映画「めぐり逢い」を観ました。1957年制作という、かなり時をへたラブロマンス。
しかし、これが何とも言えず良いのですね。主演が、ケーリー・グラントにデボラ・カーというのも、大人好みかも。
ストーリー自体は、ごくシンプルなもので、国際的プレイボーイにして、アメリカの億万長者令嬢との婚約が決まっている二コラは、アメリカ行きの客船に乗船します。彼がそこで出会ったのは、元歌手の美しい女性、テリー。彼女もまた、NYにフィアンセが待っていますが、この二人、船中で何かとかち合う。
この客船内がなかなか興味深く、私は「昔の大西洋を渡る船って、こんな感じだったんだなあ」としみじみ観ました。今では、お年寄りの動く老人ホームとまで揶揄されているクルーズ旅。 しかし、昔、時間をかけて旅行していた時代は、こんな風に抒情性豊かなものだったんだ……。
共に、自分には経済力がなく、贅沢に慣れてしまっている二コラとテリー。金持ちのフィアンセがいることもあり、互いに距離を置こうと努めますが、どうしようもなく惹かれてしまうわけです。 南フランスで数時間、下船できることがわかった時、二コラはテリーを自分の祖母が住む家に連れてゆきます。 この港を見下ろす高台にある家が、とても素晴らしい!
花々に囲まれた石段を上がってゆくと、祖母の住む家があらわれるのですが、「美しいものを集めるのが好きだった」という彼女は、趣のある家具をしつらえ、どこか浮世離れした空間をしつらえています。黒い服に、白いショールをまとった、小柄な優しい老婦人。おまけに、この家――放蕩孫の二コラが、わざわざやって来るのも当然と思わせられますね。
この上品な老婦人とテリーは意気投合し、二コラが「この人が僕の婚約者ではない」と否定したにもかかわらず、彼女が二コラの似合いの伴侶であることを見抜くのです。
こうした経緯をへて、とうとう互いへの気持ちを胡麻化しきれなくなった二人は、半年後にNYのエンパイアステートビルの最上階で再会する約束をするのですがーー思わぬアクシデントが、というのが大まかな筋。
つまり、エンパイアステートビルを目指す途中、交通事故に会ったテリーは、歩けなくなり、彼女に約束を破られたと自暴自棄になった二コラは、富豪令嬢との婚約を破棄する一方、画家としての道を目指す。紆余曲折をへて、クリスマスの夜、テリーを訪ねた二コラは、彼女が足を悪くしているのを知り、誤解が解けるというハッピーエンドとして、物語は幕を閉じます。ですが、私としてはエンディングはエンパイアステートビルのクローズアップではなく、あの南仏の美しい高台の家で二人が語らいあっているシーンで終わってほしかったという気がしました。
祖母の死後、二コラはこの家を再び訪れているし、多分二コラとテリーの二人は、この地中海が見下ろせる、中庭に囲まれた静かな家で暮すのではないか、という気がするのです。
それにしても、昔の映画はしっとりして良いな……すべてが猛スピードで流れ去る現代の日々からは隔世の感があり、心が安らぐのを感じてしまうのです。