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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

学問は人類の財産、政権の道具ではない。「日本=政権」でもない。

2018年05月31日 | ノンジャンル
 ※デスクメモ (牧)
 「偽りを述べる者が愛国者とたたえられ、真実を語る者が売国奴と罵(ののし)られた世の中を、私は経験してきた」。
 こう記したのは昭和天皇の末弟で、歴史学者の故三笠宮崇仁親王だった。この感覚は一昔前までは「常識」だった。ここでいう常識は「正気」と言い換えてもよい。
 ◆ 脅かされる学問の自由
   法大総長 異例のメッセージ
(東京新聞【こちら特報部】)


 法政大学の田中優子総長は今月16日、「自由で闊達な言論・表現空間を創造します」というメッセージを発表した。文部科学省や外郭団体が研究者らに交付する科学研究費(科研費)について、自民党の国会議員らが繰り広げる「反日活動に協力する学者に配られている」とのキャンペーンを意識してのことだ。キャンペーンと戦前の天皇機関説事件などを重ね、状況を懸念する研究者は少なくない。(白名正和、橋本誠)
 ◆ 自民国会議員ら科研費ロ実に 政権批判学者らに圧力?
 「科研費をめぐる問題は学問の自由が失われるか否かの問題。法政大だけでなく、学問全体にとって深刻な事態だ」。田中総長は取材にそう語気を強めた。
 背景にあるのは、自民党の杉田水脈衆院議員や、その賛同者による科研費をめぐる一部研究者へのバッシングだ。同議員は二月の衆院予算委で、戦前に朝鮮半島から徴用された徴用工問題に取り組む研究者に科研費が交付されたことを引き合いに「徴用工問題は反日のプロパガンダ。科研費で研究しているひとたちが、韓国の人たちと手を組んでやっている」と訴えた。
 その後もネット番組などで、政権に批判的な研究者らを名指しし、「科研費が反日の人のところに使われている」などと主張。「国益に反する研究は自費でお願いいたします」と発信し、物議を醸している。
 田中総長はメッセージに「適切な反証なく圧力によって研究者のデータや言論をねじふせるようなことがあれば、断じてそれを許してはなりません」と記したが、科研費問題に加えて、働き方改革の不適切データ問題で同大学の教授が中傷されたことも異例の発表の動機になったという。
 ◆ 政治的立場審査の対象外
 科研費は文系か理系かを問わず、幅広い分野の研究を支援する制度。研究者が応募し、同じ分野の研究者が審査、採択されれば研究費が助成される。年間の予算額は約二千二百億円で、応募件数は約十万件(二〇一六年度)に上る。
 研究者の政治的立場などは審査の対象外で、交付後は大学など研究機関が管理するため、研究以外の用途で使うことは不可能だ。
 杉田議員の趣旨は「科研費は税金で、日本のために使われなければならない」ということだが、田中総長は「科研費の交付を研究者の政治的立場や考え方で線引きすることは絶対にあってはいけない。憲法で定められた学問の自由が脅かされる。議員にはまず、憲法を学んでほしい」と語る。
 「宇宙の研究、外国の研究、戦争の研究など全てが日本のためになっている。『日本=政権』ではない。時の政権にとって役に立っているか否かで判断すること自体、ナンセンスだ」
 今後、事態の推移によっては、法的手段も辞さないという。
 「一部の弁護士会に対する特定弁護士への大量の懲戒請求と同様、研究に差し支える事態になれば、検討せざるを得ない」
 「こちら特報部」は、杉田議員にも発言の真意を尋ねたが「本人がいないため回答できない」(同議員事務所)とのことだった。
 ちなみにこの問題は、林芳正文科相が二十二日の参院内閣委員会で「科研費は、研究者の自由な発想に基づく研究を支援する。科研費の執行は適正に行われている」と答弁している。
 ◆ 慰安婦、沖縄…「反日」と攻撃
 杉田議員に問題視された法政大の山口二郎教授(政治学)は、本欄「本音のコラム」(四月二十九日)で反論しているが、他の研究者らはどう受け止めたか。
 「慰安婦」問題などを論じた研究グループの牟田和恵・大阪大教授(ジェンダー論)は、杉田議員のツイッターで「慰安婦問題は女性の人権問題ではありません」「税金を反日活動に使われることに納得いかない」などと批判された。
 同グループは「規程に従い予算執行しており、不正使用や無駄遣いはない。幾人かは日本政府の『慰安婦』問題対応を批判する論文を執筆しているが、日本が国際的な人権を支持する国になってほしいからで『反日』とされるいわれはない」と反論。
 牟田教授は「無知や誤解に基づく誹謗中傷だ。国会議員にあるまじき偏った言い方」と憤る。
 琉球独立論などを研究している松島泰勝・龍谷大教授(島嶼経済学)は「八重山日報」に寄せた杉田議員の論稿で「沖縄県の振興開発と内発的発展に関する総合研究」という研究名で科研費を受け取ったとされ、税金を使って「『琉球独立』を主張するのはいかがなものか」と指摘された。
 しかし、実際の内容は主に経済研究。松島教授は「科研費で琉球独立は研究していない。国会議員の影響力を使い、自らの意見に合わない研究を抑圧しようとしている。琉球ヘイトもここまで来たか」と驚く。
 ◆ 「滝川事件」「天皇機関説事件」戦前を想起
 こうした動きで想起されるのは戦前の事例だ。一九三三年、京都帝国大(現京都大)の滝川幸辰(ゆきとき)教授(刑法)が、菊池武夫・貴族院議員らから講演内容などが共産主義的と攻撃され、大学を追われた「滝川事件」が発生。
 三五年には、東京帝国大(現東京大)の美濃部達吉名誉教授の憲法学説「天皇機関説」をやはり菊池議員らが批判し、政府が同学説の流布を禁じた「天皇機関説事件」が起きた。
 戦史・紛争史研究家の山崎雅弘氏は「いま国会議員が非難している構図は、まさに天皇機関説事件で菊池が『学匪(がくひ)』と批判したのと同じ。もともと美濃部を目の敵にしている右翼がいたが、口実が見つからず、そこに出てきたのが天皇機関説だった。学問レベルでの反論ではなく、国体に反するといった一方的な言い掛かりだった」と説明する。
 その後、日本では軍部批判も姿を消し、破滅的な戦争に突入していった。

 「現在も威圧恫喝(どうかつ)が増え、空気の流れは当時と同じように段階的に進んでいる『反日』の背景にある国防の概念を大義名分に振りかざすのは、戦前の日本でも繰り返されたパターンだ」
 ◆ 「改憲の国民投票時黙らせる狙い」
 上智大の中野晃一教授(政治学)も「ここでの『反日』は『反安倍』のこと。政権に異を唱えるのは許さないということだ。そもそも学問は国のために奉仕するものではなく、すぐ役に立つものも、そうではないものもある」と話す。
 そして、一連のキャンペーンの狙いを「改憲」とみる。「国民投票のときに自由な議論をされては困るので、学者を黙らせ、萎縮させようと仕掛けている。こんなことがまかり通れば、日本の大学の競争力や国力もますます弱まる
 田中総長は、科研費を口実にした学者への圧力について「看過してしまえばどんどん広がってしまい、学問の自由や大学での言論が萎縮してしまう。ひいては学問の自主性が咲われ、学問が政権の道具になってしまいかねない」と危ぶむ。
 「誰かの発言に対し、わけも分からず乗っかってしまうことは危険だ。今回の件も科研費の仕組みを調べてみれば、国会議員の発言が誤りだとすぐに分かる。賛同する前に踏みとどまり、自分で考えでほしい」
『東京新聞』(2018・5・30【こちら特報部】)

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