■ 株価乱高下の裏は何か? 公的マネーでカラノミクス隠蔽 (日刊ゲンダイ)
ちょっと、のけぞるような無責任発言だ。15日の衆院予算委で安倍首相が、最近の株価下落でGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)に運用損が出た可能性を問われた際、言い放った答弁である。
「想定の利益が出ないなら、当然支払いに影響する。給付に耐える状況にない場合は、給付で調整するしかない」
つまり、株式運用で損が出れば、今後の年金給付の減額もあり得る――と認めたのである。
ちょっと待てよ、ではないか。誰がこんな鉄火場株式市場に年金をぶち込めといったのか。株の運用比率を50%に増加させたのは、他ならぬ安倍政権なのである。加えて安倍首相は、2014年6月16日の決算行政監視委員会で、GPIFの運用構成見直しに伴うリスク増について自信タップリの様子でこう答えていた。
「損になることをするわけがないじゃないですか。大切な年金をお預かりして運用しているんですから」
この発言から、わずか1年半。冒頭の発言になったのである。虎の子の老後資金である年金資産を託している国民から見れば「今さら、ふざけんな」だろう。
安倍首相はこの時、運用見直しの理由について聞かれるとこう答えた。
「経済が成長している(から)」「先を読んだ運用をするのは当然」
言いも言ったりではないか。内閣府が15日に発表したGDP(国内総生産・2015年10~12月期)の数値は、実質成長率が前期比0.4%減で、2四半期ぶりのマイナス。年率換算では1.4%減。昨年1年間の実質成長率は0.4%増、事実上のゼロ成長である。
■ 「アホ」の上に「カラッポ」のアベノミクス
ついでに言うと、GDPの6割を占める15年10~12月期の実質個人消費は年換算で305兆円。第2次安倍政権が発足した12年10~12月期(309兆円)よりも悪くなっている。
総務省が16日に発表した15年の家計調査も、1世帯当たりの消費支出は前年比2.7%減と2年連続で減少。「経済が成長」どころか、「アベノミクス」の破綻は歴然なのだ。
慶大の金子勝教授も12日のラジオ番組で「アベノミクス」のことを「カラノミクス」と表現した。同志社大の浜矩子教授は「アホノミクス」と断じたが、「アホ」の上に「カラッポ」だったということだ。
金子氏はラジオで「この道に景気回復はない」と言い切った。
インフレ目標2%は達成できず、実質賃金も下がり続け、最後の頼みの綱だった「株価」もメタメタだからだ。
アベノミクスの化けの皮はすべて剥がれ、そうしたら、何もなくなってしまった。
その上で金子氏は、「世界中の金融機関が推し進めている量的緩和策であふれた投機マネーによって、今の株式市場が歪められている」「その先頭を走っているのがアベノミクス」と斬り捨てた。
これがまっとうな見方なのに、安倍首相はこの期に及んで「経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)は確か」とか言い張っている。だったら、何でGDPがマイナス成長になるのか。いいかげんにしてほしい。経済ジャーナリストの荻原博子氏はこう言った。
「こうなることはわかっていたんですよ。今になって安倍首相が『年金資産は損するかも』なんて言うのはとんでもない話です。すでに株安で10兆円以上の年金資産が毀損したともいわれています。これ以上、国民の財産をバクチに投じるのはやめてほしい。いいかげん、アベノミクスの失敗を認めるべきです」
国民に詫びて、退陣するのが筋というものである。
■ 成長戦略打ち出せずに金融政策に頼ったツケ
安倍政権は二言目には株安を海外のせいにする。原油安や中国の景気減速を理由にする。これもふざけた話だ。確かに世界市場は混乱、後退しているが、先進国の中では日本が一番ダメなのだ。
例えば、米国は実質成長率が2013年が1.5%、14年は2.4%、15年は2.5%と右肩上がりで、16年も2.6%成長が予測されている。
ギリシャ危機などを抱えた欧州でさえ、15年の実質成長率は1.5%、今年も1.7%の成長が見込まれている。経済評論家・斎藤満氏はこう言う。
「日本市場は実体経済以上に株高だった。根っこがしっかりしておらず、不安定なのだから、ちょっとしたことでグラついてしまう。ここにきて株の下落幅が大きいのは当然なのです。経済のパイを増やす成長戦略を打ち出せず、金融政策に頼り切ったツケといっていいでしょう」
アベノミクスなんてしょせん、金融バブルで株価をつり上げてきただけ。だから、原油安などのリスク要因が高まると、たちまち乱高下するというわけだ。
東京市場は今年に入り、日経平均株価の終値が前日比400円を超えて上下した日が14営業日もある。昨年の同時期は1営業日だったから、異常なジェットコースター相場が続いている。16日も取引期間中の高値と安値の差は500円だ。欧米市場は株価の上下幅は2%程度。それに対して日本市場は5~7%になる。
問題はその裏で何が行われているのか、ということだ。イの一番に浮かぶのが、すでに致命傷のアベノミクスを公的マネーが買い支えているのではないかという疑惑である。
実際、日銀は今年に入ってETF(上場投資信託)を約5500億円も購入。特に株価が大幅下落した2月は、ほぼ連日のように330億円ずつ、計約2300億円も突っ込んでいる。
ETFは株価指数の数倍の値動きを示す「レバレッジ型」商品。売買によって株価指数を構成する銘柄の値動きが大きくなるため、株価に与える影響は小さくない。そんなETFを中央銀行である日銀が先頭切ってドンドン買っている。もちろん、GPIFもしこたま突っ込んでいるのだろうから、ますますもって、ゾッとしてくる。
■ 通貨膨脹で需要拡大はあり得ない
インチキアベノミクスを演出するために公的マネーを使い、それでも市場の下げ圧力に抗しきれず、どんどん毀損する悪循環。しかし、やめられないから、また公的マネーをぶち込んでいく。突っ込まれているカネは国民の財産なのである。
埼玉大名誉教授で経済学博士の鎌倉孝夫氏はこう言った。
「公的資金を使ったゴマカシの経済政策はすぐにやめるべきです。どれほどカネを注ぎ込んでもムダだからです。それに通貨の膨張で需要の拡大はあり得ない。実体経済は良くならない。これは経済学の定説です。それが今、あらためて証明されているだけのことです。さらに今の資本は多国籍企業化しているから、公的マネーで株価上昇につなげるのは限界があるのです」
それなのに、この政権は「カラノミクス」を糊塗するために公的マネーをじゃぶじゃぶ使い、揚げ句が「損をしたら年金を下げる」とか言うのである。国民が暴動を起こさないのが不思議である。
日銀は16日、民間銀行から受け入れている預金の一部に手数料を課す「マイナス金利」を始め、黒田総裁は衆院予算委で「今後、効果が実体経済や物価に表れてくる」と言っていたが、すでに市場は「日銀の打つ手なし」を見透かしている。「2%の物価上昇」なんて寝言も大概にしたらどうなのか。
株価だけが頼みの「アベノミクス」の失敗を認めさせない限り、安倍政権は「カラノミクス」を続ける。この先も年金資金などの国民の財産をバンバン投じて、無理やり株高を「演出」しようとするだろう。しかし、そんな小手先の策でグローバルな市場をコントロールできるわけもない。
さすがに国民が怒りだしたところで撤退するのかもしれないが、それこそが、「ババを掴まされる」最悪パターンになる。国民は踏んだり蹴ったりだ。
『日刊ゲンダイ』(2016年2月17日)
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/175507
ちょっと、のけぞるような無責任発言だ。15日の衆院予算委で安倍首相が、最近の株価下落でGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)に運用損が出た可能性を問われた際、言い放った答弁である。
「想定の利益が出ないなら、当然支払いに影響する。給付に耐える状況にない場合は、給付で調整するしかない」
つまり、株式運用で損が出れば、今後の年金給付の減額もあり得る――と認めたのである。
ちょっと待てよ、ではないか。誰がこんな鉄火場株式市場に年金をぶち込めといったのか。株の運用比率を50%に増加させたのは、他ならぬ安倍政権なのである。加えて安倍首相は、2014年6月16日の決算行政監視委員会で、GPIFの運用構成見直しに伴うリスク増について自信タップリの様子でこう答えていた。
「損になることをするわけがないじゃないですか。大切な年金をお預かりして運用しているんですから」
この発言から、わずか1年半。冒頭の発言になったのである。虎の子の老後資金である年金資産を託している国民から見れば「今さら、ふざけんな」だろう。
安倍首相はこの時、運用見直しの理由について聞かれるとこう答えた。
「経済が成長している(から)」「先を読んだ運用をするのは当然」
言いも言ったりではないか。内閣府が15日に発表したGDP(国内総生産・2015年10~12月期)の数値は、実質成長率が前期比0.4%減で、2四半期ぶりのマイナス。年率換算では1.4%減。昨年1年間の実質成長率は0.4%増、事実上のゼロ成長である。
■ 「アホ」の上に「カラッポ」のアベノミクス
ついでに言うと、GDPの6割を占める15年10~12月期の実質個人消費は年換算で305兆円。第2次安倍政権が発足した12年10~12月期(309兆円)よりも悪くなっている。
総務省が16日に発表した15年の家計調査も、1世帯当たりの消費支出は前年比2.7%減と2年連続で減少。「経済が成長」どころか、「アベノミクス」の破綻は歴然なのだ。
慶大の金子勝教授も12日のラジオ番組で「アベノミクス」のことを「カラノミクス」と表現した。同志社大の浜矩子教授は「アホノミクス」と断じたが、「アホ」の上に「カラッポ」だったということだ。
金子氏はラジオで「この道に景気回復はない」と言い切った。
インフレ目標2%は達成できず、実質賃金も下がり続け、最後の頼みの綱だった「株価」もメタメタだからだ。
アベノミクスの化けの皮はすべて剥がれ、そうしたら、何もなくなってしまった。
その上で金子氏は、「世界中の金融機関が推し進めている量的緩和策であふれた投機マネーによって、今の株式市場が歪められている」「その先頭を走っているのがアベノミクス」と斬り捨てた。
これがまっとうな見方なのに、安倍首相はこの期に及んで「経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)は確か」とか言い張っている。だったら、何でGDPがマイナス成長になるのか。いいかげんにしてほしい。経済ジャーナリストの荻原博子氏はこう言った。
「こうなることはわかっていたんですよ。今になって安倍首相が『年金資産は損するかも』なんて言うのはとんでもない話です。すでに株安で10兆円以上の年金資産が毀損したともいわれています。これ以上、国民の財産をバクチに投じるのはやめてほしい。いいかげん、アベノミクスの失敗を認めるべきです」
国民に詫びて、退陣するのが筋というものである。
■ 成長戦略打ち出せずに金融政策に頼ったツケ
安倍政権は二言目には株安を海外のせいにする。原油安や中国の景気減速を理由にする。これもふざけた話だ。確かに世界市場は混乱、後退しているが、先進国の中では日本が一番ダメなのだ。
例えば、米国は実質成長率が2013年が1.5%、14年は2.4%、15年は2.5%と右肩上がりで、16年も2.6%成長が予測されている。
ギリシャ危機などを抱えた欧州でさえ、15年の実質成長率は1.5%、今年も1.7%の成長が見込まれている。経済評論家・斎藤満氏はこう言う。
「日本市場は実体経済以上に株高だった。根っこがしっかりしておらず、不安定なのだから、ちょっとしたことでグラついてしまう。ここにきて株の下落幅が大きいのは当然なのです。経済のパイを増やす成長戦略を打ち出せず、金融政策に頼り切ったツケといっていいでしょう」
アベノミクスなんてしょせん、金融バブルで株価をつり上げてきただけ。だから、原油安などのリスク要因が高まると、たちまち乱高下するというわけだ。
東京市場は今年に入り、日経平均株価の終値が前日比400円を超えて上下した日が14営業日もある。昨年の同時期は1営業日だったから、異常なジェットコースター相場が続いている。16日も取引期間中の高値と安値の差は500円だ。欧米市場は株価の上下幅は2%程度。それに対して日本市場は5~7%になる。
問題はその裏で何が行われているのか、ということだ。イの一番に浮かぶのが、すでに致命傷のアベノミクスを公的マネーが買い支えているのではないかという疑惑である。
実際、日銀は今年に入ってETF(上場投資信託)を約5500億円も購入。特に株価が大幅下落した2月は、ほぼ連日のように330億円ずつ、計約2300億円も突っ込んでいる。
ETFは株価指数の数倍の値動きを示す「レバレッジ型」商品。売買によって株価指数を構成する銘柄の値動きが大きくなるため、株価に与える影響は小さくない。そんなETFを中央銀行である日銀が先頭切ってドンドン買っている。もちろん、GPIFもしこたま突っ込んでいるのだろうから、ますますもって、ゾッとしてくる。
■ 通貨膨脹で需要拡大はあり得ない
インチキアベノミクスを演出するために公的マネーを使い、それでも市場の下げ圧力に抗しきれず、どんどん毀損する悪循環。しかし、やめられないから、また公的マネーをぶち込んでいく。突っ込まれているカネは国民の財産なのである。
埼玉大名誉教授で経済学博士の鎌倉孝夫氏はこう言った。
「公的資金を使ったゴマカシの経済政策はすぐにやめるべきです。どれほどカネを注ぎ込んでもムダだからです。それに通貨の膨張で需要の拡大はあり得ない。実体経済は良くならない。これは経済学の定説です。それが今、あらためて証明されているだけのことです。さらに今の資本は多国籍企業化しているから、公的マネーで株価上昇につなげるのは限界があるのです」
それなのに、この政権は「カラノミクス」を糊塗するために公的マネーをじゃぶじゃぶ使い、揚げ句が「損をしたら年金を下げる」とか言うのである。国民が暴動を起こさないのが不思議である。
日銀は16日、民間銀行から受け入れている預金の一部に手数料を課す「マイナス金利」を始め、黒田総裁は衆院予算委で「今後、効果が実体経済や物価に表れてくる」と言っていたが、すでに市場は「日銀の打つ手なし」を見透かしている。「2%の物価上昇」なんて寝言も大概にしたらどうなのか。
株価だけが頼みの「アベノミクス」の失敗を認めさせない限り、安倍政権は「カラノミクス」を続ける。この先も年金資金などの国民の財産をバンバン投じて、無理やり株高を「演出」しようとするだろう。しかし、そんな小手先の策でグローバルな市場をコントロールできるわけもない。
さすがに国民が怒りだしたところで撤退するのかもしれないが、それこそが、「ババを掴まされる」最悪パターンになる。国民は踏んだり蹴ったりだ。
『日刊ゲンダイ』(2016年2月17日)
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/175507
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