映画「黄色いロールスロイス」を観る。Amazonの格安のDVDとして購入したのだが、予想にたがわず、面白かった☆
星評価で言うなら、五つ星満点のところ、☆☆☆☆くらいの感じです。 今ではもうすっかり見られなくなったオムニバス式の映画で、全三篇。こういうオムニバス形式の映画って、1960年代の頃は、流行っていたような……しかし、私もこの映画以外観たのは、ソフィア・ローレン、マルチェロ・マストロヤンニ共演の「昨日・今日・明日」だけだったように思います。
さて、この三篇のショートストーリー。これが、いずれも上質な短編小説を読んだ後のような満足感を感じさせてくれ、しかも小粋なのである。物語をつなげるピースとなる存在は、題名ともなっている黄色いロールスロイス。この美しい車が、持ち主を変えながら、ひとときの人間ドラマを紡いでゆく。
この人間ドラマを演じる俳優陣がまた、素晴らしい!! 最初は競馬狂いのとある侯爵とその夫人の物語。この夫妻を何と、レックス・ハリスンとジャンヌ・モローが演じている。 私は年取ったジャンヌしか知らないのだけれど、若い頃の彼女は、後年のアクの強さがあまり感じられないのに驚く。 レックス・ハリスンの方は、「マイフェアレディ」の洒脱な紳士そのままの風貌。
ハリスン侯爵は、妻エロイーズ(これを、ジャンヌ・モローが演じているってわけ)の誕生日祝いに、珍しい黄色のロールスロイスを贈るものの、その座席で彼女が、若い男と浮気をしているのを目撃してしまう。
この難癖がついたロールスロイスは返品され、また次の持ち主の手に――。今度の持ち主は、アメリカからやって来たギャングとその情婦。若い情婦を、これまた若かりし日のシャーリー・マクレーンが演じている。しかし、最初の内は、画面にあらわれた彼女が誰だかわからず、「このチャーミングな女優は誰だろう?」と思い続けて、後でキャスティングを見て、S・マクレーンであることを確認した時の、私の驚きといったら!
彼女、若い頃はこんなに可愛かったのか!? 「アパートの鍵貸します」をずっと昔観た覚えがあるけれど、シャーリー・マクレーンってこんなに魅力的な女優だったっけ? このマクレーン演じる情婦が、愛人のギャングがアメリカへ商用(縄張り争いの抗争のため)へ出かけていったあと、アラン・ドロン演じる写真家志望のジゴロとドライブに出かけるのだが、この顔合わせがまた、素晴らしいのだ。
ヨーロッパの色とアメリカのフレッシュな色彩を、カンバスの上で混ぜたら、思いもかけぬ絵がかけたというような――。
情婦はドロンに恋を感じ、ドロンも彼女に真剣な恋を感じるのだが、彼女は自分たちのロマンスを全うさせたら、ドロンが殺されるに違いないと思い、ギャングのもとへ帰ってゆく。彼らの乗ったロールスロイスが目の前を駆け去ってゆくのを見つめながら、彼女の写真をそっと破り捨てるドロン。この幕切れが、なんとも粋で、「ああ、昔の映画ってよかったなあ」と思わせられてしまう。
掉尾を飾るのは、大女優イングリッド・バーグマン。アメリカからやって来た尊大な未亡人である彼女は、ユーゴスラビアの国王に会いにいくつもりなのだが、そこへいつの間にか、ゲリラの闘士である青年(これを、オマー・シャリフが演じている)をロールスロイスにかくまい、国境を越える羽目になる。ゲリラ活動に巻き込まれることとなったバーグマンは、彼らを車にすし詰めに乗せて、何度も山を下りるのだが、あの美しい車がこんな英雄的なことに使われるとは――粋さも、ここに極まれり!
当時、五十前だったバーグマン。今見ても、本当に美しい。