【ビワマスの餌生物】
4月上旬の餌を食べ始めて間もない体長3cmの稚魚
では、9割が陸上の昆虫で占める。主なな生物はユ
スリカで、その他にトビムシという水際に榎む微小
な昆虫が見出された。5月に体長5~6cmになると
餌の約半分が水中の生物となり、6月ではそれが7
割程度に増加。おもに食べられていた生物は、やは
りユスリカの幼虫で、カゲロウやトビケラ、カワゲ
ラといった水生昆虫やそれらの成虫も増加。
河川生活期のビワマスの食性は、体長4、5cmまで
の稚魚期では、まだ遊泳力が弱く流れの緩やかな岸
近くや淵に生息し、水面を漂うユスリカの成虫など
をおもな餌としている。体長4、5~7mの幼魚前
期では、川の流心に出て水面ではなく水中を流下し
てくる昆虫を活発に捕食しているという。
ところが、琵琶湖へ下ったビワマスの食性は、川の
ものとはまったく異なる。7月から9月の体長8~
11cmの幼魚後期では、ヨコエビ類と呼ばれる甲殻類
のみを食べる。琵琶湖にはアナンデールヨコエビ、
ナリタョコエビおよびビワカマカという3種のヨコ
エビ類が生息し、いずれも琵琶湖にしか分布してい
ない琵琶湖固有種であるが、ビワマスはこの中のア
ナンデールョコエビのみを食べる。琵琶湖にはこの
他にスジエビという甲殻類がたくさん生息している
が、これはほとんど食べられないという。10月から
翌年1月までの体長11~15mの幼魚後期から未成魚
では、やはりアナンデールヨコエビが9割で、その
他に魚のアユが食べられていた。35~40cmという成
魚では逆に9割がアユで占め、アユがおもな食べ物
になっている。
このように、湖中のビワマスは体長11cmまではほと
んどアナンデールヨコエビばかりを食べているが、
体長11cm超えるとしだいにアユなどの魚類を食べる
ようになり、おそらく20m以上ではアユなどの魚類
が中心の食性になるものと考えられている。これら
のビワマスの餌となっている生物はいずれもビワマ
スが生息する琵琶湖沖合に豊富に存在する。アユは
遊泳速度も遠く幼魚期のビワマスでは逃げられてし
まい捕食することができないが、体長11cmを超える
頃からアユを捕食できる遊泳力が徐々に備わってく
るのではないかと考えられている。また、同じヨコ
エビ類でも、ナリタヨコエビとビワカマカがまった
く食べられていなかったのは、この2種のヨコエビ
類の生息場所が沖合ではなく、琵琶湖沿岸部である
ためと考えられる。ただ、冬季には沖合の深層誠に
多数生息するスジエビをビワマスがなぜ食べていな
いのか、その理由についてはもう少し調査してみる
ことが必要である藤岡は指摘する。
【エピソード】
ところで、ビワマスが大変美味しい魚であることは
あまり一般的には知られていない。近年の漁獲量が
年間20~40t程度と限られているからで、せいぜい
地場で消費される量だかだ。特に、5月から8月の
まだ生殖腺が発達していない時期のビワマスは、脂
が全身にのって極め付きの味と言わなければならな
い。これはビワマスの成魚がおもに淡水魚の王様で
あるアユを餌としていることに理由があると思われ
る。その身の色は薄いオレンジ色から濃い紅色まで
年によって大きく変わるが、これは、餌となるアユ
などの生息量と関係しているようである。すなわち、
アユの少ない年には身の色が赤く、多い年には色が
薄い傾向にあり、餌となるアユが少ないとビワマス
は大型の個体でも胃の中からはアナンデールヨコエ
ビが多く見出されるからである。身の赤い色はアス
タキサンチンと呼ばれる色素で、甲殼類におもに含
まれている。おそらく、ビワマス成魚はアユの少な
い年には幼魚期の 餌である小さなアナンデールヨ
コエピを食べている推測されている。
鰻の幼魚の成長に食餌性の解明は絶対的条件でそれ
はまた生態環境の「写植・反転」のDNAの履歴その
ものだ。この解明に成功できれば、1メートル近い
ビワマスが無駄な燃料を使わず、この湖国で、淡水
魚の大トロとして地場産業の1つになる日が近いと
考えられる。
【脚注及びリンク】
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1.「淡水魚辞典 サケ科」
2.「WEB魚図鑑 硬骨漁網 サケ科」
3.「イワナ(サケ科魚類)の生活史二型と個体群過程」
4.「日本魚類学会」
5.「魚類学(Ichthyology)」Mojie
6.「成長のメカニズムからサケ科魚類の生活史多型と
資源管理を考える」清水宗敬
7.「田沢湖で絶滅した固有種クニマス(サケ科)の山
梨県西湖での発見」2011年2月22日
8.「醒ヶ井養鱒場」
9.「ビワマスにおける早期遡上群の存在」2006.2.7
10.「ビワマス-湖に生けるサケ-」藤岡康弘
11.「ビワマス」国立環境研究所
12.「北湖深底部における底生動物の変化」
13.「琵琶湖の固有種」
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