注意事項を。
ここから始まる物語は、ただの小説であり、
実在する人物とは、一切、なんの関係もございません。
名前を変換する機能も、備え付けてありません。
まだ、始まったばかりの小説ゆえ、
若干、話の展開が、ゆっく~~りめになっております。
25年の歳月を経て、ようやく動き始めた物語です。
完結までには、まだまだ、時間を要します。
お付き合いくださる方は、どうぞ、続きから。
美術準備室を出たあとのあづさから、です。
帰り道。
学校のすぐ前のバス停で、
あづさはため息をついた。
下校時刻以外のハンパな時間には、
本数が極端に少ない、ローカル線のバス。
次のバスまで、15分もある。
それまで、街の中心部にあった高校が、
郊外の広々とした土地に移転したのは、去年のことだ。
それまで、
グラウンドに行くにも、プールを使用するのも、
道路一本渡って行かなきゃいけなかった不便さを解消するのと引き換えに、
すべての施設が同じ敷地にある、充分な広さを確保はしたものの、
交通の便は、極端に悪くならざるをえなかった。
バス停も増設されて、
朝と夕方の本数だけは増えたけれど、
こんなふうに、
昼間のハンパな時間に帰ろうとすると、
待ち時間が空いてしまうことになる。
駅まで歩いたら25分。
バスを待って、乗っても、25分。
迷いどころだ。
あづさが入学した年が、移転一年目だったから、
不便さもこんなものかと、思っていたが、
亮たちの学年は、便利な前の校舎を知っているだけに、
不満も大きかったようだ。
『駅から学校まで自転車。
それが、一番、てっとり早い。
冬は、寒いけど、な。
延々、バス待つより、ええやろ』
そう言った亮の言葉が、浮かぶ。
でも、
自宅から学校まで、バスを乗り継いだら着いてしまうあづさには、
自転車を使う決心もつかないまま、
一年が過ぎてしまった。
まだ、学校の周辺には、未開発の土地が残り、
見渡せば、田園以外の何物でもない風景が広がっている。
一年経っても、増えたのは、少し離れたところにあるコンビニくらいで、
ほかには、何もない。
しかも、そのコンビニも、駅とは逆方向の向かい側だから、
あづさたちにとっては、
利用しにくいこと、この上ない。
『ないより、マシやで。
部活のあと、家まで、腹、もたんしな』
たしかに、亮の言うとおり、
購買部が閉まってしまった放課後には、
一目で運動部と分かる体格の生徒らが、
次から次へと、中に入っていく。
亮も同じだった。
あの頃、亮の部活が終わるのを待って、
あのコンビニの前で、
くだらない話に盛り上がっていたことを思い出す。
亮の、話す声が好きだった。
何気ない仕草も、
笑顔も、
ただ、横で見ているだけで、
それだけで、幸せやったのに。
突然、声が聞きたくなって、
何度も、携帯に掛けたり。
逢いたい気持ちに勝てなくて、
夜中に、呼び出してみたり。
亮は、ホントは、とても優しいくせに、
言葉じりがキツいから、
何度も、言い合いになって、ケンカして。
言われれば言われるほど、意固地になって。
素直に亮の言葉を聞かなかったことだって、
一回や二回じゃない。
でも、そんなの、どこの恋人やって、普通なことだと思ってた。
我儘だなんて、これっぽっちも、思ってなかったんだ、私は。
あかん。まだまだ、人間出来てへん。今更、考えたって、しゃあないのに。
時間薬が、足りひんのかな。
あづさは、沈みゆく気分を奮い立たせるように、
空を見上げた。
天気もええことやし、次のバス停まで歩こ。
あづさは、ポケットからイヤホンを取り出し、耳にすると、
携帯の音楽プレーヤーを起動した。
軽快なリズムに乗せて、
お気に入りのアーティストの声が響く。
少し強めの風が、
あづさの背中を押すように吹いた。
その、あづさの姿を、
亮は、グランドのフェンス越しに見ていた。
せやから、自転車にしとけって、あんなに言うたのに。
「亮先輩、この練習メニューなんスけど・・・」
話しかけられて、亮は、振り向く。
「あ、なに?」
そこにいたのは、サッカー部の後輩だ。
「今日、メンバー、あんまり出てきてへんから、ちょい、無理なメニューがあって」
「あぁ、そうか。ランニングは終わったんやな」
「はい」
「そしたら・・・」
練習メニューを後輩から受け取ると、その表に目を落とす。
「今日は、坂崎コーチも来られへんて、連絡あったみたいやから・・・。
そうやな、いつもの筋トレと、ボール少し回して、終わりにしよか。
明日、テストもあるし、な」
後輩にそう指示を出して、
亮が、またバス停に視線を戻したときには、
もう、
あづさの姿は、視界から消えていた。
あいつ、あれで納得したんかな。俺、なんも、理由らしい理由、言うてやらんかったのに。
隆平の紹介で付き合い始めた頃は、おっとりした印象しかなかったんだよな。
最初のうちは、我儘も可愛いかってんけど、な。なんやろ、気ィが強いんやな。
言い出したら、後には退かへんし。一度ケンカになったら、俺の話なんか、まともに聞こうともせぇへんし。
夜中に何度も呼び出されたら、おちおち、勉強かてやってられへん。
受験もあるし、しばらく、距離置いたろ、思うただけや。「終わりにしよ」言うたんは、ちょっと、強めに言ったほうが、効き目あるんちゃうかなと、思っただけや。
あいつが納得する、しないは別にして、理由を聞いてきたら、ちゃんと説明する気やったのに、あいつ、それも、せぇへんかったわ。
「分かった」って、なにが、分かったっちゅうねん。あれから、ただの一回だって、連絡して来ぉへん。それって、俺に、執着してないってことやんな?
「そんなにあっさり、別れるやなんて!」って、隆平が驚いてたけど、俺やって、予想外やわ。
ほんまは・・・もうちょっと、俺がオトナやったら良かったんかな。どこまでも我儘聞いて、守ってやれるくらいに、オトナやったら・・・な。
亮の真実と、あづさの思いは、
どこかでひとつ、
ボタンを掛け違えただけなのかもしれなかった。
ここから始まる物語は、ただの小説であり、
実在する人物とは、一切、なんの関係もございません。
名前を変換する機能も、備え付けてありません。
まだ、始まったばかりの小説ゆえ、
若干、話の展開が、ゆっく~~りめになっております。
25年の歳月を経て、ようやく動き始めた物語です。
完結までには、まだまだ、時間を要します。
お付き合いくださる方は、どうぞ、続きから。
美術準備室を出たあとのあづさから、です。
帰り道。
学校のすぐ前のバス停で、
あづさはため息をついた。
下校時刻以外のハンパな時間には、
本数が極端に少ない、ローカル線のバス。
次のバスまで、15分もある。
それまで、街の中心部にあった高校が、
郊外の広々とした土地に移転したのは、去年のことだ。
それまで、
グラウンドに行くにも、プールを使用するのも、
道路一本渡って行かなきゃいけなかった不便さを解消するのと引き換えに、
すべての施設が同じ敷地にある、充分な広さを確保はしたものの、
交通の便は、極端に悪くならざるをえなかった。
バス停も増設されて、
朝と夕方の本数だけは増えたけれど、
こんなふうに、
昼間のハンパな時間に帰ろうとすると、
待ち時間が空いてしまうことになる。
駅まで歩いたら25分。
バスを待って、乗っても、25分。
迷いどころだ。
あづさが入学した年が、移転一年目だったから、
不便さもこんなものかと、思っていたが、
亮たちの学年は、便利な前の校舎を知っているだけに、
不満も大きかったようだ。
『駅から学校まで自転車。
それが、一番、てっとり早い。
冬は、寒いけど、な。
延々、バス待つより、ええやろ』
そう言った亮の言葉が、浮かぶ。
でも、
自宅から学校まで、バスを乗り継いだら着いてしまうあづさには、
自転車を使う決心もつかないまま、
一年が過ぎてしまった。
まだ、学校の周辺には、未開発の土地が残り、
見渡せば、田園以外の何物でもない風景が広がっている。
一年経っても、増えたのは、少し離れたところにあるコンビニくらいで、
ほかには、何もない。
しかも、そのコンビニも、駅とは逆方向の向かい側だから、
あづさたちにとっては、
利用しにくいこと、この上ない。
『ないより、マシやで。
部活のあと、家まで、腹、もたんしな』
たしかに、亮の言うとおり、
購買部が閉まってしまった放課後には、
一目で運動部と分かる体格の生徒らが、
次から次へと、中に入っていく。
亮も同じだった。
あの頃、亮の部活が終わるのを待って、
あのコンビニの前で、
くだらない話に盛り上がっていたことを思い出す。
亮の、話す声が好きだった。
何気ない仕草も、
笑顔も、
ただ、横で見ているだけで、
それだけで、幸せやったのに。
突然、声が聞きたくなって、
何度も、携帯に掛けたり。
逢いたい気持ちに勝てなくて、
夜中に、呼び出してみたり。
亮は、ホントは、とても優しいくせに、
言葉じりがキツいから、
何度も、言い合いになって、ケンカして。
言われれば言われるほど、意固地になって。
素直に亮の言葉を聞かなかったことだって、
一回や二回じゃない。
あづさは、沈みゆく気分を奮い立たせるように、
空を見上げた。
あづさは、ポケットからイヤホンを取り出し、耳にすると、
携帯の音楽プレーヤーを起動した。
軽快なリズムに乗せて、
お気に入りのアーティストの声が響く。
少し強めの風が、
あづさの背中を押すように吹いた。
その、あづさの姿を、
亮は、グランドのフェンス越しに見ていた。
「亮先輩、この練習メニューなんスけど・・・」
話しかけられて、亮は、振り向く。
「あ、なに?」
そこにいたのは、サッカー部の後輩だ。
「今日、メンバー、あんまり出てきてへんから、ちょい、無理なメニューがあって」
「あぁ、そうか。ランニングは終わったんやな」
「はい」
「そしたら・・・」
練習メニューを後輩から受け取ると、その表に目を落とす。
「今日は、坂崎コーチも来られへんて、連絡あったみたいやから・・・。
そうやな、いつもの筋トレと、ボール少し回して、終わりにしよか。
明日、テストもあるし、な」
後輩にそう指示を出して、
亮が、またバス停に視線を戻したときには、
もう、
あづさの姿は、視界から消えていた。
亮の真実と、あづさの思いは、
どこかでひとつ、
ボタンを掛け違えただけなのかもしれなかった。
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