手作り感覚と野性味。ウィスペルウェイ氏のチェロリサイタルで、手に取るように感じた感覚であった。その曲に見合ったおそらく演奏者がとことん研究し考え抜いてこうしようと決めた成果を、羊腸(ガット)と木とを瞬間的に摩擦させながら、大胆に、勇気を持った形で、バッハやレーガーの世界に誘ってくれた姿に心打たれた。音が出るようにするまで、そして出てから音程を作るまで、そして音程が作られてからその音程を出し切るまで、区切れの見られない楽器でその過程をアナログ的な方法ですべて行っていて、それ自体がリスクに満ち溢れたものであるのだが、そのリスクぎりぎりの、いや、弓の動かし方から見たら、ぶつかったり離れたり、もうリスクを超えているのかもしれないような状態で手作りの音楽を聴かせてもらえた、ということにも心打たれた。音が踊り弾んでいた、そして呼吸していた、組曲には舞曲が何曲か含まれていたが、私には当時の人たちが靴音を立てながら軽やかに、または情熱的に、踊っている姿が目に浮かんできた。皮膚から体の奥底に実感をもって伝わってきた躍動感は決して忘れることはないだろうと思う。
曲についての予備知識もあまりなく、あまりよい聴き手ではなかったと思うのだが、こういう聴き方は今回しかできなかっただろうから、よかったのかもしれない。心もだが体にも染み入った演奏だった。彼の演奏に夢中になる方たちの気持ちが手に取るように分かった。私も夢中になったから。本当に、本当に、素敵な演奏会だった。
ちなみに無伴奏組曲第6番のガヴォットによく似たピアノ曲があったような気がしてならないのだが今思い出せない。どこかで聴いたことがある懐かしいメロディーだと感じたのだが。