すばるに恋して∞に堕ちて

新たに。また1から始めてみようかと。

長編 1-2

2009-03-22 21:10:19 | 小説・長編
ここから始まる物語は、すべてフィクションです。

実在の人物とは、一切、関係ありません。

ご承知置きください。



今日は、プロローグのシーン2になります。


本編は、続きから、どうぞ。




遊園地を出たあづさは、駐車場の片隅に立っていた。

春まだ浅い3月。
昼間は暖かな日差しに溢れていたが、
夜ともなれば、
冬の名残りの冷たい風が、吹いている。



「誰を待ってんの?」

不意に背後から声をかけられて、
あづさは、驚いて振り向いた。

立っていたのは、見知らぬ青年。

だがそれは、
今日遊園地にいるあいだに、何度も目のあった顔だ。


それにしても、
このヒト・・・・、どっかで・・・?


「送ってやろうか? たぶん、帰る方向、一緒やと思うで」


(は?
 何言ってんの?
 ナンパなら、他でやって、面倒くさい。
 そんな気分とちゃうし)


声には出さず、
あづさは青年を無視して、他へ歩き出した。

青年は、何か言いたげだったが、
あとを追っては来なかった。



ひときわ明るい街頭の下に来た時、
車のクラクションが、短く鳴った。

運転席には、従兄の信五。
助手席には、その彼女。

バックシートに乗り込んだあづさに、
美也子が声をかけた。

「ごめんね、遅くなってもうて。
 ちょこっと、遠出してたもんやから」


「ええねん。こいつに謝ることなんか、あらへんがな」


「ええ? だって、だいぶ待ったよねえ?」


「ヒトのデート、邪魔しよってから。
 ちょっとくらい、待っとけっちゅうねん。

 大体やなあ、なんで、俺らが、こいつの迎えに来んとあかんねん。
 電車で帰ったかて、たいしたことない距離やぞ?

 てか、電車のが早いやろ」


「信ちゃん、ごちゃごちゃ、うるさい。
 オンナノコには、いろいろ、あんのよ。

 一人で帰りたくない時やって、あるわ」


なにやら、まだ文句を言いかけた信五だったが、
とりあえず、車を発進させた。

デートの途中に入った、あづさからのお迎えコール。

迎えに行く気なんか、さらさら無かった信五を促してくれたのは、美也子だ。


「美也子は、いっつも、そうや。
 あづさには、甘すぎるわ」


「しょうがない。
 妹みたいに可愛いんやから、ええでしょ。
 
 あんまり文句ばっかり言うと、デート、してあげんよ?」


「そんなん殺生やで。
 やっと二人きりで会えるとこまで、こぎつけたのに。
 今まで、いっつも、グループ交際ばっかしやってんぞ」


それまで、
黙って二人の会話を聞いていたあづさが、
突然、
泣き出した。


「ちょっ・・・なに!? どないしてん? 腹でも痛いんか?」


バックミラーを覗き込んだ信五が、
心配そうな声を出す。


「信ちゃん、鈍感すぎ。黙っとき」


「はぁ?
 せやけど、泣いとるやんけ。 どないかしたんちゃうか?」


「オンナノコには、いろいろあるって、言うたでしょ?」


「ワケ分からんわぁ」


美也子が、振り返らずに、言った。


「気の済むまで泣いたらええよ。
 ここには、信ちゃんと私しかおらんから。
 他の人の目、気にせんと済むやろ?」


美也子の言葉をきっかけに、
あづさの目から、堰を切ったかのように、涙が溢れ出す。

横で不審そうに運転している信五に、
美也子は言い放つ。


「わからんかったら、わからんでもええけど。
 ちょこっとだけ、遠回りして帰ってやってな。
 なるべく、ゆっくりね」


「お・・・ぉぉ」





信五の車が、
これでもか、というくらいに遠回りをして、
あづさの家に着いた頃には、
涙は、すっかり乾いていた。


「ありがとう、迎えに来てくれて。
 美也子さんがいてくれてよかった」


車から降り際、
あづさは美也子に、礼を言った。


「デート、邪魔しちゃって、ごめんなさい」


「気ィ、済んだ?」


「泣いたから、大丈夫」


「焦ったらあかんよ。必要なんは、時間薬やからね」


「うん」


そこに信五が口を挟む。


「何のこっちゃねん、二人とも。
 ちゃんと説明せえや」


「信ちゃんは、これやからねえ」


美也子とあづさは、顔を見合わせて、くすくす笑った。





走り去る信五の車を見送って、
あづさは、空を見上げた。


細く差し込む、たよりない月の光。

漆黒の空に、まばらに輝く星々。

月の満ち欠けに隠された、謎めいた話も、
どの星がどの星座で、
どんな神話があるのかまでも、

教えてくれたのは、亮だった。


夜空を見上げて、
立ち尽くすあづさの中から、

亮の存在が消えることは、

まだしばらく、無いのかもしれなかった。




プロローグ終 

2-1は、後日。









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