TONALITY OF LIFE

作曲家デビュー間近のR. I. が出会った
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北欧のチェア ~ ナナ・ディッツェルの「トリニダード・チェア」

2010-01-09 14:40:52 | インテリア
通っていた大学では、建築科の友人が椅子を制作していた。
確か一年生に課せられる恒例の課題であったと記憶している。
当時はなんとも思わなかったのだが、
様々な雑誌で椅子が特集され、北欧家具の人気が日本でもここまで定着してくると、
これは建築家を志す学生にとってかなり粋な課題だったのではないかとふと思い返された。
北欧のインテリアデザイナーは建築家としての教育も受けると聞く。
家具は家の一部。家というビッグスケールの空間デザインを学んで初めて、
インテリアというスモールスケールでのデザインが可能になるという考えに基づくらしい。
建築科学生による椅子制作は、美術系の建築科ならではの逆パターンといったところか。

さて、社会人になってからの一人暮らしで割と最初に購入したのが
ナナ・ディッツェルのトリニダード・チェア。
あまたある椅子のなかから惹かれた理由は、座り心地以外では背の部分のデザインにあった。
すなわち、優美な丸みと、扇状に細長くくり貫かれた穴である。
デンマーク出身の女性デザイナー、ナナ・ディッツェル(1923-2005)のデザインは、
貝殻や蝶など自然界のかたちを源にしていることが多い。
トリニダード・チェアは中米のトリニダードの街で見かけた
ジンジャーブレッドの型抜きにインスピレーションを受けたとされるが、
雑誌で読んだ彼女のインタビューが事前にインプットされていたせいか
R. I. にはそれが放射状に広がる椰子やニューサイランの葉のように感じられた。

ある晩、「ねえ、ほら見て」とかみさん。
ダイニングの壁に写真のような影が映し出されているではないか。
二方向からのハロゲンランプを受けて織りなされた美しい影模様。
思えば“光”もまた北欧が得意とする分野の一つである。
椅子同様、照明にも無数の傑作がひしめいていて、
部屋のなかに陰翳のグラデーションを作り出すセンスにおいては他の追随を許さない。
長く暗い冬ゆえ室内に目が向けられて発展してきたと言われる北欧のデザイン。
トリニダード・チェアをくぐり抜けた光と影にその感性を見た。

参考文献: 雑誌『pen』1999年10月号No.33「北欧 男たちのスタイル」、TBSブリタニカ

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