【びわますの謎】
アマゴは大きくなるがビワマスが大きくならない
理由はよくわからないのだという。強いて言えば、
摂餌量を環境に合わせ夏場以降自律的(自動的)
に減らすのだというのだが、なんらかのスイッチ
ングが働きそうなるのならそのスイッチを不活化
すれば、大きくなるはずなのだがそこがわからな
い。
日長時間と呼んでいる昼の時間の長さが最も長くな
り、その日以降は日長が短く回遊を始める夏至まで
に体長約6~7mまでの大きさになっていないと、
雄は早熟雄になれないという。早熟雄になった個体
が河川にとどまり成熟し、秋には産卵に参加するが
その後どうなるかはわかっていないとも。
魚類が回遊わけ
回遊魚にはサケのように産卵は川で行うが成長は海
に依存している魚(遡河回遊魚という)とウナギの
ように産卵は海で行うが成長は川でする魚(降河回
遊魚という)が存在する。この中間型も存在するが、
この遡河回遊魚と降河回遊魚の種類数の世界的な分
布は、高緯度では遡河回遊魚の種類が多く、逆に低
緯度では降河回遊魚の種類数が増加する。いっぽう、
海と川の餌の量はその基になる植物プランクトンの
生産量から見ると高緯度では海が、低緯度では川の
生産量が優っている。このため魚類は大きく成長し
て子孫を多く残すために高緯度地方では海へ、低緯
度地方では川へ回遊しているのではないかという。
そこで、ビワマスの回遊はどうかというと、95%の
個体は回遊して琵琶湖へ下り、ほぼ同じ緯度に生息
する岐阜県産のアマゴでは多くても回遊型の「スモ
ルト」が30%を超えることはなく値が大きくかけ
離れる。琵琶湖では餌となる生物が豊富であるが、
規模の小さい琵琶湖の流人河川では相対的に琵琶湖
より生産量が低いために、ビワマスは一部の雄を除
き大部分の個体が湖へ下るように生態を進化させた
ものと考えるという。雄では体を大きく成長させな
くても精子を多く生産でき、産卵に参加して子孫を
残せる可能性があるが、雌では卵1個あたりの大き
さが大きく、体を大きく成長させないと卵を多く産
めず子孫を残せない。雌は琵琶湖へ下る性質が強く
進化したのではないか、雄は河川では夏をやり過ご
すことができる場所が河川上流部か冷たい湧き水が
ある場所などに限られているため、少数の雄だけが
残留するようになったのではないか、とも考えられ
る。上流にはすでにイワナが陣取っていてビワマス
は太刀打ちできず、ビワマスの早熟雄の存在に積極
的な意義を見出せず、ビワマスの祖先にはいろいろ
な回遊型があり、餌となる生物が豊富に存在し好適
な水域の広がる琵琶湖へ適応する過程で河川型を失
う方向で進化していった結果として、ビワマスの現
在の姿があるように思われという(『川と湖の回遊
魚ビワマスの謎を探る』PP.119-201)。
【エピソード】
【脚注及びリンク】
-----------------------------------------------
1.「淡水魚辞典 サケ科」
2.「WEB魚図鑑 硬骨漁網 サケ科」
3.「イワナ(サケ科魚類)の生活史二型と個体群過程」
4.「日本魚類学会」
5.「魚類学(Ichthyology)」Mojie
6.「成長のメカニズムからサケ科魚類の生活史多型と
資源管理を考える」清水宗敬
7.「田沢湖で絶滅した固有種クニマス(サケ科)の山
梨県西湖での発見」2011年2月22日
8.「醒ヶ井養鱒場」
9.「ビワマスにおける早期遡上群の存在」2006.2.7
10.「ビワマス-湖に生けるサケ-」藤岡康弘
11.「ビワマス」国立環境研究所
12.「北湖深底部における底生動物の変化」
13.「琵琶湖の固有種」
-----------------------------------------------