母とバスの旅で奥湯河原温泉へ行ってきた。ここは神奈川県の箱根近くで、私達の住んでいる所からはハイウェイを通って8時間かかる。 飛行機で言うと、オーストラリアあたりまで行けるかしら?
とにかく、名古屋から向こうの東名高速に乗るのははじめて。だから楽しみにしていたのだけど、バスの窓から富士山がアップで見えた時は、本当に感動! 本当に気品があって綺麗なのだ。 裾野が優美に広がり、紫のかすみがかかって感じられる山容は、本当に他の山が石ころだとするなら、「宝石」のような美しさである!
途中のサービスエリアではじめて、「名古屋コーチンの親子丼」なるものを食す。なかなか美味しい。親子丼なんてものを食べたのが、子供の頃以来なかったような……。それにしても、味噌カツや天むすといい、名古屋は食べ物の新名物が多い。 名古屋県民は発想力とか、進取の気性に富んでいる? まあ、尾張の地域は戦国の名大名たちを生んだ土地柄であるからして――。
はるばるやってきた、奥湯河原は、料亭旅館「海石榴」。この名前、なんて読むかわかる? 答えは「つばき」。あの花の「椿」のこと。 はじめはスゴイ当て字と思ったのだけれど、こういう漢字のもあるのだそう。 旅館内は広壮で、部屋もすご~く広い!
「椿」を旅館名にかかげ、イメージシンボルとするだけあって、タオルも浴衣もオリジナル作務衣など、みな椿の花がデザインに使われている。 仲居さんの着ものの帯の後ろにも、椿の花が鎮座しているのを見て、思わず微笑みたくなったもの。
余談なのだが、この椿の花が胸のところにワンポイント刺繍された作務衣が気にいって、売店で購入してしまった。部屋着として、寝巻として、と活躍すること間違いなし!
そして、そして、お料理がものすごくおいしい! 一流の料理人が丹精と心をこめた料理、とはかくあるものか…と夢のような心地で食べる。 特にお釜ごと持ってこられたごはんなどは、「生まれた初めて、こんな美味しいごはんを食べた」というくらい、素晴らしい。 底にほんのりおこげがついて、まっしろな御飯がつぶが立って、つやつやと輝いている。 電気釜で炊いたものとは全然違うでごわす。 写真は、その一例だけれど、照明の関係もあって綺麗に取れなかった。 お料理を綺麗に撮るのは難しい…。
そして、旅館にほとんど泊まったことがない私には、とても新鮮だったのだけれど、部屋の前には部屋名を書かれた行燈のようなものがあり、それが廊下の奥までずっと続いているのは、壮観! ホテルもそうじゃないかと言われそうだが、どこまでも直線的で、ニュアンスのない均一な照明が照らされたホテルの廊下には、こんな雰囲気はない。 薄暗さも少し感じられる幻想的な趣は、以前トルコのカッパドキアで泊まった洞窟ホテルをも思いださせた。 そして、大浴場へ行くにも、棟と棟がうねうねと曲がりくねって続いて、一階が二階に、二階が一部で三階になるという不思議なつくり。、ふと、夏目漱石の「明暗」で主人公の津田が泊まった旅館を思いおこしてしまう。彼が滞在したのも、山の奥深くの淋しくも幻想的ですらある旅館だったけれど、そこも曲がりくねった作りが、不可思議な魅力を持って迫ったもの。 ああ、あれも考えてみれば、湯河原の旅館じゃなかったっけ? 帰ったら、確認してみよう。