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崖っぷちウグイス日記・13

2022年12月17日 11時13分48秒 | 選挙うぐいす日記
前回の記事のコメント欄で、田舎爺Sさんがおっしゃった。

『蟹工船なみの激務の日々』

いやはや、全くその通り。


朝8時から夜8時まで、拘束時間は12時間。

昼休憩と合間のトイレ休憩が、合計で約1時間。

実働11時間でギャラは一応、一日当たりの上限が15,000円。

時給に換算すると1,363円。

しかし15,000円という金額は物価上昇に合わせた忖度みたいなもので

本来の制度は上限が12,500円。

すると時給は1,136円になる。

この賃金で過酷なドライブをするのだから、ブラックなのは確かだ。

ただし、これらはあくまでも上限。

候補や陣営がケチな所は10,000円だったり数千円の所もある。


そしてブラックな上に、定職を持てないのがウグイス。

選挙期間中は働くどころではないため

基本無職か、自由に休める仕事でなければウグイスはできない。

が、選挙はしょっちゅうあるわけではないので高い年収は望めない。

選挙の無い間は旦那さんの収入に頼るか、短期アルバイトで食いつなぐのが現実である。


しかしウグイスをやる人にとって、ゼニカネは二の次だ。

お金よりもまず、お呼びがかかるかどうか

そして次の依頼に繋がるかどうかが先のようである。

おそらく、この仕事が心底好きなんだろう。

学校の文化祭や運動会に燃える生徒がいるのと同じように

選挙と聞けば居ても立っても居られない体質の人が、世間には存在する。

プロのウグイスの多くは、それ。


しかし私は、そのタイプではない。

ウグイスが好きなわけでもなく、新しいクライアントを増やす気も全く無い。

こんなしんどいこと、そうたびたびやっていたら命が縮む。

好きな所で4年に1回、サッカーのW杯がある年にやるだけで手一杯。

私の言う好きな所とは、尊敬できる候補でギャラが申し分なく

陣営が善人揃いの安心安全な所である。


それから補足になるが、近年の大きな選挙では倍の人数のウグイスを雇い

半日ずつ使って1日分に該当する手当を支払う陣営が出てきたという。

そうしなければウグイスが集まらない時代になってきたようだ。

12時間拘束で倍のギャラを支払うのは明らかな違反だけど

6時間拘束で多めに支払うのは、今のところ大丈夫らしい。

定職が持てないので、ウグイスをやろうという若い人がいなくなり

ウグイス業界は高齢化の一途。

体力的にも半日の方が良いかもしれない。



さて選挙戦は最終日まで、たいした事件も起こらず平穏に過ぎ去った。

候補が山奥村の一角で街頭演説をするため、皆で外に立っている時に

なぜかナミの周りに蜂が数匹、集まってきたぐらいだ。

ナミは8年前から毎回、濃いピンク色のジャンパーを着ている。

蜂って、黒が好きじゃなかったっけ…。


ナミの災難を前に、私は助けることができない。

二人とも刺されたら、ウグイスに支障が出るからだ。

蜂は追い払いたい、しかし強いアクションをすると刺されそう…

ナミは街宣許可の旗を胸に当てたまま、手首だけバタバタ動かしていた。

その仕草がピグモンみたいで面白かったので、ドライバーと腹を抱えて笑った。

なんと冷たいことよ。

そのうち演説が終わったので、ナミは幸いにも蜂に刺されなかったが

秋の農村地帯で濃いピンクは危ないのかもしれない。



こうして選挙戦は終わった。

翌日の投票日の夜には、みんな選挙事務所に集まる。

ナミは、ウグイスから候補に渡す花束を買って来ることになっていた。

花束は目立つので、あんまり人が集まらないうちに早めに来るという。

だから私も夫と夜7時に行き

ナミ母娘とおしゃべりをしながら8時の開票を待つことにした。


「姐さん、町の反応もすごく良かったし、前回より絶対に票が増えてますよね」

ナミは小声で嬉しそうに言う。

立候補者にとって、得票数は大事だ。

議会の席順はこの得票数によって決まり、今後4年間そのまま。

当然、議員の立場にも影響する。

同じ仕事をして同じ報酬をもらっても、得票数の少ない議員は肩身が狭いものだ。

これから4年間の議員生活は、得票数で決まるといっても過言ではない。

我々ウグイスも、この得票数のために頑張っているのである。


「何を言うとんね…前回より少ないよ」

ナミよりも、さらに小声で告げる私。

「え?前回より減ったら、史上最低じゃないですか」

「票だけじゃなく、順位も史上最低になるよ」

「信じられません。

だって、Tさん(引退議員その2)たちもご尽力くださったし…」

「アレらがご尽力くださるから、なお悪い」

「え〜?…3人分の票が来るんだから、かなり増えるんじゃないんですか?」

「出陣式で挨拶までして、それっきりのMさん(引退議員その1)と

柿をくれんかったIさん(引退議員その3)が、ゼスチャーなのはわかろう」

「でも、Tさん(引退議員その2)は毎日、来てくださってましたよね。

あの人だけは違うんじゃあ…」

「ハン…毎日来るモンが、何で一番大事な出陣式に来んのじゃ。

出陣式の参加人数掛ける何十倍が、そのまま得票数と言うてもええんじゃけん

一人でも多い方がええのは誰でも知っとる。

毎日来る暇があるんなら、何をさておいても出陣式に来るはずじゃ」

「それは何か、ご都合が…」

「無い。

現に、初日の昼には来たろう」

「はい…」

「出陣式に来んかったモンが毎日事務所に詰めるなんて

葬式には出ずに法事は皆勤みたいなもんじゃん。

あの人、よその出陣式に行ったと思う。

たいして歓迎されんかったけん、ここへ来るようになったんじゃが」

「そんな…」

「ええ加減な人なんよ。

コケモモ堂のコケ饅頭だって、毎日持って来る来る言うて、結局無かったろう」

「コケ饅頭の恨み…」

「そうじゃない。

選挙が終わるまでは、一応あれでも議員じゃけん

事務所に何時間も詰めとったら、周りが緊張するじゃないの。

罪の無い差し入れの一つや二つは持って来て、和ませるのが常識じゃんか」

「確かに…どこの選挙事務所でもそうですよね」

「最後まで手ぶらで来れる神経の人が、うちの候補にくれる票なんか持っとるわけないじゃん」


などと話していたら話題の引退議員その2、Tさん72才がやって来た。

花束の代わりなのか、大きな白いポインセチアの鉢植えを抱えている。

リボンも何も無し、緑のてっぺんに白い葉っぱがボンヤリと浮かぶさまは

闇夜の幽霊みたいでいかにも縁起悪そう。

ポインセチアいうたら、赤じゃろが普通。


「ほれ、やっと何か持って来た思うたら、これじゃ」

「こういうことなんですね」

私はナミと密かに笑った。

《続く》

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2 コメント

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Unknown (モモ)
2022-12-19 10:55:32
相変わらず、みりこん姉さんの読みは深くて鋭いですね。選挙参謀を引退されるのはもったいないです。しかし、ヨシコさんの相手を考えると、悩ましいですね。次回は次男さんとルイーゼさんのセットでヨシコさん対策はどうでしょうかね。
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Unknown (みりこん〜モモさんへ)
2022-12-19 13:31:38
そうなんです。
ヨシコさんの相手がね〜笑
今回は犬に噛まれたショックもあって、おもりが大変だったようです。
こういったどうにもならない時、ルイーゼは普段以上に冷淡で
次男はマイペース。
ブーブー言いながらも責任を全うする長男が頼りになりますが
なるほど、次にあったら人数を増やして対応することは
名案だと思います。
ついでに夫にドライバーをさせず、母親にあてがう。
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