「虚言少年」京極夏彦 2011集英社
2009~2010『小説すばる』+書き下ろし
京極夏彦が日本人のアイデンティティーの根源を小学時代に求めた問題作!
政治も社会のあり方も、小学生時代からなんら変わっていない。
果たして、この国にどれだけの大人が居るのだろうか。
実は、ほとんどが子どものままではないのか。
我々はどこから来て、どこへ行くのか!
ソノ一・三万メートル
内容とは直接関係ないがひっかかってしまった言葉「絶対安全と高を括った連中が鼻を明かされた時の胸のすくような歓び」「失敗はヨロコビに満ちている」う~ん、残念。
ソノ三・月にほえろ!
涙なくしては読めまい。
ソノ七・屁の大事件
甘い!屁とはそんな生易しいものではない。
やはり小学生時代の話だ。隣の教室から騒がしい声がし、生徒たちが廊下にあふれ出す。こちらは授業中なので、先生だけが様子を見に行く。だが、先生が戻ってくる前に、その原因となった臭いがこちらの教室にも入り込んだ。迂闊にも担任が開けっ放しにしたドアから、隣の教室の騒ぎの元が入り込んだのだ。それは毒ガスと呼ぶのがふさわしいものだった。
当然授業は打ち切られ、3クラスが避難する事態となった。原因となったクラスでは何人もが体調を崩して保健室へ運ばれ、しばらくすると救急車が到着した。何人病院へ運ばれたのかは知らない。何があったのかの説明は無かった。屁が原因であるために、これほどの大騒ぎになっても説明会も行われなかった。
わたしは小一時間して教室に戻されたとき、その現場を覗き見た。まだにおいが残り、机や椅子が散乱している。そのクラスの担任が他の先生と一緒にマスクをして掃除をしていた。どうやら実も飛び散っていたらしい。
原因となったのは身体の大きな児童だった。身体は先生よりも大きく、太り気味のおとなしい男だ。彼とはわたしも低学年のときに同級生だった。事件について当人と話しをしたはずだが、何を話したのか覚えてはいない。これほどの事件であっても、こどもにはおなら騒ぎに過ぎなかったのだろう。先生たちが何も無かったかのようにし、その後そのことに一切触れなかった所為かもしれない。
地域の人口爆発の時代のことだったので、すぐに分校に移ったわたしはその後の彼を知らない。
いま思えば、あれは爆屁とでも呼ぶべきものだったろう。あのとき、わたしはもっと記憶に残るようなことをしておくべきだったのだろうか。