映画「サイコ」を観る。若い頃何度も観た映画――でも、やっぱり面白い!
ヒッチコックの最高傑作にして、伝説的な名画。だから、ストーリーも、ほとんどの人が知っているはず。それでも野暮を承知で、あらすじを述べると、恋人との結婚を夢見る中年のOLマリオンが、勤めている銀行のお金を盗んで逃避行してしまうのが、物語の発端。彼女は、さみしい田舎道を車で走らせた挙句、とあるモーテルに泊まることに。しかし、これが、新しい本道ができたため、旅行者も立ち寄ることがほとんどなくなってしまった、脇道のさびれたモーテルなのだ。
私はまだアメリカへも行ったことがないし、ましてその田舎も知らないのだけれど、今でもモーテル文化はあるはず。車でアメリカ大陸を横断しようなどという旅行者にとっては、必須の宿泊施設なのでありましょう。だから、モーテルという設定自体が、興味深くて仕方ない。
質素な、平屋のコテージ風の建物なのだが、このモーテルのオーナーのノーマンというのが、何とも薄気味悪い青年なのである。アンソニー・パーキンス演じるノーマンは、ナイ―ヴで、一種魅力的な青年と言ってもいいのだけれど、いい若い者が、こんなさびれたモーテルを経営して暮らしているということ自体が変。マリオンは彼と話しているうち、どうやら彼は強権的な母親と二人暮らしであることに気づく。
大金を奪ったものの、良心の呵責におそわれたマリオンは、お金を変えそうと決心する。そして、浴室に入り、シャワーを浴びるのだが、その時、寝巻き姿の老女が、彼女にナイフを突き立て、惨殺する――。
マリオンの恋人と、彼女の妹が、姿を消してしまったマリオンを追って、モーテルに姿をあらわすところから、物語のスリルはいやますのだが、何といってもノーマンの人物像が秀逸!
人里離れた、さみしい場所にぽつんと住んでいて、趣味は鳥の剥製作り。彼がマリオンを殺した後、その死体を、夜の沼に沈めるシーンなど、ぞくりとするような迫力である。タイトルの「サイコ」とは、今はやりの「サイコパス」という言葉からも分かるように、精神異常をあらわす言葉。ノーマンという青年の中には、彼と母親の二人の人格が同居していて、殺人を犯すのは母親の方という訳だが、これは病理的に、本当にありそうなケースである。
時々、メディアを騒がせる、海外の猟奇事件――これも、一種の「サイコ」の世界なのでは? 映画では、あくまで物語として楽しんでしまうけれど。