《電磁波研会報から》
◆ 保育園児を対象とした
午睡見守りWi-Fiシステムの電磁波測定
◆ 「見守りシステム」で見落とされている電磁波曝露
近年になって増加してきた電波の新たな用途として、「ICTを活用した見守りシステム」がある。
対象は主として、通学時などに“危険”にさらされる恐れのある学童と、認知症を患っていて俳徊の恐れがあったり、一人暮らしであったりする高齢者、である。
例えば、大阪府伊丹市では、市内の電柱などにビーコン受信器を配備し、子どもや俳徊する認知症高齢者などの位置情報を保護者・近親者などに24時間体制で知らせる仕組み「まちなかミマモルメ」が導入されている(阪神電鉄との連携事業)。
ビーコン発信機を持った子どもや高齢者が設置された受信機に近づくと、通過履歴がサーバーに送られ、保護者や市民ボランティアがスマホで受信するというもので、これを導入して以降、街頭犯罪・侵入犯罪の抑止効果があったとされる(※1)。
※1電信柱から小学生を見守り、防犯カメラとビーコンを併用一一伊丹市
https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/434167/122800048/?ST=ppp-print
こうした自治体での導入事例は、総務省の後押しもあって(※2)、実証実験段階のものも含めて、徐々に増加しているものと思われる。
例えば、東京都墨田区でも、区が(株)アサヒ飲料と情報通信研究機構(NICT)と共同で、区内の電柱やアサヒ飲料の自動販売機(のうち約100台)に無線ルーターを搭載し、近隣を通過したビーコンの履歴を家族のスマートフォンやパソコンに伝える、という実証実験を進めている。
※2『児童見守りシステム導入の手引書』(総務省情報流通行政局)
http://www.soumu.90.jp/main_sosiki/joho_tsusin/top/local_support/pdf/ict_service_ddsl.pdf
ただし、このような広域の導入は費用がかなり高額となり、予算化が必ずしもうまくいくとは限らない。
そこで、例えば養護施設や学校や保育園などに、行政が補助金を出しつつ、各施設や保護者らに負担を求めていく、ということになる。
施設関係者や保護者らが、「それで安全をより確かなものにできるのなら、多少の負担はやむを得ない」という気持ちに傾きさえすれば、ICTならびに通信事業者にとっては、相当な利益が長期に渡って確保できることになる。
こうした「見守りシステム」を導入する際には、当然のことながら、対象となる本人たち(子どもや高齢者)もしくはその保護者の同意が必要とされるが、はたして、そのメリット(効果)とデメリット(使用に伴う何らかのリスク)そして負担する費用の合理性などが、事業者からきちんと説明されているのだろうか。
じつは、私の見る限り、説明されていないどころか、そうした問題があること自体が忘れられがちなのが、「そのシステムを使うことで、どのような電波をどれだけ浴びることになるのか」という電磁波曝露の問題である。
◆ 安曇野市に陳情書が出された経緯
このたび、市民科学研究室が長野県安曇野市在住の女性(Iさん、「電磁波過敏症問題の会」メンバー)から相談を受けて、調査することになったのは、まさにこの問題であった。
安曇野市にある保育園のうち2箇所(「アルプス認定こども園」「有明の森認定こども園」)において、ソフトバンクの子会社「パグモー社」が開発した「午睡センサーマット」を試験的に導入することとなった(7月26日に各園から保護者への通知がなされた)。
これは、長野県が実施している「保育士業務に関するIT活用の検討」事業の一環であり、ソフトバンクと長野県はこの件で包括連携協定を結んでいる。バグモー社が導入を持ちかけているのは、大別して二つのシステムがあり、両システムともWi-Fiを用いる。
一つが今述べたセンサーマットであり、これは3歳児未満のお昼寝布団にセンサー付きマットを敷き、心拍数、呼吸数、体温などのデータを可視化して把握できるようにして、突然死の防止や保育士の労働軽減につなげるというもの(「hugsafety(パグセーフティ)」と名付けられている)。
もう一つは、専用のタブレット端末(「hugnote(パグノート)」と名付けられている)を用いて、園児の登園・降園をチェックし、延長保育の時間を管理し、そうした情報を含めて保護者への連絡をデジタルで保護者のスマホに配信するものである(パグセーフティでもこのバグノート端末を用いる)。
松本市ではすでに2018年からこのパグノートの試験的導入が始まっており、2019年度から2年がかりで公立保育園(43園)への本格導入を目指している。
2019年に塩尻市と安曇野市で試験的導入が決まった時点で、Wi-Fiの電波を幼児が曝露することで健康に影響が出るのではないかと懸念したIさんならびに同じく「電磁波過敏症問題の会」の0さんの2名が、安曇野市に陳情書を提出した(5月27日)。
その要点は以下のとおりで、きわめてまっとうなものである。
◆ 参考人として承知された際の陳述
(略)
◆ 陳情の採択へ
筆者がこの報告書を送ってから約1ヶ月後、9月12日に安曇野市議会福祉教育委員会において、市立認定こども園のICTによる業務効率化についてのIさんらの陳情が採択された。そこでは、
今回の試験導入では業者の説明チラシと園側の「案内」による告知のみだったことを思うと、これは明らかな前進と言えるだろう。
また、Iさんらの
むろん、数日間(午睡時の合計時間で10数時間未満)のWi-Fiの電波の曝露で急性的な体調の変化がみられたら、それこそ驚くべきことになってしまうが、上記『報告書』のなかで述べたように、高い感受性を持つ幼児期に恒常的にそれなりに高いレベルのWi-Fiの電磁波を曝露することは、将来において慢性的影響をもたらすかもしれないことに留意しておかねばならない。
全国的に展開されていく可能性の高い、この保育園児を対象とした午睡時の「見守りシステム」パグセーフティは、やはり、対象が幼児であるだけに、安易に導入してはならないものであろう。
導入を検討している自治体や保育園に再考を求めたい。
『電磁波研会報 120号』(2019年9月29日)
◆ 保育園児を対象とした
午睡見守りWi-Fiシステムの電磁波測定
上田昌文さん(NPO法人市民科学研究室)
◆ 「見守りシステム」で見落とされている電磁波曝露
近年になって増加してきた電波の新たな用途として、「ICTを活用した見守りシステム」がある。
対象は主として、通学時などに“危険”にさらされる恐れのある学童と、認知症を患っていて俳徊の恐れがあったり、一人暮らしであったりする高齢者、である。
例えば、大阪府伊丹市では、市内の電柱などにビーコン受信器を配備し、子どもや俳徊する認知症高齢者などの位置情報を保護者・近親者などに24時間体制で知らせる仕組み「まちなかミマモルメ」が導入されている(阪神電鉄との連携事業)。
ビーコン発信機を持った子どもや高齢者が設置された受信機に近づくと、通過履歴がサーバーに送られ、保護者や市民ボランティアがスマホで受信するというもので、これを導入して以降、街頭犯罪・侵入犯罪の抑止効果があったとされる(※1)。
※1電信柱から小学生を見守り、防犯カメラとビーコンを併用一一伊丹市
https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/434167/122800048/?ST=ppp-print
こうした自治体での導入事例は、総務省の後押しもあって(※2)、実証実験段階のものも含めて、徐々に増加しているものと思われる。
例えば、東京都墨田区でも、区が(株)アサヒ飲料と情報通信研究機構(NICT)と共同で、区内の電柱やアサヒ飲料の自動販売機(のうち約100台)に無線ルーターを搭載し、近隣を通過したビーコンの履歴を家族のスマートフォンやパソコンに伝える、という実証実験を進めている。
※2『児童見守りシステム導入の手引書』(総務省情報流通行政局)
http://www.soumu.90.jp/main_sosiki/joho_tsusin/top/local_support/pdf/ict_service_ddsl.pdf
ただし、このような広域の導入は費用がかなり高額となり、予算化が必ずしもうまくいくとは限らない。
そこで、例えば養護施設や学校や保育園などに、行政が補助金を出しつつ、各施設や保護者らに負担を求めていく、ということになる。
施設関係者や保護者らが、「それで安全をより確かなものにできるのなら、多少の負担はやむを得ない」という気持ちに傾きさえすれば、ICTならびに通信事業者にとっては、相当な利益が長期に渡って確保できることになる。
こうした「見守りシステム」を導入する際には、当然のことながら、対象となる本人たち(子どもや高齢者)もしくはその保護者の同意が必要とされるが、はたして、そのメリット(効果)とデメリット(使用に伴う何らかのリスク)そして負担する費用の合理性などが、事業者からきちんと説明されているのだろうか。
じつは、私の見る限り、説明されていないどころか、そうした問題があること自体が忘れられがちなのが、「そのシステムを使うことで、どのような電波をどれだけ浴びることになるのか」という電磁波曝露の問題である。
◆ 安曇野市に陳情書が出された経緯
このたび、市民科学研究室が長野県安曇野市在住の女性(Iさん、「電磁波過敏症問題の会」メンバー)から相談を受けて、調査することになったのは、まさにこの問題であった。
安曇野市にある保育園のうち2箇所(「アルプス認定こども園」「有明の森認定こども園」)において、ソフトバンクの子会社「パグモー社」が開発した「午睡センサーマット」を試験的に導入することとなった(7月26日に各園から保護者への通知がなされた)。
これは、長野県が実施している「保育士業務に関するIT活用の検討」事業の一環であり、ソフトバンクと長野県はこの件で包括連携協定を結んでいる。バグモー社が導入を持ちかけているのは、大別して二つのシステムがあり、両システムともWi-Fiを用いる。
一つが今述べたセンサーマットであり、これは3歳児未満のお昼寝布団にセンサー付きマットを敷き、心拍数、呼吸数、体温などのデータを可視化して把握できるようにして、突然死の防止や保育士の労働軽減につなげるというもの(「hugsafety(パグセーフティ)」と名付けられている)。
もう一つは、専用のタブレット端末(「hugnote(パグノート)」と名付けられている)を用いて、園児の登園・降園をチェックし、延長保育の時間を管理し、そうした情報を含めて保護者への連絡をデジタルで保護者のスマホに配信するものである(パグセーフティでもこのバグノート端末を用いる)。
松本市ではすでに2018年からこのパグノートの試験的導入が始まっており、2019年度から2年がかりで公立保育園(43園)への本格導入を目指している。
2019年に塩尻市と安曇野市で試験的導入が決まった時点で、Wi-Fiの電波を幼児が曝露することで健康に影響が出るのではないかと懸念したIさんならびに同じく「電磁波過敏症問題の会」の0さんの2名が、安曇野市に陳情書を提出した(5月27日)。
その要点は以下のとおりで、きわめてまっとうなものである。
(1)Wi-Fi(無線LAN)の導入については慎重に検討してください。6月21日の安曇野市議会福祉教育委員会で陳情の趣旨説明がなされたが、継続審議となり、そのことを受けて、Iさんから筆者に「次回の審議の場で参考人として来てもらえないか」との打診をいただき、筆者は正式にその福祉教育委員会協議会で意見を述べることとなった(8月9日)。
(2)センサー付きマットレスの使用は、保護者に説明し同意を得た場合に限るようにしてください。
(3)実験運用に際しては、園内の電磁波測定や健康調査を行ってください。
◆ 参考人として承知された際の陳述
(略)
◆ 陳情の採択へ
筆者がこの報告書を送ってから約1ヶ月後、9月12日に安曇野市議会福祉教育委員会において、市立認定こども園のICTによる業務効率化についてのIさんらの陳情が採択された。そこでは、
(1)Wi-Fi(無線LAN)の導入については慎重に検討することが確認された。
(2)センサー付きマットレスの使用にあたっては、保護者に説明し同意を得るようにする
今回の試験導入では業者の説明チラシと園側の「案内」による告知のみだったことを思うと、これは明らかな前進と言えるだろう。
また、Iさんらの
(3)実験運用に際しては、園内の電磁波測定や健康調査を行ってくださいという陳情項目に関しては、筆者による測定の実施を受け入れたこと、また、園側からの「試験期間中に園児に体調の変化は見られなかった」との報告を受けたことで、まずは対応したことになる。
むろん、数日間(午睡時の合計時間で10数時間未満)のWi-Fiの電波の曝露で急性的な体調の変化がみられたら、それこそ驚くべきことになってしまうが、上記『報告書』のなかで述べたように、高い感受性を持つ幼児期に恒常的にそれなりに高いレベルのWi-Fiの電磁波を曝露することは、将来において慢性的影響をもたらすかもしれないことに留意しておかねばならない。
全国的に展開されていく可能性の高い、この保育園児を対象とした午睡時の「見守りシステム」パグセーフティは、やはり、対象が幼児であるだけに、安易に導入してはならないものであろう。
導入を検討している自治体や保育園に再考を求めたい。
『電磁波研会報 120号』(2019年9月29日)
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