今、私の周りではナスを持て余す人が続出している。
野菜はいっときに実るので
シーズンになるとたくさんもらうからだ。
うちもそれ。
でもナスは用途が広いので、たくさんいただいても困らない。
焼きナスや漬物を始め
ニンニクやトマト、玉ねぎ、ズッキーニと一緒に
オリーブオイルで炒めてスープで煮込んで
『ラタトゥイユ』を気取ったり
炒めてミートソースに加え、スパゲティにかけたり
マーボーナス、焼きナス…ナンボでもできる。
が、それでは追い付かないのが、お馴染みのユリちゃん。
嫁ぎ先がお寺という環境から、ナスが押し寄せる。
今年は特にすごいそうだ。
ユリちゃんの悲鳴を聞いた親切!な私は
料理の苦手な彼女の実力を考慮し、アイデアをいくつか伝える。
『ナスのグラタン』
①たくさんのナスを薄くスライスしてオリーブオイルで炒め
グラタン皿に敷き詰める
②その上からレトルト、または缶詰のスパゲティ・ミートソースを
軽くかける。
③さらに上から溶けるチーズをガバッとかけ
オーブントースターで焼く。
以上。
『揚げナス』
①小鉢一杯分の大根おろしを作っておく
②大きめのドンブリに、めんつゆをたっぷり入れる
②ナスを縦半分に切り、皮目に細く切り込みを入れる
③ナスを油で素揚にし、熱いうちにめんつゆに沈める
④作っておいた大根おろしを上からかぶせ、ネギを散らして冷やす
以上。
2倍希釈タイプのめんつゆの場合
大根おろしの水分で薄まるため、濃さは心配しなくていいが
薄味がお好みなら、水か湯を足して調整する。
ストレートタイプのめんつゆの場合
大根おろしの水分を軽く絞ってから使う。
『焼きナス・マヨネーズ』
①ボールにマヨネーズと少量の醤油を入れ
マヨネーズドレッシングを作っておく。
②焼きナスを作り、食べやすい大きさに切る
③マヨネーズドレッシングのボールに
焼きナス、削り節、ネギを投入して和える
以上。
醤油やポン酢で食べる、ポピュラーな焼きナスもいいけど
時には目先を変えると食欲が出るし
和え物にするとナスの消費量が増える。
ドレッシングにすりゴマをたくさん入れて
ゴマ味にしてもおいしい。
しかしその場合、既製品のゴマドレッシングと変わらないため
最初から市販のものを焼きナスにかけた方が簡単である。
と、このような料理を紹介したものの
ユリちゃんはお気に召さないご様子。
彼女の料理嫌いは筋金入りなのだ。
フライパンにオーブントースターという複数の調理器具で
早くも拒絶反応。
油で揚げるなんて、もってのほかだし
熱いうちに皮をむく焼きナスには、最初から近寄りたくないらしい。
私は考えた。
そして義母ヨシコのレシピを思い出す。
得意料理を焼肉!と言ってはばからないヨシコだが
ナスを使ったこの料理は時々作っていた。
何がいいって、ナスの大量消費にはもってこいの
コロンブスの卵みたいな料理。
ナスの皮を嫌う、ヨシコならではの一品である。
『ナスの炒め物』
①ナスの皮を全部むいて丸裸にする
②全裸のナスを縦半分に切り、細く切り込みを入れて
3センチの長さにカットしたら水にさらす
③水きりしたナスを油で柔らかくなるまで炒める
④砂糖、顆粒ダシ、醤油、七味唐辛子で味付け
以上。
ナスは皮をむいて裸にしたら、一回り小さくなる。
柔らかくなるまで炒めると、皮を失った無防備のナスは
気の毒なほど小さくなる。
そこへ調味用を加えると水分が出て、あわれなほど小さくなる。
この縮小三段階方式で、ナスの大量消費が見込めるのだ。
紫の皮に含まれるポリフェノールがどうのこうの
言ってる場合じゃない。
目的は1本でも多くナスを使うことに絞られている。
それに皮を除いた薄緑色のナスは、調理すると少し緑化が増す。
爽やかな淡いグリーンが目新しくて、食欲をそそる効果もあるのだ。
ユリちゃん、これには反応して、さっそく作ると言う。
フライパン一つで仕上がるところが、気に入ったようだ。
作る前に、彼女から念を押される。
「本当にナスだけよね?」
料理嫌いが気にするところは、味付けや工程ではなく
そこらしい。
そして10分後、写真が送られてきた。
白ゴマまで振りかけて、素晴らしい出来栄え。
真っ白な皿に盛られた翡翠色のそれは
私が作ったのより、よっぽどおいしそうだ。
なにげにくやしい。
最後に、手抜きとは言えないが、誰に出しても絶賛される
とっておきのナス料理をご紹介させていただこう。
これで料理上手の名声は欲しいままだ。
ただしこの料理、普通のナスでは型崩れするため
長ナスと呼ばれる30センチくらいの長いナスを使う。
長ナスは皮がしっかりしているので、崩れにくいからだ。
『ナス・バンジャン』
①醤油大さじ6、みりん大さじ6、砂糖大さじ3
酢大さじ4、豆板醬小さじ2
ニンニクひとかけ、ショウガ3センチ角
長ネギの白い部分1本分をそれぞれみじん切りにして
全部を混ぜておく
②長ナス6~8本を皮ごと、3センチの長さの輪切りにし
素揚げする。
③軽く油をきって、最初に混ぜた調味料たちの中に投入。
以上。
これはユリちゃんの兄嫁さんから教わったレシピ。
恒例のお祭りでは、必ずこれが出品される。
我々同級生も、祭のごはん作りに参加はするものの
手伝う老若男女のお目当ては、実はこれなのだ。
特に若い男性は好きなようで、毎年口々に言う。
「今年もありますかね?あのピリ辛のナス」
「ナス、食べに来ました!」
食べる前から、「おかわり、ありますか?」
と真剣にたずねる若者もいる。
皆、これを食べるために来たような、すごい料理なのだ。
兄嫁さんの実力は、ナスだけではない。
他の料理もプロ顔負けで、何でも作る。
ティラミスやシフォンケーキまで、そのまま販売できるような上級者。
こんなに料理上手な兄嫁さんがいるから
ユリちゃんの料理が上達しないのかもしれない。