すばるに恋して∞に堕ちて

新たに。また1から始めてみようかと。

長編3-2

2009-05-23 08:05:45 | 小説・長編
今日から、愛しい彼は、仙台ですね。

たっぷり笑顔で、
たっぷりはっちゃけて、
たっぷり暴れまくって、
跳んで跳ねて頂きたいな。

そこへ行けない私は、かなり、我慢して、
妄想で遊ぶことにします。

さて、
本日は、長編の続きを。

懐かしくて、せつない恋に戻る彼に、会ってください。

とりあえず、でも、
フィクションで、ただの小説ですから、
無論のこと、実在の人物とは、一切、関係ありませんので、

そこは、お間違えのないように。

お付き合いくださる方は、続きから、どうぞ。


    

携帯電話が着信を告げる。


「ねえ、鳴ってるわよ?」

「放っといてええよ。メールやし」

「誰からか、分かるの? 見なくて平気?」

「知らん。・・・・・・けど、どうせ大したこと、ないやろ」

「そう?」

すばるの部屋。

一人暮らしの、その部屋は、
意外と小奇麗に片付いていて、
それは、
高校時代のすばるからは、あまり、想像できなかった。

「なにしてんの」

座りもせず、立ったままの智香に、
すばるは、声をかけた。

「どこでもええから、座ったら? 今、飲むもん、入れるし」

言いながら、小さなキッチンに立ったすばるは、
慣れた様子で、コーヒーをたてはじめた。

部屋にたちこめるコーヒーの香りに混じって、
かすかに、煙草の匂いがする。

「煙草、吸うんだね」

「ん・・・。まあ、本数は多くないけどな」

智香の知らない、すばるの匂い。

それは、
高校を卒業してからの、2年という時間そのものだった。



智香が高校を卒業して、県外の大学に進学したために、
いつしか、会う回数も、連絡も途切れがちになり、
自然消滅した形の、
すばると、智香。

「今日は、どうしたん? 大学、まだ始まらんの」

マグカップをふたつ、
すばるは小さなガラスのテーブルに置いた。

「すばるだって、まだ、でしょ?」

「ん? 俺んトコは、もう、始まるで。
 講義自体は、まだやけど、初めのややこしい説明のやつが、な。
 学生課やら就職課やら、なんか、ようけ予定に入ってたわ」

「どこも一緒、ね。サークルは? 相変わらず、球入れしてんの?」

「球入れって、バスケのことか。ほかに、言い様あるやろ」

「だって、大学のサークルなんて、ほとんどお遊びに近いじゃない。
 体育会系の、有名どころなら、別だけど」

「相変わらず、口、悪いんやな」

窓を少し開けて、
外の風を部屋に入れる。

暖かなひだまりに、
春風の冷たさが、心地よく流れ込む。

「窓、開けたりして、ええの? 花粉症、治ったん?」

「治っては、おらんけど、な。
 注射、打ってもらうようになったら、前よりはラクになったわ」

「良かったわね。前は、この時期、廃人同然だったものね」

「あのな、おまえ。もうちぃっと、口、直したほうがええで。
 嫁の貰い手、無くなんで」

「ええわ。そしたら、すばる、貰ってくれるんでしょ?」

智香がまっすぐに、すばるを見つめた。


一瞬の間。


智香が、ケラケラ、笑い出した。

「もう! すばる。ツッコんでくれんと!!」

「あ、ああ、すまん、せやって、突然・・・」

「イヤやわ、ツッコミ、下手なんは、変わらんやん」

笑い転げる智香に、

「しゃあないやんけ。慣れてへんねんから」

すばるは、少々、ふてくされた。

「わかった、わかった。機嫌、直そ?」

智香は、すばるのそばに来て、
寄りかかるようにして、顔を見上げた。

「ごめんね、笑ったりして。・・・・・・でも、安心した。
 昔のままのすばるでいてくれて」

「成長してへんって、言いたいんか?」

「まあね、背も、ちっちゃいまんまやし」

「おい」

「うそ。そういうことじゃなくて」

「ほな、なに?」

「そんなに拗ねんの止めて」

「別に、拗ねてなんか・・・」

横を向きかけたすばるの顔を、
智香は、じっと、見つめる。

「そうやって、いっつも、私から顔逸らす、すばるの横顔、
 あの頃、見るの、辛かったな」

智香の言葉に、すばるは応えなかった。

代わりに、
冷めかけたコーヒーを一口飲んだあと、
手近にあった煙草を一本抜き取って、火を点けた。

吐き出された紫煙が、
その匂いとともに薄く広がっていく。

智香は、寄り添うように、すばるの肩に、頭を預けた。

「自分勝手、だったよね。
 忙しくて、新しい生活に慣れるのに必死で。
 すばるがくれたメールに、返事もしなくて。
 ゴールデンウィークも、夏休みも・・・・、ううん、
 帰ろうと思えば、週末だって、いつだって帰って来れるのに、
 そうしなかった。
 すばるや、みんなに、ホントは、会いたかったのに、
 会う機会を、自分から放棄してた。
 すばるは、いつも、優しいメールだけ、くれた、のに・・・」

すばるの手にした煙草が、
次第に短くなってゆく。

「なんで、今日、あそこにおったん?」

煙草を灰皿に押し付け、
すばるは、智香に訊いた。

高校生だった二人が、
休日の待ち合わせに使った公園。

「桜、・・・・・・見たくなって」

高校から少し離れた、大型スーパーの裏。
なんの変哲もない、小さなコドモだって、ろくに遊びに来ないような、
代わり映えのしない公園。

だけど、桜の季節だけ。

そこには、空の青と、
うす紅の花の色が鮮やかに調和して、
広がる春の光とともに、
奇跡のようなスペースが描き出される。

ほんのひととき。

それと分かって、そこに立たなければ、
気づきもしないような風景だけれど。

「桜なんか、どこで見たって、同じやろ」

分かっていて、すばるは、少し意地悪を言った。

「花見やったら、もっと、有名なとこのほうが、キレイやのに」

「そう・・・だよね、可笑しいよね。
 でも、見たかったのは、あの公園の桜、だったんだ」

「なんか、あったんか?」

すばるの言葉に、解き放たれかのように、
智香の目から、涙が溢れ出した。

「ごめ・・・、いや、なんで、涙なんか。
 ・・・泣くつもりなんか・・・」

しきりに涙を止めようと目をこする智香の手を制し、
すばるは、その肩に、手を回して、抱き寄せた。

「泣きたいときは、ちゃんと、泣かんと。
 いつまでも、余計に苦しいだけやぞ」









すみません、いったん、ここまでで。






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