ヒッチコックの「汚名」を観る。実は、この世評高い名作を観るのははじめて――あのイングリッド・バーグマンが彼女をミューズのように崇めていたヒッチコック作品に出ているというのに。
そして、初めて観た「汚名」。素晴らしく、面白かった!! バーグマンがとても若くて美しいし、相手役がケーリー・グラントっていうのもべストの配役。
さて、どんな話で、何が面白いのかというと、これは実はスパイスリラーに属する話。
イングリッド紛するアリシアは、ドイツ出身の父がナチスのスパイであったため、周囲から色眼鏡で見られ、自暴自棄な生活を送っていた。この美しいアリシアに接近したのが、ケーリー・グラント扮する諜報部員デヴリン。彼は、彼女をアメリカ側のスパイに仕立て上げ、ブラジルに潜むナチの残党の秘密を暴こうとする。
二人が、飛行機に乗り、南米に向かう所から、物語がどんどん面白くなる。二人が乗馬場で会ったアリシアの父の友人セバスチャンは、ナチ党員だが、彼女に恋していた。彼を利用して、ナチ党員の秘密を探ろうとするデヴリン。
デヴリンは上司の言う通り、アリシアをセバスチャンに接近させようとするのだが、それに対し困惑し、激しく怒るアリシア。このへんの絡みは、ちょっと「?」の感じ。確かに、アリシアの言う通り、デヴリンの応対は冷たく、素っ気なさすぎる。このシーンを見ただけで、観客は彼に感情移入するのが嫌になってしまうそうな気がする。(後で、彼がアリシアを救うために、体を張って、敵地へ赴くとしても)
セバスチャンは、アリシアに夢中になり、早速結婚を申し込む。アメリカの諜報部員たちはアリシアに、そのプロポーズを飲むように言う。そんなわけで、彼女はセバスチャン夫人として、お屋敷で暮すのだが、あやしいのはワインのボトル。セバスチャンの仲間が、ワインボトルに異様な反応を示したのを怪しんだアリシアは、デブリンと謀って、ワインセラーに忍びこむ。
そこで二人が見つけたのは、砂のようなものが入ったボトル――実は、この中にはウラン鉱石が入っていたのだ。
ワインセラーに潜入するため、夫の持っている鍵を盗んだアリシア。セバスチャンは、鍵が紛失しているのに気づく。何くわぬ顔で、夫の鍵束に鍵を戻すアリシアだが、そのことから妻がワインセラーに忍びこんだ犯人であることにセバスチャンは気づく。彼女がアメリカのスパイであることにも。
このこと知られれば、自分がナチ党員の仲間たちから殺される。そう直感し、恐慌をきたした彼は、母親に相談。二人は、アリシアの飲むコーヒーに毒を入れ、少しずつ彼女を弱らせ、殺すことにある――というのが大体のストーリー。
どうです? 面白そうでしょう。
自分の正体がばれ、母子に殺されそうになっていることに気づくアリシアに、表面だけ心配気に寄ってくる二人。その時、セバスチャン母子の影が屋敷の壁に黒く、長く伸びているのが怖い。こういった古典的な薄気味悪さを演出するのにかけて、ヒッチコックは本当にうまい!
最後、アリシアを救い出したデヴリンの車が出て行った後、取り残されたセバスチャン。彼を屋敷の中で待っている仲間たち。彼らも、すでに事情を察するのですね。その仲間のもとに、足どりも重く、戻ってゆくセバスチャン。彼の背後で屋敷の扉が閉められたところでエンドロール。
う~ん、これもうまい! この後、セバスチャンが仲間たちから粛清されることをされることを予感させる結末。
スリリングで、カタルシスを感じさせ、しかも残酷さのある映画。映画の面白さのエッセンスが詰まった、ヒッチコックの隠れた代表作!