城郭都市設計史29

2016年02月27日 | 湖と城郭都市

 

 

先回までドイツの都市計画を建築家・水島信の体験を通
してその特徴・差異・課題(問題点)を足早に俯瞰する。
今回はこれまでの都市計画に関する理論と実践過程を高
見沢 実 編『都市計画の理論 系譜と課題』を元に俯瞰し
未来への視座をスケッチする。その後、「まちづくりは
ひとづくり」をめざし 市民主導のまち創る-近世城下
町 彦根市本町地区の2例の場合」と「近世の彦根」の
考察に移る。

【都市計画理論の現況 Ⅱ】

● 声無き民の理論

対話型都市計画理論では対等な形で稗雁財係者が討議す
ることを理念としてもっている。しかし実際には多くの
「声無き民」が存在する。さまざまな技術的方法によっ
てそうした声を吸い上げることも参考になる。しかし、
前項で示したような本質的課題は、住民の意向把握や広
報をきめ細かく行うアウトリーチのような技術的・手法
的な方法だけでは解けないことは明らかである。

ところで、声無き民には便宜的に分けると2種類あると
考えられる。1つは政治的アパシーと呼ばれる「無気力・
無関心」の問題であり、もう1つはさきのパワーの議論
にみられる「無力・社会的排除(sodal exdusion)」の問
題である。ここではより本質的と考えられる後者に議論
を絞って考える。

先のヒリアーの解決策は、こうした無力層を組織化して
力とすることと、政治的鼓動に正当性を与えることであ
る。前者についてはネットワーキングによって力をつけ
るべく支援すること(ソーシャル・キャピタルの確立)
が重要な方策とし、後者では公共の場においで討議に加
わるだけでなく、デキbロッパーと直接交渉することで
利害を調整するような技術を磨くことなどがあげられて
いるに。

● 市場の論理と対話型都市計画理論

市場の利点は、さまざまな利害を市場という場を通しで
効率的に調整できることに。逆に、対話型都市計画理論
の最大の欠点は議論が煮詰まるまで時間がかかることが
大いに予想される点である。これに対しても「都市計画
決定する前に十分討議をしておけば、決定行為やその後
の事業化でコト
が円滑に運ばれ、結果として時間は短縮
される」という主張があるが、
これはいまだ証明された
わけではなく、むしろどちらが良いかという問題でも

いように思われる。

都市計画にプロセスの中である部分は対話を重視し、あ
部分では市場メカニズムを活用し、ある部分ではパワ
ーを行使できるよ
うにしておけばよいではないかと。
えば、先回のヴーグドにおいては、市民が受け身的な状

超で政府が調整的な場蒔は市場による解決が向いている
とされている。市場といつても都市計画の場面ではさま
ざまな意味をもつと考えられる。
少なくとも、①財産
への制限の緩和あるいは撤廃、②制限にかわるインセン

ティブ、③市場機能を活用した仕組みの構築といった直接
的な方法がある一方、
交渉プロセスを円滑にするゲー
ム理論を基にした仕組みなど広い意味の市場
の活用で
ある。

対話型都市計画にかかわるとすれば、これらのうちどこ
までを討議可
能な範囲と考え、どこまでを所与の条件と
し、どの部分を無関係とするかで
議論は分かれる。

とりあえず、①~④はそれぞれ、あるところまでは討議
の範囲と考えてよいだろう。例えば地区レベルで考えれ
ば地区整備構想やその実現方策を定めるうえでこれらの
条件を変えることは可能である。国の政策や制度づくり
にもあてはまる。しかしこのように議論を発散させても
何ら生産的ではない。

むしろそのように対話型都市計画理論の守備範囲を広げ
るのではなく、別途市場の活用に関する理論は精緻に議
論していき、対話の中で使えるツールは使うと割り切っ
た方がよさそうであると以上のように著者は述べる。



● 目標の欠如 

70年代に近代批判の形で都市計画の目標像自体が疑わ
れ批判されて以
降、手続き的な(procedura)議論ばかり
がなされて実体的な(substantive )目
標像についての議
論があまりなされなくなってしまった。人によって好み
違うのだから都市計画家が絶対的な目標を決めるのは
おかしいし困難である
といった「正論」に押されて、都
市計画の専門家が本来果たすべき役割を放
棄してしまっ
たかのようである。

近年流行している対話型都市計画理論によっても、対話
すれば目標は定ま
るのだから「[標に関する規範的な理
論は必要ない、と片づけられてしま
うこの頃であるが、
本当にそれでよいのだろうか? 

もう一度さきの批判をみてみよう。「人によって好みは
違うのだから都市
計画家が絶対的な目標を決めるのはお
かしい」についていえば「人によって
好みは違う」の部
分を以下のように3つのレベルに分けて考えてみるとよ
(ヒリアー2002)。第一は、最も深い部分にあるその
人にとっての規範や存在
にもとづくもの、第二は、その
人が選択する際の基本的考えや方針、第三
は、その人が
さまざまな理由によって妥協しうるニ義的な側面。これ
らの
うち、第三の側面については議論によって受け入れ
られる余地があると考え
られ、第二の部分についてもそ
うした規範や方針に則っていればその都市計
画は支持さ
れる可能性が高い。しかし第一の部分はいかなる都市計
画も尊重
することを原則とすべきだろう

今度は逆に、都市計画の規範の側からとらえてみる。地
球環境の保護やバリアリーフ、都市再生(活性化)などヽ
今日の規裾と考えられる目標は多岐にわたるが、実際の
都市とするためにはそれを具体化し、矛盾を調整しこれ
らが個々人の規範や好みによって判断・選択できる程度
にどれだけ説得力があり説明できちえうかである。特に
さきの第三の二義的な部分だけででなく、第二の部分と
どう矛盾なく提示できるかである。また、提示するのみ
ならずそれを十tけんする場面でさらに第一の部分をい
かに尊重しながら実現できるかによっていると述べる。

● 対話型都市計画理論を超えて

対話型都市計画は、理念として間違っているわけではな
い。前項で考察しような問題
点を踏まえつつ、21世紀
の都市計画ビジョンを描くとしたら何が重要なのか
につ
いて最後に整理する。「新たな公共の創造」「新たな技
術の開発」「新たな
職能の形成」が論点である。

・新たな公共の創造

最初の項で述べたように、理論とは、より相対的で、批
判的に埋め込まれた文脈を扱うものといえる。そうして
相対化された理論を多くの代理人が唱道しているのが現
実の世界である。理論の純度が高いものもあれば(例え
ば経済学者)、さまざまな理論等を混ぜ合わせたものも
多い(例えば都市工学か したがって、理論がどう働く
かだけでなく、なぜ特定の理論が使われるのか、誰が何
のためにそうするのかこそ見つめなければならない。都
市計画とはある意味、そのような雑多な理論の中から、
討議(政治プロセス)を経て取捨選択していくものなの
なのだから。



Center for Theory of Change

だとすると、ステークホルダーそれぞれが自らの存立基
盤をもち、情報や知識や知恵をもって対等な立場で討論
できるための前提条件がしっかりしていることが必要で
知識や知恵をもって対等な立場で討議できるための前提
条件がしっかりしていることが必要である。アドボカシ
ー理論(Theory of advocacy)は住民側に極めで不利な状
況下における過渡的な
理論であり、今日その有効性は失
われていないとしても
より大きなシステムの中のどこが
欠けているかを今日問
わなければならないし、情報の非
対称性をどのように解消すべきか、最終的な計画の良否
を決め
るシステムのどこをどう変えればよいか、いわゆ
る弱者が力をもつためには
どのような方法が有効か等が
具体的検討テーマである。

そうした目でみると、日本ではこれまで官(行政)=公

共でありバランスが悪かった。一方の民も「地主」であ
れ「デ
ィベロッパー」であれ「住民」であれ、自己の利
益しか追求しない傾向にあり、公共性に欠けるきらいが
あったと言わざるを得ないし、今こそ「第三の」セクタ
ーの強化がなされる必要がある。理論的にはアンソニー・
ギデンズのライフボリティクス理論をはじめとするボス
トモダン、ネオ・ブラグマティズムの都市計画理論が重
要である。また、表面的な市民参加の場のみを理論化す
るだけでなく、実態として行われていろ直接行動などを
も含めた理論とすることが求められている。




● 新たな技術の開発

わが国において対話型都市計画理論が理念としてはよさ
そうだが実がつい
てきていないのは、制度を含めた技術
レベルがあまり洗練されておらず、白
か黒かといった二
者択一的な選択肢しか用意されていない場合や理論的に
は確かでもそれが気づかれずにいる場かなどの問題かお
ることも原因と考え
られる。対話型であることはこのよ
うな価値多元社会では必然であると考え
ると、それをよ
り有効に機能させるために新たなより高度で柔軟な技術
を創
造しなければならない。

ここでは経済、政治、社会、人間、環境といったさ
まざ
まな要素を広範に扱いながらバランス良く、常に持続的
な解を得続けら
れるような形でそれを実現することが必
要である。またここで技術といった
場合、単なるツール
やマニュアルだけでなく、有効な結果を導き出すための
理論づけられたものである必要がある。ワークショッブ
はいかなる範囲で、どのような技術的裏づけにより有効
なのか計画を固めていく際、どのような手段で人々のど
のような価値や規範に働きかけどのような形で潮時とす
べきなのか、など残された課題は多い。



● 新たな職能の形成

プランナーという職能があるとすれば、それはこれまで
あげ
てきた新たな公共の場の形成に貢献し、そのような
場を力を
発揮できる存在でなければならない。また、制
度的にもエン
ジニア的にも新たな技術に裏づけられた仕
事ができ、またそ
うした枠組みを創造できる人材である
必要がある。これまで
制度の確立に応じて「土地区画整
理士」や「○○コーディネー
タ一」のような資格が確立
されまた、「技術士」としてのブ
うン」ナーが確立してき
たとはいえ、こうした新たな都市計画
像に向けた明確な
職能の分化が起こっているわけではない。

21世紀は知識社会だといわれる。都市計画という分野
真に社会から信信頼され貢献するためには、それを支
える人
材づくりがなによりも重要である。とりわけ、地
城の課題を
発掘し、計画課題も漠とした段階、そして都
市計画を担う主
体が弱く組織もしっかりしていない段階
において質の高い計
計画を実現していくためには、状況
に応じて柔軟に能力が発
揮できる職能のネットワークの
形成が求められる
。本書で行
おうとしている理論化とい
う作業もまた、そうした実践との
かかわりにおいて、最
も効果的に行いうるものであることを
自覚しているとこ
の章を結んでいる。


                             この項了

 
【エピソード】      

         

まさか、都市計画理論を考えるなんて考えてもみなかっ
たが、限りある時間でどれほどイメージとして切り取れ
(=編集力)たか不安である。そんなときに出会ったの
 下記ホームページが目に入る。目から鱗である。

世界は広い!八畳(インターネット)に広がっている!
たとえば、県鳥の「カイツブリ」を通して都市計画を見
直すと
どうなるだろうか?生態学的側面が浮き上がれば
持続可
能社会、ビオトープ、共生、再生可能エネルギー
もったい
ない、省エネ、地産地消、共生、善導大師、法
然、宗安寺、キャッスルロード夢京橋・・・・・・ エトセトラ。

【脚注及びリンク】
-----------------------:------------------------
 
  

  1. 「地域資源・交通拠点等のネットワーク化による
    国際観光振興方策に関する研究」国土技術政策総
    合研究所 プロジェクト研究報告 2008.05.21
  2. 「歴史まちづくりのてびき(案)」ISSN 1346-73
    28 2013.11.13
  3. 歴史まちづくりの特性の見方・読み方 国土技術
    政策総合研究所 2013.04.11
  4. 「まちづくりはひとづくり」をめざし 市民主導
    のまち創る-近世城下町 彦根市本町地区の2例の
    場合-(これからの都市づくりと都市計画制度 全
    国市長会) 中島一 2005.05.09
  5. 「城と湖のまち彦根」中島一 サンライズ印刷出版
  6. 「続・城と湖のまち彦根」中島一 サンライズ印刷
    出版部 
  7. 中島一・水野金一・田中治是『建築空間における
    都市計画額』コロナ社
  8. 中島一元彦根市長 Wikipedia
  9. ドイツ:ニュルティンゲン市「市民による自治体
    コンテスト1位のまち(1)」 池田憲昭
     内閣
    府経済社会総合研究所
  10. The Neckar river near Heidelberg  Wipipedia
  11. ラウフェン・アム・ネッカー Wipipedia
  12. ボーデン湖 Wikopedia
  13. コモ湖 Wikipedia
  14. ネッカー川 Wikipedia
  15. 『ヘルダーリン詩集』 川村次郎 訳 岩波文庫
  16. 『ヘルダーリン』小磯 仁 著 清水書院
  17. 三島由紀夫 著『絹と明察』
  18. 三島由紀夫の十代の詩を読み解く21:詩論とし
    ての『絹と明察』(4):ヘルダーリンの『帰郷
    』詩文楽
  19. 三島由紀夫の十代の詩を読み解く18:詩論とし
    ての『絹と明察』(1)~(7)詩文楽-Shibun-
    raku
  20. フリードリヒ・ヘルダーリン  Wikipedia 
  21. フリードリッヒ・ヘルダーリン - 松岡正剛の千
    夜千冊
  22. ヘルダーリンにおける詩と哲学あるいは詩作と思
    索頌歌『わびごと』を手がかりに 高橋輝暁 2010.
    09.06
  23. 『ヘルダーリンの詩作の解明』、ハイデッガー著
    イーリス・ブフハイム,濱田恂子訳
  24. 南ドイツの観光|ドイツ観光ガイド|阪急交通社
  25. バーデンヴェルテンベルク州&バイエルン州観光
    局公式日本語
  26. リンダウ - Wikipedia
  27. ハイデルベルグ Wikipedia
  28. ハイデルベルク城 - Wikipedia
  29. 城郭都市 Wikipedia
  30. List of cities with defensive walls Wikipedia
  31. ヨーロッパ100名城 Wikipedia 
  32. 中国の城郭都市 : 殷周から明清まで 愛宕元著
  33. 中国城郭都市社会史研究 川勝守 著 汲古書院
  34. 万里の長城 世界史の窓  
  35. 中国厦門の城郭都市研究における外邦図の利用
    山近久美子(防衛大学校)2005.08.25
  36. ヨーロッパ100名城 Wikipedia
  37. 近江佐和山城・彦根城 城郭談話会編 サンライズ
    出版
  38. 淡海文庫 44 「近江が生んだ知将 石田三成」太
    田浩司 サンライズ出版
  39. 佐和山城 [5/5] 大手口跡は荒れ放題。現存する移
    築大手門は必見 | 城めぐりチャンネル
  40. 中井均 『近江佐和山城・彦根城』サンライズ出
    版2007
  41. 彦根御山絵図 彦根三根往古絵図など古絵図デジタ
    ル・アーカイブ化に、彦根市立図書館  2012.05.
    27 
  42. 彦根市指定文化財 「山崎山城跡
  43. 都市計画の世界史、日端康雄 講談社現代新書
  44. ドイツ流 街づくり読本  水島信
  45. 続・ドイツ流 街づくり読本 水島信
  46. 完・ドイツ流 街づくり読本 水島信
  47. 都市計画-1 日本の都市計画制度の概要 大谷英一   
  48. 都市計画-2 都市の歴史と都市計画 大谷英一
  49. 都市計画の理論 系譜と課題 高見沢実編集
  50. 「協働的プランニング」の都市計画理論 Patsy He-
    aley ,“Collaborative Planning
    2010.02.13
       
     
  51. 都第4回 リスク社会論 ベック・ギデンズ・ルー
    マンの「リスク」論(現代都市文化論演習 2009))
    筑和 正格 2010.05.25
     
  52. ビフォア・セオリ 現代思想の<争点> モダンと
    ポストモダン 慶應義塾大学出版会|人文書

 ---------------------;-------------------------

 


最新の画像もっと見る

post a comment