠にトムヒ(註:トム・ヒドルストン)を配しても空気化してしまうのだから驚きだ。

むしろブリー・ラーソンが映画にハマる70年代美人顔で唯一、銃も持たなければお色気もか弱さも皆無という、清く正しい現代性で主演女優として屹立しているのが頼もしい。怪獣に追い詰められた恐怖からハラリと涙が(ほぼ条件反射のように)こぼれ落ちるさり気ない場面まで、彼女の気取らない演技メソッドが貫かれている。オスカー受賞後、急激に垢ぬけてスターオーラを増しており、これは想像以上の大輪ではないだろうか。
パニック映画は往々にしてB級のキャストが作品にチープさを与えてしまうが、ロバーツ監督は豪華キャストを無駄遣いする事無くそれぞれに見せ場を与え、映画のグレードを1つも2つも上げて抜かりがない。

役者が揃うと映画は早々に、何ら出し惜しみする事なくキングコングを登場させる。バッコーン!!
まんまキルゴア中佐なサミュエル叔父貴率いるヘリコプター部隊を叩き落とすコング!
キングコングVS『地獄の黙示録』!
この自分が見たい絵を観客にも見せてイかせる力技!

髑髏島に降り立った一行を次々と巨大怪獣たちが襲い、コングがプロレスよろしくバンバンぶっ倒していくが、サミュエル叔父貴も負けてはいない。ロバーツの書いた企画書はきっと“キングコング対『地獄の黙示録』”“キングコング対サミュエル・L・ジャクソン”、そして“サミュエル・L・ジャクソン対巨大怪獣”だったに違いない。叔父貴といえばのあの名台詞も爆笑モノのパロディとして使われ、コングと同レベルの愛されっぷりだ。
一方でCGに頼らず、ロケーションをフル活用し、この世ならざる秘境のランドスケープを切り取ったカメラもいい。この監督、見た目はヒゲモジャの正直どうかと思う風貌だが、なかなかの手練れではないか。

 まさかエンドクレジットの後にあんなアガる真のエンディングがあるなんて、ほとんどの観客は夢にも思わなかったのだろう。場内が明るくなるまで席を立たないように。ついにアイツらが大スクリーンに帰ってくるぞ!!


『キングコング 髑髏島の巨神』17・米
監督 ジョーダン・ヴォート=ロバーツ
出演 トム・ヒドルストン、サミュエル・L・ジャクソン、ブリー・ラーソン、ジョン・グッドマン、ジョン・C・ライリー
 
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『君の名は。』

2016-11-01 | 映画レビュー(き)

映画はこんな言葉から始まる。
“目が覚めると泣いている。起きたら忘れていて、何か…欠けている。ずっと探している気がする”。

新海誠らしいポエティックな台詞に、僕は何年も前に見たきり忘れていたクシシュトフ・キェシロフスキ監督の91年作「ふたりのベロニカ」をふと思い出した。世界のどこかで同日同時刻に生まれた自分そっくりのベロニカが死んだ時、もう1人のベロニカはまるで世界が終るかのような不安に苛まされる。

あなたにもそんな事はなかっただろうか?
ある日、ワケもなく悲しくなり、虚無感に包まれたこと。それは世界のどこかでもう1人の自分が死んだ瞬間なのだ。

もう1人の自分とは何か。
運命の恋人を人はまるで自分の片割れのように感じるのだという。瀧と三葉の宿命の出会いに理由は要らない。彼らはお互いに自分自身なのである。二人は突然ワケもなく入れ代わった生活に戸惑いながら新しい人生に今までにない自分を見つけ出していく。入れ代わった時の互いの痕跡をもとに意識し合う二人。SFを理屈で辻褄合わせしようとしない語り口がいい。なぜなら若い頃の恋の原動力とは“思い込み”だ。若い頃は思い込みで恋するくらいがいい。

この映画は震災で亡くなった少女が自分の運命の相手だったかも知れないという思い込みに衝き動かされた瀧の物語とも見て取れる。東京に暮らす平凡な少年が大震災を通して世界と自分の距離を知っていく。青年は“自分の死”を経験することで成長し、大人になっていくのだ。

震災の日を回避しようとする終幕は『シン・ゴジラ』と同じく3.11のあの日、僕らはまだやれたハズだという痛切な想いの象徴でもある。2016年、東宝を通じて3.11後の心象風景がメインストリーム映画として大ヒットした事は日本映画史上における重大事件として記憶されるだろう。

 入れ代わった二人がそれぞれの生活を楽しみ、やがて互いの存在を知っていく展開をRADWIMPSの挿入歌で省略した演出はドラマの重要な見せ場を損なっており(好きな相手の電話番号を得るドキドキはもうロマンス映画の見せ場じゃないの?)、終幕も観客のエモーションより先走って挿入歌をかけるなど相変わらずナルシストな多弁さが目立つが、所謂“セカイ系”だった新海の作風が3.11と結びつき、メインストリームへ昇華された会心の1本として、見逃せない。


『君の名は。』16・日
監督 新海誠
 
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