「安部公房全集013 1960.09-1961.03」 1998新潮社(2007、2刷)
「安部公房全集014 1961.03‐1961.09」 1998新潮社(2007、2刷)
一冊6000円もするような全集の再刷があるなんて、やっぱり安部公房ってすごいのかな。
今回の013と014は、ラジオドラマ「お化けが街にやって来た」(312回)の前編後編分冊。
タイトルから「何かが道をやってくる(レイ・ブラッドベリ1962)」のオマージュかと思ったら、お化けの方が先だった。へー。
で、これまでの全集にも入っていない?初収録?初出版?
戯曲がこの全集の016に収録されているそうだ。
「ひげの生えたパイプ」と同様、アクティブな「ドラえもん」ですね。
『とてつもなく善良で、とてつもなく幸福な二人のお化けの話を書いてみたいと思います』
そういう言葉で始まる物語。
とてつもなく善良であることは大迷惑。
とてつもなく幸福?それは消えること?
お化けの3カ条って何だったのか。
お化けを通して自分の欲望(本心・本性)を知る。
なぜお化けの親子が川の中の家に戻れなくなったのか?お化けの父親はどこへ行ったのか、本当に消えたのか。答えなし。
二人の名付け親になったずるそうなかまぼこ屋のおばさんはどこへ行ったのか。何かの伏線だと思ったのに、そのまま登場しなくなる。
お化け屋敷のオーナーがそんなに簡単に引き下がるもんか!必ずもう一波乱あると思っていたら、出てこない。
なんだかとっても物知りなんだけれど、善悪の判断と価値観を持たないお化けたち。(それがだんだん変化していくのを観察し考察すべき?人間に成りたい娘お化け・・・成りたい?どこから?だまし合いをする人間ばかりを見ているのに?)
お化けは脳みそを学校の先生にすれば、教科書に書いてあることが全部わかるらしい。それなのに、唾液の栄養成分を医者に訊きに行ったりする。そんな苦労していかなくても、医者の脳味噌にすればいいだけだろ。っていうか、個人に化ければ、その人間の考えていることまで全部わかるってことじゃないのか?うん、学力チェックのエピソードは失敗だわ。戯曲の方では直しているかカットしているんじゃないだろうか。魚に化けると魚の言葉がわかるというのも…とりあえず知らなかったんだからいいけど、つじつま合わせが難しくなりそうな設定だね。
多々木が非常にわかりやすい悪人であるのは、口が上手いが嘘やごまかしばかりで人をだますことしか考えていないのが見え見えであるからだろう。それでいてみんなわかっていながらも手を出せない当たり、まさしく政治家の姿。読者(聴取者)の気持ちをコントロールするには格好のキャラクターだね。
014(P201) 「この辺の土地にはたっぷり放射能が…」「ミミズがその泥を食って…」「放射能ミミズを集めて…原子力発電…」
その逆は2011年に多くの人が考えていたよね。ミミズ(生態系)を使って放射能除去…とか。
014(P354) 「まるでネズミー・ランドの遊園地だ!」って、1961年じゃまだ東京ネズミ―ランドだって計画すらないわ!すごいぞ!安部公房!
で、まあ、理の無い思い遣りは『責任を取る』チャンスを奪うわけで、ちょっと面倒くさかったぞ。納得するのが。一郎と父ちゃんのやり取りは。
メロドラマに否定的な安部公房が、人魚姫的なお話でいいんでしょうか。
あ、だからか。だから、それまでの全集(本人が生きている間)に入れるのを拒んだのか!