急に、ふいと昔観たイギリス映画が恋しくなって、何年ぶりかでDVDを借りる。 1980年代には、古き良き英国を美しく華麗に描きだした耽美的映画がブームだった時期があって、子供だった私も色々観たもの。
中学生の時観たデヴィッド・リーンの「インドへの道」、その他「眺めのいい部屋」、「モーリス」、「炎のランナー」など探したのに、どれもなくて、ただ「アナザー・カントリー」が見つかったのみ。 とても綺麗で、観ているだけで20世紀前半の豪奢な時代へ運ばれてゆくようなのに、今の時代には流行らないのかな?
でも、この映画が見つかっただけでもうれしいのだ。あのルパート・エベレットにもう一度会える! ルパート・エベレット--190センチの長身にノーブルで高慢な感じのする美貌を誇ったかっての人気スターである。 ルドルフ・バレンチノ(古い!)に始まる映画史に残る二枚目スターのはずなのだが、その類まれな美貌や鮮烈なデビューにもかかわらず、世界的スターにはなれなかったように思う。 個人的には、「炎のランナー」で、ほっそりとした長身にブロンドの髪をなびかせた鹿のような美青年ナイジェル・ヘイバースと並んで、記憶に残っているのだが・・・。
20歳の頃、観たきりの「アナザー・カントリー」--今観てみるとさほどできのよい映画とはいえず。 良家の子弟が集う全寮制のパブリックスクールを舞台に、同性愛と思想のドラマが描かれる。 卒業後、政界や実業界に重要なポジションを得るため、学生議会(?)に役職を求め、青年たちが駆け引きするところなど、実在のイートン校やハロー校でもこうだったのかもしれないと思わせられるのだが、いかにもありきたりで薄っぺらい演出の仕方である。
話自体は単純で、ルパート演じるガイ・ベネットは校内でもリーダー格であったものの、どこか反逆的で、他寮の学生に同性愛感情を抱いたため、やがて共産主義者としてソ連へ亡命するという波乱の人生をたどることとなる。 この話自体は、あんまり面白くないので、パブリックスクールのファッション、学内の風俗、寄宿舎の調度品、そしてルパートのアドニスばりの美貌を観て楽しむことに。 特権階級という言葉自体が、本家の英国でも消滅しつつあるかと思わせられる21世紀の現在、学内の重厚な建築様式、格式を重んじる規律、いかにも英国的なタータンチェックのガウンや磨かれた革靴といった細部までが、「伝統の美」を感じさせる。 ソ連のアパートメントで「かつてやったクリケットをもう一度やってみたいな」とつぶやくガイと同じように、我々は、あの格調高き、典雅な時代の残照を永遠に失ってしまったのかもしれない。