先日、「バナナの芋(真茎)を食い荒らす害虫」と題して、バナナの芋(真茎)を加害するバショウゾウムシの記事を書きました。
前回は、バショウゾウムシとバショウツヤオサゾウムシの見分け方について書きましたが、今回はその続報となるバショウゾウムシの防除方法についてです。
バショウゾウムシは世界中のバナナ生産地域で重要な害虫として扱われています。
諸外国では多くの場合、本虫の対策に農薬(殺虫剤)が使用されています。
しかし、農林水産消費安全技術センター(FAMIC) の農薬登録情報ダウンロードで調べた結果、2010年末現在、国内ではバショウゾウムシを対象とした農薬は登録されていません。
そこで、農薬を使わないバショウゾウムシ対策の参考となる情報を探しました。
そして、「Organic banana 2000(PDF:1.48MB)」という、2000年に出版されたカリブ海周辺地域でのバナナの有機栽培の文献集を見つけました。
この文献集のp.133-142に、「Pest management in organic systems」と題して、バナナの有機栽培をする上での害虫等管理について書かれている文献がありました。
さらに、その中に「Banana weevil(バナナのゾウムシ)」と題した章がありました。
読んでみて、内容が面白かったので抜粋・要約して紹介します。
この章では、主に有機栽培におけるバショウゾウムシの防除方法について書かれています。
ここでは、バショウゾウムシの対策として
が大切だとして、それぞれ具体策が書かれています。
この方法は、古くなった風呂桶等でも数回に分けて苗を植えつける場合なら使えそうです。
因みに、54℃の温湯処理では、線虫が死滅し、ゾウムシの成虫もわずかな量に抑制されるとも書かれています。
この他にも、バイオ苗(茎頂点培養苗)はゾウムシやウィルス病等が侵入・感染していない苗なので、積極的に使いたいです。
病害虫が大発生(概ね30%以上の株が被害を受けた状態)した場合に、一時的に圃場で栽培する作物を別の作物に替えることがあります。
病害虫が共通していない作物を順番に作る、いわゆる「間作」です。
しかし、バショウゾウムシが加害しない作物を数年間栽培しても、次にバナナを栽培するとまたバショウゾウムシの害が発生するそうです。
原因は、バショウゾウムシは定住性が強いため。
バショウゾウムシの定住性が強いのは、本虫は翅(ハネのこと)はあるけれど飛ぶことができないこととも大きく関わっていると思われます。
また、間作を行っても、圃場周辺にバナナの残渣が残っていたり、バナナ圃場が隣接している等の場合は、間作の效果は低いと思われます。
これは、前述の内容と重複しますが、ゾウムシの繁殖場所(残渣)は除去した方が個体群密度は下がるという話です。
ただし、バナナの残渣は一長一短はあるものの、やっぱり敷き草にされている例が多い様です。
台湾のバナナ文献「香蕉保護技術」にも、以下の様に仮茎を用いた罠の設置方法が書かれています。
「香蕉保護技術」の方法だと40個/10aの罠を設置し、さらに発生予察にしか使えないことになります。
これをバショウゾウムシの個体群密度を抑えるために用いると、頻繁に仮茎断片を取り替えることになるのでしょう。
確かに「必要とする材料と労力が過度にかかる」というのが大きな欠点です。
また、研究者が用いている「情報化学物質」は、恐らく化学合成フェロモン剤だと思われます。
フェロモン剤(誘引剤)は、殺虫剤ではありませんが、農薬取締法では農薬の1つとされています。
つまり、国内でバショウゾウムシを対象とした「情報化学物質」はない、ということになります。
これら方法は魅力的ですが、実現性に欠ける様に思います。
ここで書かれているフタフシアリの仲間とは、ツヤオオズアリ(Pheidole megacephala)とタイワンシワアリ(Tetramorium guineense)です。
ツヤオオズアリなら沖縄県なら探せば見つかるかもしれません。
しかし、ウガンダとタンザニアでは、フタフシアリ(特にツヤオオズアリ)がバナナの株で広範囲に生息しているにも関わらず、それらによるゾウムシの防除効果は確認されていないそうです。
国内でアリをゾウムシの天敵として利用する前に、アリがいる株でのゾウムシの寄生状況等を調べる必要があると思われます。
また、昆虫病原糸状菌類の例として白きょう病菌(Beauveria bassiana) や 黒きょう病菌(Metarhizium anisopliae)が、昆虫病原性線虫の例として Steinernema spp. や Heterorhabditis spp. が、内生菌の例として非病原性のFusarium spp.が挙げられています。
これら(の仲間)は、日本国内でも分布が確認されていますので、同様の研究(效果確認)をする価値があるかもしれません。
以上の様に、すぐに利用できる対策から今後の研究発展に期待するものまで様々ですが、興味深い内容だと思います。
沖縄県内でも多くの民間療法的なゾウムシ対策がありますが、そういったものも效果まで確認して情報を共有すれば、農薬を使わないゾウムシの防除方法が確立されるかもしれません。
そして、今よりもバナナの栽培が簡単になる日が来ることを願っています。
〇参考文献
・「Pest management in organic systems」.2000.Mark Holderness・John Bridgel・Clifford S. Gold.Organic banana 2000(PDF:1.48MB);p.133-142.
・「香蕉保護技術」.黄新川・鄭充・荘再揚.1990.台湾省政府農林庁・台湾省青果販売組合.
〇参考サイト
・農林水産消費安全技術センター(FAMIC) の農薬登録情報ダウンロード
前回は、バショウゾウムシとバショウツヤオサゾウムシの見分け方について書きましたが、今回はその続報となるバショウゾウムシの防除方法についてです。
バショウゾウムシは世界中のバナナ生産地域で重要な害虫として扱われています。
諸外国では多くの場合、本虫の対策に農薬(殺虫剤)が使用されています。
しかし、農林水産消費安全技術センター(FAMIC) の農薬登録情報ダウンロードで調べた結果、2010年末現在、国内ではバショウゾウムシを対象とした農薬は登録されていません。
そこで、農薬を使わないバショウゾウムシ対策の参考となる情報を探しました。
そして、「Organic banana 2000(PDF:1.48MB)」という、2000年に出版されたカリブ海周辺地域でのバナナの有機栽培の文献集を見つけました。
この文献集のp.133-142に、「Pest management in organic systems」と題して、バナナの有機栽培をする上での害虫等管理について書かれている文献がありました。
さらに、その中に「Banana weevil(バナナのゾウムシ)」と題した章がありました。
読んでみて、内容が面白かったので抜粋・要約して紹介します。
この章では、主に有機栽培におけるバショウゾウムシの防除方法について書かれています。
ここでは、バショウゾウムシの対策として
1. 健全種苗の確保 2. 適切な作付け体系 3. 作物残さの処理 4. 罠の設置 5. 生物学的防除 |
が大切だとして、それぞれ具体策が書かれています。
1.健全種苗の確保 ・ 吸芽の皮を剥くとゾウムシの卵はほぼ除去できる。 ・ 特にゾウムシ被害が大きい吸芽は苗として用いない。 ・ 苗を温湯処理する(ゾウムシの幼虫と卵は43℃の湯に3時間浸漬すると死滅する)。 |
この方法は、古くなった風呂桶等でも数回に分けて苗を植えつける場合なら使えそうです。
因みに、54℃の温湯処理では、線虫が死滅し、ゾウムシの成虫もわずかな量に抑制されるとも書かれています。
この他にも、バイオ苗(茎頂点培養苗)はゾウムシやウィルス病等が侵入・感染していない苗なので、積極的に使いたいです。
2.適切な作付け体系 ・ 被害が多い場合は、間作する(バナナ以外の非寄主作物を作る)。 → 年間25m未満しか移動しないとされるバショウゾウムシでは被害が軽減しづらい。 |
病害虫が大発生(概ね30%以上の株が被害を受けた状態)した場合に、一時的に圃場で栽培する作物を別の作物に替えることがあります。
病害虫が共通していない作物を順番に作る、いわゆる「間作」です。
しかし、バショウゾウムシが加害しない作物を数年間栽培しても、次にバナナを栽培するとまたバショウゾウムシの害が発生するそうです。
原因は、バショウゾウムシは定住性が強いため。
バショウゾウムシの定住性が強いのは、本虫は翅(ハネのこと)はあるけれど飛ぶことができないこととも大きく関わっていると思われます。
また、間作を行っても、圃場周辺にバナナの残渣が残っていたり、バナナ圃場が隣接している等の場合は、間作の效果は低いと思われます。
3.作物残さの処理 ・ バナナを更新する際に、古株の仮茎及び根塊を除去する。 ・ 残渣の敷き草は株元から50~100cm離して敷き草とする(効果は不明)。 |
これは、前述の内容と重複しますが、ゾウムシの繁殖場所(残渣)は除去した方が個体群密度は下がるという話です。
ただし、バナナの残渣は一長一短はあるものの、やっぱり敷き草にされている例が多い様です。
4.罠の設置 ・ 仮茎の断片を罠として用い、ゾウムシの個体群密度を下げることができる。 → しかし、必要とする材料と労力が過度にかかる。 → 研究者は、情報化学物質で性能を高めた罠を用いて調査を行っている。 |
台湾のバナナ文献「香蕉保護技術」にも、以下の様に仮茎を用いた罠の設置方法が書かれています。
圃場内に穴(4個/a)を掘る。 収穫後の仮茎を45~60cmの程度に切り、縦に半分に切って、切り口を下にして穴に設置する。 降雨後、落し穴を開け調査し、4個の穴に誘引されたゾウムシの総数が8個体以上のとき(2個体/穴以上、株出し圃場では3個体/穴以上)は直ちに防除(農薬散布)を実施する。 |
「香蕉保護技術」の方法だと40個/10aの罠を設置し、さらに発生予察にしか使えないことになります。
これをバショウゾウムシの個体群密度を抑えるために用いると、頻繁に仮茎断片を取り替えることになるのでしょう。
確かに「必要とする材料と労力が過度にかかる」というのが大きな欠点です。
また、研究者が用いている「情報化学物質」は、恐らく化学合成フェロモン剤だと思われます。
フェロモン剤(誘引剤)は、殺虫剤ではありませんが、農薬取締法では農薬の1つとされています。
つまり、国内でバショウゾウムシを対象とした「情報化学物質」はない、ということになります。
これら方法は魅力的ですが、実現性に欠ける様に思います。
5.生物学的防除 ・ バショウゾウムシの天敵利用 → フタフシアリの仲間(以下、アリ)が有効な捕食者であると報告されている。 → 仮茎の断片でアリの巣作りを促進し、それを他のバナナの株に移すことを試みた。 → アリを昆虫病原物質(entomopathogen)と共に用いたときに最も良い結果が得られた。 ・バショウゾウムシの生物学的防除について、以下の様な研究が行われている。 → 昆虫病原糸状菌類や昆虫病原性線虫、内生菌を利用した研究。 → 情報化学物質(semiochemicals)を誘引剤として罠と組み合わせて用いる研究。 → 上記の誘引剤と病原性微生物と組み合わせて使用する研究。 |
ここで書かれているフタフシアリの仲間とは、ツヤオオズアリ(Pheidole megacephala)とタイワンシワアリ(Tetramorium guineense)です。
ツヤオオズアリなら沖縄県なら探せば見つかるかもしれません。
しかし、ウガンダとタンザニアでは、フタフシアリ(特にツヤオオズアリ)がバナナの株で広範囲に生息しているにも関わらず、それらによるゾウムシの防除効果は確認されていないそうです。
国内でアリをゾウムシの天敵として利用する前に、アリがいる株でのゾウムシの寄生状況等を調べる必要があると思われます。
また、昆虫病原糸状菌類の例として白きょう病菌(Beauveria bassiana) や 黒きょう病菌(Metarhizium anisopliae)が、昆虫病原性線虫の例として Steinernema spp. や Heterorhabditis spp. が、内生菌の例として非病原性のFusarium spp.が挙げられています。
これら(の仲間)は、日本国内でも分布が確認されていますので、同様の研究(效果確認)をする価値があるかもしれません。
以上の様に、すぐに利用できる対策から今後の研究発展に期待するものまで様々ですが、興味深い内容だと思います。
沖縄県内でも多くの民間療法的なゾウムシ対策がありますが、そういったものも效果まで確認して情報を共有すれば、農薬を使わないゾウムシの防除方法が確立されるかもしれません。
そして、今よりもバナナの栽培が簡単になる日が来ることを願っています。
〇参考文献
・「Pest management in organic systems」.2000.Mark Holderness・John Bridgel・Clifford S. Gold.Organic banana 2000(PDF:1.48MB);p.133-142.
・「香蕉保護技術」.黄新川・鄭充・荘再揚.1990.台湾省政府農林庁・台湾省青果販売組合.
〇参考サイト
・農林水産消費安全技術センター(FAMIC) の農薬登録情報ダウンロード
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