数日前、丸善で開催された銅版画家、山本容子さんのサイン会。スペインの詩人ヒメネスの名作「プラテーロとわたし」の刊行を記念してのものだったのですが、私もこの本を買っていたため、直筆のサインをしていただけることに。
山本容子さんの絵は、私の青春時代、一世を風靡していたもの。よしもとばななの「TUGUMI]の表紙にも、素晴らしく印象的な花の絵が使われていたり、トルーマン・カポーティーの短編小説を洒落た装丁の小ぶりな本に仕立てたものにも、彼女の絵が使われていたっけ(私も、これらの本を持っています)。
大学生の頃、新宿の伊勢丹で、山本容子さんのデザインの犬の形をした小さなブローチを買ったこともあったっけなあ……という具合にかなり熱烈なファンだったので、じかにお目にかかれたのはすっごくうれしかった!
本にサインをしていただいた上に、記念写真もOKということでちゃっかり、母と一緒に写真におさまりました。それもとても素敵なことなのですが、この本のプラテーロというロバがとっても可愛い🐎 のであります。
銀色をした驢馬だというのですが、大きな耳、優しい訴えるような目……本当に、うっとりするような可愛さなのです。絵の背景となっているのはみな温かなオレンジ色で、これはスペインの大地の色、ロバのあたたかな体の色――そして、プラテーロと詩人ヒメネスの間の深い信頼の色なのでしょうね。
この見開きページでも右側にいるのは、バケツに汲んだ水をたっぷり飲んだ後のプラテーロ。自分の後ろにいる人間をちらりと見る、この横目がとても、可愛い!動物の好きな人なら、「ああ、こんな目ってするよね」とわかるのではないでしょうか? さすが、愛犬ルーカスをたくさんの魅力的な絵に仕立て上げた山本容子さんならではの、ピタリと決まった線です。
左側の眠りにつく前らしき、ちょっとほくそ笑んだ表情のプラテーロも、とってもいい!
と、絵の魅力ばかり取り上げましたが、この「プラテーロとわたし」――今まで、有名な題名しか知らず、今度初めて読んだのですが、讃嘆するしかない素晴らしい散文詩です。ノーベル賞詩人というのも、むべなるかな。
崇高な、星のごとくきらめく言葉が、次々と書き連ねられ、心の奥底にまで、言葉の力が降りてくるのを感じさせられます。
死んでしまったプラテーロに捧げる詩人の最後の詩「モゲールの空にいるプラテーロへ」を引用してみると――
「走るプラテーロ いとしい小さなロバよ。わたしの心を 何度も連れていってくれた わたしの心だけを!
サボテンやアオイ スイカズラの茂るあの道へ。
お前のことを書いた この本を捧げよう 今はお前も読めるだろうから この本は天国で草を食べるお前の
魂へ届く。 お前と一緒に天に昇った わたしたちのモゲール あの野山の魂が届けてくれる。
その本の背中に乗って わたしの魂も昇る。 花咲く野ばらの中をさまよい昇りながら 日ごとに より良く
より穏やかに より澄んでいく。
そうわたしは知っている。 夕暮れの時間 ヨシキリの声と オレンジの香りの中を たどり着く。
ゆっくりと 思いにふけりながら 寂しいオレンジ畑を越えて お前に永遠の子守歌をささやく松の木へ。
プラテーロ 幸福なお前が 不滅の薔薇の咲く野原から わたしを見ていることを。アイリスの前に佇む
わたしを。 土に眠るお前の心臓から咲いた アイリス」
会場に展示されていた山本容子さんの「プラテーロとわたし」のリトグラフの中で、これがとても気に入ってしまい、とうとう購入してしまいました。早速、自室の壁にかけたとこををパチリ。
プラテーロの背中に乗る詩人の抱えているのも、大きな黄色いアイリス。その馥郁たる香りが、夜空の中から漂ってきそうな感じさえしてしまいます。山本容子さんに聞くと、かのスペインの地には、とても美しいアイリスの花が咲くのだと。