日本刀鑑賞の基礎 by ZENZAI  初心者のために

日本刀の魅力を再確認・・・刀のここを楽しむ

短刀 義助 Yoshisuke Tanto

2016-08-06 | 短刀
短刀 義助


短刀 義助

 九寸強の、先反りの付いた造り込み。重ねは控えめに切り込んだ際の刃の通り抜けを求めたもので、南北朝時代からの相州物の特質を良く伝えている。これも先端辺りの棟焼が長く仕立てられている。杢目を交えた板目鍛えの地鉄が個性的な作で、常に比して「綺麗」に感じられる。微妙に質の異なる地鉄を織り合わせる技術は、刀身をより強靭なものにする工夫だが、鍛着が難しく疵になりやすい。本作は密に詰んで締まった感があり、映りや地沸の付き方の違いが地景となっている。視覚的には杢目によって躍動感が生み出され、それが刃中に及んで刃境のほつれや刃中の砂流しや金線に変じ、強味のある景色となっている。



短刀 義助作 Yoshisuke Tanto

2016-08-05 | 短刀
短刀 義助作


短刀 義助作

 島田鍛冶は相州鍛冶との技術協力があり、相州風の刀を遺している。ところが、備前伝互の目丁子出来、直刃、湾れ刃など作域に幅があり、各伝においてどれも上手である。この短刀は、あまり強く肌立つことなく小板目肌状に鍛えられた中に板目の流れた肌が地景を伴って現れ、刃文は下半が互の目、上半も互の目ながら帽子の返りが深く、棟焼に連なる部分があり、棟焼も互の目が強く、これによって皆焼状にも見える。沸匂深々と付いて明るく冴えた焼刃は柔らか味があり、帽子にはうっすらとした玉状の沸凝りがあり、これも相州古作に連なる特徴といえる。

刀 相州住廣正 Hiromasa Katana

2016-08-04 | 
刀 相州住廣正


刀 相州住廣正

 室町時代中期の宝徳年紀のある廣正。磨り上げで一尺九寸弱だから、元来は二尺一寸前後の片手打ちの刀。相州刀によくある寸法だ。このくらいの刀が最も扱い易いということが良く分かる。刀身中ほどを越える大ぶりの彫刻も相州刀の特徴。地鉄は良く詰んだ板目肌で、荒ぶるところなく、一見小板目肌に感じられ、地沸が厚く付いて地景が目立ち、杢状の肌が綺麗に浮かび上がって見える。特に焼の入った辺りに肌目が強く立ち、これが相州刀独特の景色となっている。刃文は不定形の乱れで、所々地に突き入り、長く焼かれた棟焼に連なり、この合間に飛焼が施されている。沸が濃密に表れた刃中は、肌目に沿った沸の流れ、すなわちほつれ、沸筋、金線、砂流しが強く屈曲して流れ、帽子も調子を同じくして火炎状に掃き掛けて返る。

脇差 廣次 Hirotsugu Wakizashi

2016-08-03 | 脇差
脇差 廣次


脇差 廣次

 刀を磨り上げて脇差に仕立て直したもの。地刃の出来から相州廣次と極められている。刃長一尺九寸弱だから、片手打ちの刀。相州刀に間々みられる二筋樋が掻かれ、茎の下端部に剣巻龍の彫刻と八幡大菩薩の文字彫痕が窺える。鋒が伸びて迫力がある。板目鍛えが強く肌立ち、地沸が付いて叢となり、地中の飛焼と絡んで景色を成す。刃文は焼幅の広い互の目で、焼頭が不定形に乱れて一部地に深く付き入り、鎬筋にかかるように飛焼が顕著。刃文の様子は、刀身研磨に刃採りがされていないために写真では見えにくく、構成は良く分からないが、子細に観察すると、匂と沸の様子から複雑な出入りであることが分かる(むしろこのような研磨のほうが分かりやすい場合がある)。帽子は火炎状に乱れて返る。



短刀 相州住廣次 Hirotsugu Tanto

2016-08-02 | 短刀
短刀 相州住廣次


短刀 相州住廣次

 両刃造短刀というと、まず備前刀工が思い浮かぶのだが、相州鍛冶にもある。米軍が用いているダガーナイフと構造が似ている。鎧の隙間を狙うという意味では頗る実用的だが、鎬筋が厚く刃先が鋭く、鋒も鋭いことからおそらく造と同様に製作が難しいのであろう、このタイプの短刀はとても丁寧な造りだ。恐ろしい武器の存在感を通り越して美しさが極まっている。質の良い作が多いことから高級武将の持ち物ではないかと考えられているのも、このあたりに理由がある。
廣次は小田原相州鍛冶の一人で、北条家に仕えた。他の相州鍛冶と同様に皆焼状の刃文構成を特徴とした。この種類の短刀は比較的身幅が狭いことから皆焼とはしなかったのであろう、沸を強く意識した深い互の目に沸足の入る仕上がり。刃中沸深く沸強く、地沸も強く付いて焼の深い帽子も沸が充満している。

刀 相州住康春 Yasuharu Katana

2016-08-01 | 
刀 相州住康春

 
刀 相州住康春

 小田原の北条氏に仕え、相州刀の新時代を切り拓いたのが康春。義助などと共に島田から移住した一人である。この刀は、刃長二尺二寸強、反りが六分近くあり、先反りの付いた菖蒲造。横手筋のない鋒は鋭く、姿は恐ろしい。その一方で剣の彫物が刀身をすっきりと見せている。縮緬状に揺れた板目鍛えの地鉄は良く詰んで地沸が付き、これを分けるように地景が入り組む。刃文は尖り刃交じりの互の目。焼深く、互の目が刃境から離れて飛焼状に見える部分もあり、皆焼を狙っているわけではないものの、焼の出入りは複雑で、変化に富んでいる。島田鍛冶の流れを汲む鍛冶ながら相州古作を手本として、戦国期の同時代を強く意識した造り込みとしている。□