長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『カトラ』

2021-08-15 | 海外ドラマ(か)

 『カトラ』第1話のフィーリングは同じくNetflixの看板作品『ストレンジャー・シングス』『ダーク』に近い。舞台はアイスランドのカトラ火山山麓の村ヴィーク。1年前の噴火によって村は灰に覆われ、村民の大半は退去していた。残っているのは地質学者と警察、医師、寂れたホテルの老オーナーだけだ。そんなある日、火山から全身灰に塗れた女性が下りてきて…。

 カトラ火山はアイスランドに実在する。標高1493メートルの山を595平方キロメートロの氷河が覆う“氷底火山”であり、その噴火によって度々、甚大な洪水の被害がもたらされたという記録がある。切り立った岩山と一面、氷と灰に覆われたランドスケープはまさにSF映画のようであり、そんな最果ての地で人々は試されていく。

 火山から現れたのはグンヒルドという若い女性だった。彼女は20年前にヴィークを訪れ、村に暮らすトールとの間に子供を授かった同姓同名の女性とうり二つ。しかし当のグンヒルドはスウェーデンで20歳になる息子と暮らしていた。いったい彼女は何者なのか?さらに火山からはヴィーク村民と縁のある人物が次々と灰に塗れた姿で下りてくる。彼らはカトラが生んだ亡霊なのか?

 いったいどこに導かれているのかわからない謎めいたストーリーテリングが魅力の『カトラ』は、後半からより正統派なアイスランド怪談へと変容し、やがて多くの優れたSF映画同様、自身の内なる声の反響に耳を済ます哲学的様相を帯びていく。ショーランナーを務めるのは『エベレスト』などで知られる監督バルタザール・コウマウクル。彼にこんな物語があったのかと驚かされるが、後半3話の監督を務めるボルクル・シグソルソンの功績も見逃せないだろう。前半ではやや出し惜しみ気味だったカトラのランドスケープをダイナミックに撮らえ、ドラマが感情的ピークに達する第7話の漆黒の海岸には息を呑んでしまった。ぜひとも名前を覚えておきたい。

 本作もまたNetflixの膨大なライブラリーに並列化されしまったのか、誰も見ている気配がない。6月17日の配信開始以来、トマトメーターの批評家レビュー集計数はたったの6だ。それでもこの作品には相応しいと思えてしまうのだから不思議である。この世の果てで、誰にも知られずに何かが起こっている。予備知識なしで、ぜひ。


『カトラ』21・スカンジナビア
監督 バルタザール・コウマウクル、ボルクル・シグソルソン
出演 グドルン・エイフィヨルド、イリス・ターニャ・フリーゲンリング、アリエッテ・オフェイム、イングヴァール・シーグルソン、ソルステイン・バフマン、ソルヴェイグ・アルナルスドッティル、ビョルン・トールス

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