相棒ナミと頻繁に交代することで、彼女との労働条件が平等になったため
体力の温存に余裕が生まれた私は、これまでは軽く流していた場面を見直すことにした。
泣いても笑っても、どうせビリ争い。
だったら、今まで体力的にセーブしていたことを取り払おうと思ったのだ。
そこで社長様、専務様と呼びかける“役職攻撃”に加え、“先生攻撃”もプラスした。
これらは昔からやっているが、今回は特に増量。
先生族を発見するたび、ことごとくやる。
その先生攻撃とは…
現役や元を問わず、町には“先生”がたくさんいる。
王道である教師を始め、華道、茶道、書道などの道系…
それから趣味が高じた系のカラオケ、スポーツ、楽器、手芸、俳句川柳、郷土史…
そして僧侶も先生だ。
十人に一人は先生じゃないだろうか、というほど。
先生という生き物は、人から先生と呼ばれることを非常に好む。
そりゃもう、社長や専務の比ではない。
皆さん、人にものを教える仕事に誇りを持っておられるのだ。
よって、顔のわかる人には先生と呼びかける。
街宣で個人的なことはあんまり言っちゃいけないんだけど
先生はそこら中にいるんだから、特定個人を対象にしたとは断言できないので気にしない。
ご主人様、奥様…と呼ぶのとは、反応が全く違う。
そして市内には、私の学校の恩師がたくさんご存命だ。
選挙のたびにご尊顔を拝見できるのは、私の楽しみである。
長寿の先生たちは選挙に関心があるので、選挙カーが通ると窓から見たり
手を振りに出て来る確率が高い。
さらに彼らはたいてい、郊外にある大きめの一軒家に住んでいる。
ということは敷地が広いということで
敷地が広いとは、顔を出した本人に直接呼びかける時間と距離が確保できることである。
だから、すかさず言う。
「先生、お元気そうなお姿、嬉しゅうございます。
先生の教え子は市議にはなれませんでしたが
お陰様で、◯◯市が誇る市議のウグイスにはなれました」
もちろん、私がどこの誰だか、向こうはわからないままに選挙カーは通り過ぎる。
しかし、先生の盛り上がりようは真剣さが違う。
以後は必ず出て来て、時には夫婦で、見えなくなるまで手を振ってくれる。
教え子というのは、いつまで経っても可愛いものなのだろう。
このような呼びかけやセリフの変更は、市内のちょっとした観光スポットでも実行。
今まで観光地では、声を小さめにしていた。
チラホラいる観光客には、やかましくて邪魔だろうし
よそから来た選挙権の無い観光客に媚びたって仕方がないと思い
周囲の商店主を対象にしたセリフをチャチャッとしゃべって通過していたのだ。
が、今回は“観光客攻撃”で、積極的に話しかける。
「ようこそお越しくださいました。
私どもの町は、気に入っていただけましたでしょうか?
どうぞ楽しんでくださいませ」
「ぜひまた、いらしてくださいませね。
町民一同、心よりお待ちしております」
すると手を振ってくれるし問いかけにも応えてくれ、辺りは大変盛り上がる。
だんだんエスカレートして、候補は外国人に英語で
「どこから来たの?」
などと、たずねている。
皆さん、すごく楽しそうだ。
無粋な選挙カーも、やり方によっては旅の思い出の一つになるらしい。
さらに、“お子様攻撃”も大幅に加算。
これも前からやってはいたが、時と場合によっては
「ありがとうございます、元気で大きくなってくださいね」
そう流して終わることも多かった。
こちらに注目させてしまうことで、転んだり危ない目に遭うといけないからだ。
が、今どきの小さい子は賢い。
親から言い聞かされているのか、公園から絶対に出ないし
選挙カーを追いかけて道路を一緒に走るようなこともせず
周りをちゃんと見て、安全を保ちながら声援を送る。
18才以上には選挙権が与えられたことだし、お子様も立派な“お得意様予備軍”になったので
子供には時間の許す限り、語りかける。
「モミジのような可愛らしいお手を振ってくださり、ありがとうございます。
その小さなお手で、いつか大きな幸せをつかむことができますよう
◯◯は一生懸命、働きます」
キャッキャッと激しく反応するお子様たちである。
そして近年は手を振ったり、会釈をしてくれる中高生が増えた。
思い返すと12年前までは、「うるさい!」、「◯ね!」などと野次を飛ばす少年たちが存在した。
そのため、こちらに好意的な子たちに対しても、あんまりクドクドと関わることは控えていた。
それが元で前者が後者をからかったり、因縁をつけるようなことがあってはいけないからだ。
が、少子化も影響しているのか、野次を飛ばす子はいなくなり、学生は大人っぽく上品になった。
本能のままに振る舞っていたら、将来にさしつかえることを自覚する子が増えたのだろう。
「お若いかたが選挙に関心を持ってくださり、◯◯は嬉しいです。
お一人お一人に素晴らしい未来が訪れますよう、お祈りいたしております」
「18才になられましたら、市議選挙は◯◯、投票用紙には◯◯とお書きくださいませ」
などと、こちらも呼びかけやすくなったというものである。
さて、電化製品やファッションに流行り廃りがあるように
ウグイスのセリフにも流行り廃りがある…と、私は思っている。
「◯◯をよろしくお願いいたします」、「皆様のご支持ご支援」、「力一杯」「誠心誠意」…
これらをリピートするばかりでは、聞く方も飽き飽きだろうが、言う方も飽き飽きだ。
この手の古典も持ち球の一つとして使用するが、私の武器は韻を踏んだような個性的なセリフである。
今回はこの武器を多く使った。
中でも自信作は、これ。
「どうか◯◯◯◯、それでも◯◯◯◯、やっぱり◯◯◯◯、きっぱり◯◯◯◯」
このセリフは前回の選挙で試験的に使い始め、今回は持ち球の一つとして仕上げた。
単純で簡単そうだが、実は候補の苗字が四文字でなければ不可能なセリフだ。
苗字が二文字や三文字、五文字以上だと無理。
四文字限定というのが、個人的に気に入っている。
7、8、8、8のリズムで片付くなら何でもいいので
「それでも」の箇所を「絶対」や「必ず」に差し替えて強く押したり
「できれば」や「なんとか」で軽く引いたりと、雰囲気に合わせて変更する。
そしてこのセリフは、かなりの肺活量が無ければノーブレスでゆっくりと言えない。
途中で息継ぎをすると、間が抜けてインパクトが失われるからだ。
ブラスバンド出身の私にしか言えないセリフを、今回は連発した。
だからってどうということもないが、選挙カーの中はなぜか盛り上がる。
そうさ…得票数アップは望めないと確信したその時から
私は「盛り上げ」にテーマを絞った。
元々、盛り上げることには気を使っているが、さらに強く意識する。
それが4年後に繋がると思っている。

今回のウグイス服。
マミちゃんの洋品店で求めた、ワコールの製品。
動きやすいデザインと抜群の肌触りもさることながら、特筆すべきは襟。
ハイネックが立ち上がったまま、へたらないので喉の保温に最適な、まさにウグイス仕様。
ジーンズシャツの上にセーターを合わせたような、だまし絵的な柄がふざけているが
上に紫色の薄手のダウンを羽織るので目立たない。
性能重視で買って正解だった。
《続く》
体力の温存に余裕が生まれた私は、これまでは軽く流していた場面を見直すことにした。
泣いても笑っても、どうせビリ争い。
だったら、今まで体力的にセーブしていたことを取り払おうと思ったのだ。
そこで社長様、専務様と呼びかける“役職攻撃”に加え、“先生攻撃”もプラスした。
これらは昔からやっているが、今回は特に増量。
先生族を発見するたび、ことごとくやる。
その先生攻撃とは…
現役や元を問わず、町には“先生”がたくさんいる。
王道である教師を始め、華道、茶道、書道などの道系…
それから趣味が高じた系のカラオケ、スポーツ、楽器、手芸、俳句川柳、郷土史…
そして僧侶も先生だ。
十人に一人は先生じゃないだろうか、というほど。
先生という生き物は、人から先生と呼ばれることを非常に好む。
そりゃもう、社長や専務の比ではない。
皆さん、人にものを教える仕事に誇りを持っておられるのだ。
よって、顔のわかる人には先生と呼びかける。
街宣で個人的なことはあんまり言っちゃいけないんだけど
先生はそこら中にいるんだから、特定個人を対象にしたとは断言できないので気にしない。
ご主人様、奥様…と呼ぶのとは、反応が全く違う。
そして市内には、私の学校の恩師がたくさんご存命だ。
選挙のたびにご尊顔を拝見できるのは、私の楽しみである。
長寿の先生たちは選挙に関心があるので、選挙カーが通ると窓から見たり
手を振りに出て来る確率が高い。
さらに彼らはたいてい、郊外にある大きめの一軒家に住んでいる。
ということは敷地が広いということで
敷地が広いとは、顔を出した本人に直接呼びかける時間と距離が確保できることである。
だから、すかさず言う。
「先生、お元気そうなお姿、嬉しゅうございます。
先生の教え子は市議にはなれませんでしたが
お陰様で、◯◯市が誇る市議のウグイスにはなれました」
もちろん、私がどこの誰だか、向こうはわからないままに選挙カーは通り過ぎる。
しかし、先生の盛り上がりようは真剣さが違う。
以後は必ず出て来て、時には夫婦で、見えなくなるまで手を振ってくれる。
教え子というのは、いつまで経っても可愛いものなのだろう。
このような呼びかけやセリフの変更は、市内のちょっとした観光スポットでも実行。
今まで観光地では、声を小さめにしていた。
チラホラいる観光客には、やかましくて邪魔だろうし
よそから来た選挙権の無い観光客に媚びたって仕方がないと思い
周囲の商店主を対象にしたセリフをチャチャッとしゃべって通過していたのだ。
が、今回は“観光客攻撃”で、積極的に話しかける。
「ようこそお越しくださいました。
私どもの町は、気に入っていただけましたでしょうか?
どうぞ楽しんでくださいませ」
「ぜひまた、いらしてくださいませね。
町民一同、心よりお待ちしております」
すると手を振ってくれるし問いかけにも応えてくれ、辺りは大変盛り上がる。
だんだんエスカレートして、候補は外国人に英語で
「どこから来たの?」
などと、たずねている。
皆さん、すごく楽しそうだ。
無粋な選挙カーも、やり方によっては旅の思い出の一つになるらしい。
さらに、“お子様攻撃”も大幅に加算。
これも前からやってはいたが、時と場合によっては
「ありがとうございます、元気で大きくなってくださいね」
そう流して終わることも多かった。
こちらに注目させてしまうことで、転んだり危ない目に遭うといけないからだ。
が、今どきの小さい子は賢い。
親から言い聞かされているのか、公園から絶対に出ないし
選挙カーを追いかけて道路を一緒に走るようなこともせず
周りをちゃんと見て、安全を保ちながら声援を送る。
18才以上には選挙権が与えられたことだし、お子様も立派な“お得意様予備軍”になったので
子供には時間の許す限り、語りかける。
「モミジのような可愛らしいお手を振ってくださり、ありがとうございます。
その小さなお手で、いつか大きな幸せをつかむことができますよう
◯◯は一生懸命、働きます」
キャッキャッと激しく反応するお子様たちである。
そして近年は手を振ったり、会釈をしてくれる中高生が増えた。
思い返すと12年前までは、「うるさい!」、「◯ね!」などと野次を飛ばす少年たちが存在した。
そのため、こちらに好意的な子たちに対しても、あんまりクドクドと関わることは控えていた。
それが元で前者が後者をからかったり、因縁をつけるようなことがあってはいけないからだ。
が、少子化も影響しているのか、野次を飛ばす子はいなくなり、学生は大人っぽく上品になった。
本能のままに振る舞っていたら、将来にさしつかえることを自覚する子が増えたのだろう。
「お若いかたが選挙に関心を持ってくださり、◯◯は嬉しいです。
お一人お一人に素晴らしい未来が訪れますよう、お祈りいたしております」
「18才になられましたら、市議選挙は◯◯、投票用紙には◯◯とお書きくださいませ」
などと、こちらも呼びかけやすくなったというものである。
さて、電化製品やファッションに流行り廃りがあるように
ウグイスのセリフにも流行り廃りがある…と、私は思っている。
「◯◯をよろしくお願いいたします」、「皆様のご支持ご支援」、「力一杯」「誠心誠意」…
これらをリピートするばかりでは、聞く方も飽き飽きだろうが、言う方も飽き飽きだ。
この手の古典も持ち球の一つとして使用するが、私の武器は韻を踏んだような個性的なセリフである。
今回はこの武器を多く使った。
中でも自信作は、これ。
「どうか◯◯◯◯、それでも◯◯◯◯、やっぱり◯◯◯◯、きっぱり◯◯◯◯」
このセリフは前回の選挙で試験的に使い始め、今回は持ち球の一つとして仕上げた。
単純で簡単そうだが、実は候補の苗字が四文字でなければ不可能なセリフだ。
苗字が二文字や三文字、五文字以上だと無理。
四文字限定というのが、個人的に気に入っている。
7、8、8、8のリズムで片付くなら何でもいいので
「それでも」の箇所を「絶対」や「必ず」に差し替えて強く押したり
「できれば」や「なんとか」で軽く引いたりと、雰囲気に合わせて変更する。
そしてこのセリフは、かなりの肺活量が無ければノーブレスでゆっくりと言えない。
途中で息継ぎをすると、間が抜けてインパクトが失われるからだ。
ブラスバンド出身の私にしか言えないセリフを、今回は連発した。
だからってどうということもないが、選挙カーの中はなぜか盛り上がる。
そうさ…得票数アップは望めないと確信したその時から
私は「盛り上げ」にテーマを絞った。
元々、盛り上げることには気を使っているが、さらに強く意識する。
それが4年後に繋がると思っている。

今回のウグイス服。
マミちゃんの洋品店で求めた、ワコールの製品。
動きやすいデザインと抜群の肌触りもさることながら、特筆すべきは襟。
ハイネックが立ち上がったまま、へたらないので喉の保温に最適な、まさにウグイス仕様。
ジーンズシャツの上にセーターを合わせたような、だまし絵的な柄がふざけているが
上に紫色の薄手のダウンを羽織るので目立たない。
性能重視で買って正解だった。
《続く》