オートバイで旅して観たモノの記録

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八鬼山越え④ 荒神堂~八鬼山峠

2022年05月22日 | 熊野古道
【目次 : 八鬼山越え】①序章, ②七曲がり, ③桜茶屋一里塚~九木峠, ④荒神堂~八鬼山峠, ⑤さくらの森広場, ⑥江戸道,十五朗茶屋まで, ⑦終章, ⑧エンドロール



 九木峠で少し休憩した後は,八鬼山峠に向かって一気に歩き出す.そして,九木峠から急に木漏れ日が差し込むようになり,辺りの雰囲気が急に変わる.峠まではあと700メートル弱だ.



 九木峠から10分ほど歩くと,正面に荒神堂の建屋が現れる.荒神堂の歴史は古く,今から1300年も遡るという.修験者によって八鬼山日輪寺が開かれるものの,その後衰退したが,各真という人が1573年に復活させたと言われている.



 荒神堂の前は広場になっていて,木漏れ日がスポットライトのように頭上から降りそそいでいた.時間が止まったような神秘的な空間だ.かつてここにも,食事のほかに餅や酒を売る荒神茶屋があったそうだ.明治の頃になると,名物の饅頭が飛ぶように売れたと言う.



 それにしても,荒神堂の建屋がとてもきれいなので不思議に思う.調べてみると,荒廃が進んでいたため,令和元年に尾鷲市の有志らにより再建されたそうだ.お堂の中には,各真を偲んで,八鬼山三宝荒神石像が祀られていると言う.



 荒神堂は実に神秘的な空間で,少しの間,ベンチに腰掛けて何をするわけでもなく,心を無にして過ごす.時折,鳥のさえずりが聞こえてくるだけで,辺りは静けさで張り詰めていた.さあ,八鬼山峠へ急ぐことにしよう.



 荒神堂から峠までは,およそ300メートルで約10分だ.尾根伝いに近いのか,陽射しがさんさんと降りそそぎ,辺りはとても明るい.辛い登り坂もこれで終わってしまうと思うと,なんだか寂しい気がした.



 そして,無事に八鬼山峠にたどり着く.峠は残念ながら視界が開けず,熊野灘は見えない.八鬼山峠は,別名,三木峠とも呼ばれていて,三木峠茶屋跡に東屋が建てられている.そして,峠で江戸道と明治道の二手に分かれる.



 雪の結晶のスケッチが記載されていることで有名な北越雪譜の著者,鈴木牧之は1796年に西国巡礼の途中で八鬼山越えをしている.そして,八鬼山峠で見た景色に感動して次の句を残している.

絶頂の茶店にて 春寒し見おろす海の果しなき




 峠から江戸道を少し歩くと,山頂へ行くことができる.山頂には丸みを帯びた大きな石がある.鈴木牧之の時代は,今のように植林が進んでいなくて,この峠から果てしなく広がる熊野灘が見えたのかもしれない.



 峠にたどり着いて,目標を達成した爽快感と同時に一抹の寂しさを覚えた.楽しかった道程も残り半分となってしまった.さあ,ここからは下りだ.気合を入れ直して行こう.幸い,疲れがあるだけで,体のどこにも痛みはまだなかった.

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