1974年の映画作品「チャイナタウン」――配役が若かりし日のジャック・ニコルソン、フェイ・ダナウェイ。おまけに監督がかの奇才、ロマン・ポランスキーだというのだから、凄い映画でないわけがない。
と思ったら、やはりハードボイルド映画の傑作として、ファンの間では今なお高い評価を得ているのだそう。ハードボイルドものは嫌いじゃないのだが、「マルタの鷹」も観たことがなくて、その系統のものといったら、チャンドラーの原作である「さらば愛しき女(ひと)よ」だけしか知らない。
高まる期待とともに観た、「チャイナタウン」……当然のごとく、素晴らしい! 1930年代のロサンゼルスの風景や室内のインテリア、ファッション等々、美術面がうっとりするほど美しい。 この時代は、本当に香り高かったのだと思わされる。
ジャック・ニコルソン扮するジェイク・ギデスはロサンゼルスに事務所を開いている私立探偵。彼のもとに、モーレイ夫人と名乗る女から、夫で水道局局長のモーレイの浮気を調べてくれとの依頼がやってくる。
若いブロンド夫人と会っている証拠写真を手にしたギデスだが、それが新聞紙上に公表された後、ギデスが貯水池で死んでいるのが発見される。
モーレイの死には、「水」の巨大な利権がからんでいるとにらんだギデスは、独自に調査を始めるが、彼の前に現れた本物のモーレイ夫人であるイブリン(フェイ・ダナウェイが演じている)によって、事件はさらに複雑な様相を呈してゆく――。
事件の背後には、イブリンの父親で、モーレイの共同経営者であった老人とイブリンの異常な関係などがあって、ラストも「救われない」の一言に尽きる。だが、それでも、この映画の隅々に描かれた、当時の家やイブリンの着る洋服といっだディテールが素晴らしくて、ため息が出る。
例えて言えば、モーレイ邸には、庭師がいるのだが、彼が剪定する庭の植物の配置など、当時のアメリカはこんな風だったのだなと思わせられる。
エラリー・クイーンの探偵ものが結構好きだったのだが、そこで登場する大金持ちの屋敷も、異国人(日系人もいた)の庭師が印象的で、昔のアメリカが目に浮かんできそうだったもの。
レイモンド・チャンドラーのフイリップ・マーロウものも、確か1930年代のロサンゼルスが舞台だったように思うのだけど――この時代って、本当に魅力的でexciting!
今から、80年も前なのに、人々の生活様式も風俗も、現代とそう変わっていないことにも驚かされる。いや、今では当時のような優雅さや美しさがなくなってしまっているのかもしれない。
フイリップ・マーロウに永遠のダンディズムを感じる人には、こたえられないこと間違いなしの映画である。