懐かしいアルセーヌ・ルパンの世界……幼稚園から小学校時代まで繰り返し愛読した、ポプラ社のシリーズ、そして、学生時代に読んだ創元推理文庫の「アルセーヌ・リュパン」シリーズから、それぞれ2冊ずつ、離れのテーブルの上に広げてみました。
ルパンシリーズは、子供時代から若い頃、何度も読みふけったもの。実を言うと、シャーロックホームズものより、ルパンに対して思い入れがあると言っても過言ではありません。
今では、熱心なシャーロキアンや、アガサ・クリスティーのミステリに押され気味なようですが、二十世紀初頭のフランスの香り高さ、そして冒険がまさに冒険だった時代のロマンチシズムが感じられて、私はとても好きです。
ことにポプラ社から出ているシリーズは、子供向けに、南洋一郎さんが訳されたものとして名高いのですが、もう一つ私が虜になったのは、挿絵の魅力! ルパンは片眼鏡(モノクルとかいうらしいですが)と黒いシルクハット🎩が何ともダンディな、素晴らしい好男子に描かれているし、毎話ごとに登場する美女や美少女は、本当のパリジェンヌでもこんな人いるのかな? と思ってしまうほど。
六歳の時初めて読んだ「青い目の少女」は、一生忘れられない思い出となっているし、他にも「ルパン 最後の冒険」、「奇岩城の謎」、「虎の牙」など、忘れがたい傑作が粒ぞろい。
ホームズの時代はまだ19世紀末で、ホームズやワトソンは馬車に乗っていましたが、ルパンは自家用車――ずっと現代的なのであります。発明されたばかりの車は、鋼鉄の宝石といっていいほど美しかったし、第一次世界大戦頃のフランスは、文化的にも輝いていたはず。
ルパンの物語には、首都パリだけでなく、奇岩城の舞台となった北フランスの海岸のエトルタの針といわれる景勝地や、中部フランス、はたまた秋の葡萄畑などの風景が、美しい背景となって現れています。
創元推理文庫で井上勇という方が訳した文章も、古風と言えば古風、しかし今のミステリにはない典雅さがあって、うっとり。
例えば、「謎の家」では、エンディングの文章はこんな風……「そして、船は河を過ぎ、運河を通り抜けて、古い町の方へ、うるわしいフランスの風光へと向かっていた。
その夜、たいへんに遅くなって、アルレットはひとりで、甲板の上に横たわっていた。そして星や、おりから空にかかっていた月に向かって、しんみりとした、なごやかな喜びに満たされた、甘美な思いと夢を託していた」――とても文学的な香り高さも、ルパンものの魅力なのでは?
私ももう一度、今度時間のある時に「ルパン 最後の冒険」や「ジェリコ公爵」を再読したいもの。 ジェリコの方は、厳密にはルパンではなく、ルパンそっくりの人物が登場する冒険譚なのですが、南フランスの古城や、「エレン・ロック」という謎の人物(これは、美しい庭園の名前でもあります)などなど、魅力的な雰囲気が忘れがたい小説!
ルーさんのコメント、うれしく読ませていただきました
そうです。私も、アルセーヌ・ルパンの洒落た舞台や雰囲気が大好きなのです。 典雅で、その癖冒険にあふれた世界にうっとり。 短編の方も面白くて、タイトルは忘れたのですが、日時計をモティーフに使ったものや、「八点鐘」のどこかの古城の上にずっと昔殺された夫妻の死体があったり…とか、想像力豊かな世界に圧倒されたものでした。
とても面白いルパンシリーズですが、ルパンを演じる映画スターは、ちょっと思い浮かびませんね。
また、ルーさんの言葉を聞かせてくださいませ。
娘が小学校4年生くらいのとき、書店で、ポプラ社のルパン全集を買い、すこしずつ何冊か買いました。娘のために買いながら、私が楽しく読んで、新潮文庫も、全部読み直しました。ルパンの騎士道精神みたいなものとベルエポックのヨーロッパの雰囲気は、今でも、老年期の私の胸を高鳴らせます。
急に夏っぽくなり、昨日から半袖で過ごしています。
ルーさんからルパンの話をお聞きして思ったのですが、NHKなどで、よくクリスティーや、シャーロック・ホームズのドラマを、(飽きることなく何回も)再放映しているのに、ついぞ、ルパンものは見たことがないですね。
どうしてだろう? フシギ。
若い頃は、アガサ・クリスティーが好きで、ポアロやマープルものの文庫本を人にかしたりしていたのですが、なぜか、好意的な評が返ってくることはあまりなく、「どれも同じような話で飽きた」とか「ポアロなど、登場人物に魅力がない」とかバッサリ。
それでも、一番長く好きでいるのは、ルーさんと同じように、アルセーヌ・ルパンシリーズです。
ストーリーがとても面白いという他に、やっぱり、二十世紀初めの頃のフランスの雰囲気が、好きなせいだと思います。
大人になってから新潮社や創元社の文庫本をそろえたりしたのは、ルーさんと同じですが、それでも私の心が帰っていくのは、子供の頃、読んだポプラ社のシリーズ!
子供向けにリライトされ、話もカットされている所が多々あるのはわかっているのですが、それでもハラハラする展開や、挿絵の魅力……ずっと昔、小学校に入学する直前の春休み、母に連れられて、小学校そばの小さな市立図書館に連れられて行ったのですが、そこの木製の棚にのっていたポプラ社のルパン物「青い目の令嬢」を初めて、手に取った時のことは、今も忘れられません。
その時の小さな図書館の、歩くとギシッと音を立てた木造の床とか、そこからのぼった埃や木の匂いだとか――思い出すたび、なんだかほっこり幸せな気分になります。