居ようが居まいが、何度だって柳の下のドジョウを狙うのがハリウッドである。ジョン・クラシンスキーが監督としての才能を開花させた『クワイエット・プレイス』シリーズは、音を出せば即死という設定に寄り掛かることなく、子役に至るまで誠実な芝居を見せる俳優陣によって、家族の再生を描いた傑作ホラーだった(第2弾には『オッペンハイマー』でオスカーに輝く直前のキリアン・マーフィーも出演)。第1〜2作が興行的に大成功を収め、本シリーズの参照元と見られるTVゲーム『THE LAST OF US』のTVシリーズ化も大ヒットした今、これ以上何かやる余地があるのか?シリーズ第3弾は監督、脚本に『PIG』のマイケル・サルノスキを迎え、大都市NYを舞台にエイリアンによる地球侵略“DAY1”を描く。シリーズの世界観を拡げるべく、丁寧な企画開発がされた理想的なハリウッドフランチャイズだ。
『アス』でホラーとの相性は証明済みのルピタ・ニョンゴを抜擢したところに本作の成功がある。主人公サミラ=サムは末期がんを患っており、そもそも生きる望みを失っているキャラクター。未知の脅威に人類が絶望する中、彼女は唯一人、脱出路ではなくマンハッタンへと歩みを向ける。今日、世界が終わるなら望みは1つ。亡き父親との思い出がつまったあの店で、最期のピザを食べることだ。
ニョンゴは厭世的で、決して親しみやすくはない主人公を献身的に演じ、映画のグレードを1つも2つも上げている。突如、訪れた終末に打ちひしがれるエリック(ジョセフ・クイン)との旅路はいわば死に場所を求める“道行き”であり、次第に彼らが生命の喜びを見出していく感動こそキャラクター主導のホラーである『クワイエット・プレイス』シリーズの本懐だ。『ストレンジャー・シングス』のヘビメタ野郎で注目を集めたクインは、本作こそが俳優としての本質を見せたブレイク作と言っていいだろう。
前2作では主人公たちがあらゆる人工音から離れるべく田舎に身を隠していたのに対し、今回は否が応でも音が生まれる大都市を舞台にしているのも面白い。サウンドデザインはぜひとも劇場で堪能してもらいたいところだ。中でも生き残った人々が声を押し殺して波止場を目指しながら、次第に“雑踏”を形成してしまうシーンは、都会に暮らす者なら誰もが身に覚えのある自分本意な“集団心理”である。
近年の大作志向に反し、わずか100分というランニングタイムも手際が良く、人生賛歌である本作の精神性を象徴するのはフロドと名付けられたサムの愛猫だろう。「ミャー」の1つも鳴き事を言わない彼に支えられた“行きて帰りし物語”は、愛猫家には堪らないことを付け加えておきたい。
『クワイエット・プレイス:DAY1』24・米
監督 マイケル・サルノスキ
出演 ルピタ・ニョンゴ、ジョセフ・クイン、アレックス・ウルフ、ジャイモン・フンスー
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