気がつけば、私の美(あるとすればの話だが…)のアイテムを
資生堂の商品が席巻し始めている。
断っておくが、私は資生堂の回し者ではない。
少女の頃は、資生堂の小冊子“花椿”を食い入るように何度も見た。
“ホネケーキ”と呼ばれる洗顔石鹸の、宝石めいた透明感に魅せられた。
秋川リサに憧れ、四季折々のコマーシャルソングをくちずさんでおきながら
化粧をする年齢になると、資生堂はむしろありきたりすぎて
使う気にならなかった。
そのうち私は、知人の始めた化粧品関係の店を手伝うようになり
資生堂はますます遠のく。
同時に、そこの家族が営む保険代理店の事務も手伝う。
1人分の給料で、いいように使われたとも言えるが
若い私には楽しかった。
特に美容の知識や技術を身に付けるのは、面白くてならなかった。
仕事で扱う商品の中には、製造工場を見学させてくれるメーカーもあった。
見学という名の接待で、はるばるのこのこ行ったこともある。
「NASAとうちにしか無い」という立派な機械も見せていただいた。
そこで私は、一人はぐれた。
見学順路を無視して、むやみに歩き回るうちに
図らずも、そのご自慢の機械の裏側へ出てしまった。
形があるのは見学順路のガワだけで、裏は空洞であった。
「なるほど、滅多に無いわい…」と、別の意味で感心したものだが
白日夢を見たということにしておこう。
それからほどなく、義母ヨシコが大腸癌になったのを期に退職した。
16年前のことであった。
美容と保険…同時に何年も関われば
人間男女の裏表は、毎日嫌でも目にする。
この時の経験が、下世話な今の私を構成する基礎となっている。
さて私は、子供の頃から、超のつく乾燥肌。
思春期に、ニキビで悩むことも無かった。
もしも美人であれば、今頃はしわくちゃになっていたであろう。
大きな瞳だと、開け閉めの可動範囲が広く
高い鼻だと、笑うたびに他の部位が引っ張られる。
これを半世紀も続ければ、無残な事態に陥っていたこと間違い無し。
しかし天は、我にささやかな幸運を与えたもう。
ツラの皮が厚いのと、凹凸を極力控えた地味な部品によって
自分ではまだ“無残”までは到達しておらず
せいぜい“残念”あたりだと思っている。
近年は製薬会社のみならず、食品会社など
畑違いの製造業が、化粧品業界に参入するようになった。
本業で培ったノウハウを化粧品に生かすと言えば聞こえはいいが
実際のところ、本業のほうが危ういのだろう。
様々使ってみたが、中には健闘していて、浸透力が格段に優れている物もある。
しかし、価格に見合う余韻が感じにくい。
理数はできるが、もののあわれや人情が理解不能な学生みたいな印象なのだ。
吸い込んだはいいけど、その後どうしてくれる?という気分。
使い続けているうちに、なんとかなるのかもしれないが
それを気長に待つ年月が、私にはもう、あまり無いような気がする。
写真は、現在の私に無くてはならぬもの3種である。
手前のブルーが、資生堂リバイタル・リフティングパクトという
パウダータイプのファンデーション。
出会いは突然やってきた。
義母ヨシコは、これを昔から使っていた。
去年、ヨシコと出かけた先で必要にかられ、一度だけ借りたのだ。
そのうるおい加減、なめらか加減、薄付きでありながらボロの隠れ加減に感動。
色々使ってきたが、これはダントツで私のランキング1位。
底が見えるようになっても、最後の最後まで綺麗に使える。
底が見えるようになった頃、メーカーの底力がわかるのだ。
割れにくさを追求すると、圧縮の方法や成分によっては
終わり頃に劣化してしまい、乗りが悪くなるものが多い。
四隅に残ったのをせっせとほじくるのも、興ざめな作業である。
これはいつまでもホロホロしっとり、開封時と変わらないコンディション。
さすが、女心を知り尽くしている。
ダテに長年、銀座で商売張ってないわい。
価格はレフィルで5千円と、私のような庶民には少々高めの設定だが
グラム数が多い。
しかも最後の一塗りまで、無駄なく美しい肌を演出できる実力をかんがみれば
むしろお徳用といえよう。
廃番にならないことを願う。
最近の売り場に並ぶ、色々なパウダーファンデーションのレフィルは
角が丸くなっているデザインが増えた。
買いやすい価格を実現するため、グラム数を減らしたのが目立たぬよう
長方形の角を削って、丸みを帯びたデザインにしてあるのかも…
流行だの傾向だのは、誰かの都合で作られている…
そんなことを考えながら買物をすると
人は楽しくないかもしれないが、私は楽しい。
真ん中の黄色いのは、資生堂エリクシール・シュペリエルというシリーズの
ナイトクリーム。
この基礎化粧品も先月、やはり乾燥肌のヨシコが
「口の周りがつっぱらないのよ!」と言って
シリーズを買いそろえたので、借りてみた。
我が砂漠、一瞬にて満たされり。
ファンデーションのことといい、私はヨシコを見くびっていた。
時はうつろい、姑と若い嫁だった我々の間柄は
いつの間にか、婆二人という関係に変わっていたのであった。
乾燥歴の長いヨシコは、良い物を知る先輩だったのだ。
店に走り、一式を買い込む。
香りは少々強めだが、量が多くて安いのにびっくりした。
ナイトクリームで5千円ちょっと。
化粧水やメイク落としは3千円台だったと思う。
美容液の類も、高価ではない。
今まで長年、砂漠との戦いに、手間ひまと大金を投じた半生は
いったい何だったのだ…腹まで立つ。
裕福な人や未来ある人、仕事柄大勢の視線を浴びる人は
存分に投資して磨けばよい。
しかし私のような、家でひっそりと終わりかけた女は
今さらこねくりまわしても、めざましい改善は望めないように思う。
乾燥の不快を克服したら、後はだましだまし余生を過ごすほうが
顔にも財布にも良策と考える。
後ろの赤いのが、資生堂ツバキウォーター。
髪の毛にシュッシュと吹くと、寝癖がすぐに落ち着き
ツヤが出て、いい感じ。
香りは、ちょっと懐かしさの漂う、オーソドックスなかぐわしさ。
うっとりしちゃう。
髪にもいいが、私は静電気防止の目的としても活用している。
外出する時、髪にシュッとやっておくと、ビリビリ!はまぬがれる。
これらを使いながら♪ようこ~そ~日本へ~♪
と歌う私を想像してもらいたい。
バカみたいだと思う。
しかしまさに♪ようこそ砂漠へ♪の心境なのだ。
巡り巡って、地道に誠実に研鑽を重ねた身近な存在に気づく…
ネズミの嫁入りみたいな気分よ。
ただし、今気に入っているというだけで
今後、心変わりをしないとは言えない。
資生堂の商品が席巻し始めている。
断っておくが、私は資生堂の回し者ではない。
少女の頃は、資生堂の小冊子“花椿”を食い入るように何度も見た。
“ホネケーキ”と呼ばれる洗顔石鹸の、宝石めいた透明感に魅せられた。
秋川リサに憧れ、四季折々のコマーシャルソングをくちずさんでおきながら
化粧をする年齢になると、資生堂はむしろありきたりすぎて
使う気にならなかった。
そのうち私は、知人の始めた化粧品関係の店を手伝うようになり
資生堂はますます遠のく。
同時に、そこの家族が営む保険代理店の事務も手伝う。
1人分の給料で、いいように使われたとも言えるが
若い私には楽しかった。
特に美容の知識や技術を身に付けるのは、面白くてならなかった。
仕事で扱う商品の中には、製造工場を見学させてくれるメーカーもあった。
見学という名の接待で、はるばるのこのこ行ったこともある。
「NASAとうちにしか無い」という立派な機械も見せていただいた。
そこで私は、一人はぐれた。
見学順路を無視して、むやみに歩き回るうちに
図らずも、そのご自慢の機械の裏側へ出てしまった。
形があるのは見学順路のガワだけで、裏は空洞であった。
「なるほど、滅多に無いわい…」と、別の意味で感心したものだが
白日夢を見たということにしておこう。
それからほどなく、義母ヨシコが大腸癌になったのを期に退職した。
16年前のことであった。
美容と保険…同時に何年も関われば
人間男女の裏表は、毎日嫌でも目にする。
この時の経験が、下世話な今の私を構成する基礎となっている。
さて私は、子供の頃から、超のつく乾燥肌。
思春期に、ニキビで悩むことも無かった。
もしも美人であれば、今頃はしわくちゃになっていたであろう。
大きな瞳だと、開け閉めの可動範囲が広く
高い鼻だと、笑うたびに他の部位が引っ張られる。
これを半世紀も続ければ、無残な事態に陥っていたこと間違い無し。
しかし天は、我にささやかな幸運を与えたもう。
ツラの皮が厚いのと、凹凸を極力控えた地味な部品によって
自分ではまだ“無残”までは到達しておらず
せいぜい“残念”あたりだと思っている。
近年は製薬会社のみならず、食品会社など
畑違いの製造業が、化粧品業界に参入するようになった。
本業で培ったノウハウを化粧品に生かすと言えば聞こえはいいが
実際のところ、本業のほうが危ういのだろう。
様々使ってみたが、中には健闘していて、浸透力が格段に優れている物もある。
しかし、価格に見合う余韻が感じにくい。
理数はできるが、もののあわれや人情が理解不能な学生みたいな印象なのだ。
吸い込んだはいいけど、その後どうしてくれる?という気分。
使い続けているうちに、なんとかなるのかもしれないが
それを気長に待つ年月が、私にはもう、あまり無いような気がする。
写真は、現在の私に無くてはならぬもの3種である。
手前のブルーが、資生堂リバイタル・リフティングパクトという
パウダータイプのファンデーション。
出会いは突然やってきた。
義母ヨシコは、これを昔から使っていた。
去年、ヨシコと出かけた先で必要にかられ、一度だけ借りたのだ。
そのうるおい加減、なめらか加減、薄付きでありながらボロの隠れ加減に感動。
色々使ってきたが、これはダントツで私のランキング1位。
底が見えるようになっても、最後の最後まで綺麗に使える。
底が見えるようになった頃、メーカーの底力がわかるのだ。
割れにくさを追求すると、圧縮の方法や成分によっては
終わり頃に劣化してしまい、乗りが悪くなるものが多い。
四隅に残ったのをせっせとほじくるのも、興ざめな作業である。
これはいつまでもホロホロしっとり、開封時と変わらないコンディション。
さすが、女心を知り尽くしている。
ダテに長年、銀座で商売張ってないわい。
価格はレフィルで5千円と、私のような庶民には少々高めの設定だが
グラム数が多い。
しかも最後の一塗りまで、無駄なく美しい肌を演出できる実力をかんがみれば
むしろお徳用といえよう。
廃番にならないことを願う。
最近の売り場に並ぶ、色々なパウダーファンデーションのレフィルは
角が丸くなっているデザインが増えた。
買いやすい価格を実現するため、グラム数を減らしたのが目立たぬよう
長方形の角を削って、丸みを帯びたデザインにしてあるのかも…
流行だの傾向だのは、誰かの都合で作られている…
そんなことを考えながら買物をすると
人は楽しくないかもしれないが、私は楽しい。
真ん中の黄色いのは、資生堂エリクシール・シュペリエルというシリーズの
ナイトクリーム。
この基礎化粧品も先月、やはり乾燥肌のヨシコが
「口の周りがつっぱらないのよ!」と言って
シリーズを買いそろえたので、借りてみた。
我が砂漠、一瞬にて満たされり。
ファンデーションのことといい、私はヨシコを見くびっていた。
時はうつろい、姑と若い嫁だった我々の間柄は
いつの間にか、婆二人という関係に変わっていたのであった。
乾燥歴の長いヨシコは、良い物を知る先輩だったのだ。
店に走り、一式を買い込む。
香りは少々強めだが、量が多くて安いのにびっくりした。
ナイトクリームで5千円ちょっと。
化粧水やメイク落としは3千円台だったと思う。
美容液の類も、高価ではない。
今まで長年、砂漠との戦いに、手間ひまと大金を投じた半生は
いったい何だったのだ…腹まで立つ。
裕福な人や未来ある人、仕事柄大勢の視線を浴びる人は
存分に投資して磨けばよい。
しかし私のような、家でひっそりと終わりかけた女は
今さらこねくりまわしても、めざましい改善は望めないように思う。
乾燥の不快を克服したら、後はだましだまし余生を過ごすほうが
顔にも財布にも良策と考える。
後ろの赤いのが、資生堂ツバキウォーター。
髪の毛にシュッシュと吹くと、寝癖がすぐに落ち着き
ツヤが出て、いい感じ。
香りは、ちょっと懐かしさの漂う、オーソドックスなかぐわしさ。
うっとりしちゃう。
髪にもいいが、私は静電気防止の目的としても活用している。
外出する時、髪にシュッとやっておくと、ビリビリ!はまぬがれる。
これらを使いながら♪ようこ~そ~日本へ~♪
と歌う私を想像してもらいたい。
バカみたいだと思う。
しかしまさに♪ようこそ砂漠へ♪の心境なのだ。
巡り巡って、地道に誠実に研鑽を重ねた身近な存在に気づく…
ネズミの嫁入りみたいな気分よ。
ただし、今気に入っているというだけで
今後、心変わりをしないとは言えない。