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東京高裁判決後、裁判所前での旗出しで結果を伝える原告側弁護士。(提供/解放新聞社)
《月刊救援から》
☆ 東京高裁「差別されない権利」認める
~全国部落調査事件
六月二八日、東京高裁は、鳥取ループ・示現舎らが行った『全国部落調査復刻版』の出版を「差別されない権利」を侵すものとして出版差止めや損害賠償請求を認めた。「差別されない権利」を憲法に根拠を有する権利として初めて認めたもので、さまざまな差別と闘う裁判に影響を与えることを期待している。
部落解放同盟と全国の被差別部落の出身者が、被差別部落の地名などのリスト「全国部落調査復刻版」を公表するのは差別を助長し拡散するとして、公表の差止めと損害賠償を求めた事件。
「全国部落調査」は戦前に政府系団体が作成した報告書で、四一都府県の約五三六〇部落の所在地や世帯数などが記載されたもの。復刻版には現在の地名も付記された。
原告らは、地名一覧の公表によって結婚や就職の身元調査に使われるなど差別にさらされ、プライバシー権や差別されない権利などの人格権を侵害されると訴えた。
一審判決はプライバシー権の侵害は認めたが、差別されない権利については「内実が不明確」と切り捨てた。
高裁判決は、現在も起き続けている差別事件や差別意識の表れを示す調査結果などを「認定事実」として追加し、部落差別について「現代社会においても、なお著しく基本的人権を侵害され、特に近代社会の原理として何人にも保障されている市民的権利と自由を完全に保障されていないという、もっとも深刻にして重大な社会問題である」と述べた。
そして、人格権についてこう切り込んだ。
「憲法一三条は、すべて国民は個人として尊重され、生命、自由及び幸福追求に対する権利を有することを、憲法一四条一項は、すべて国民は法の下に平等であることをそれぞれ定めており、その趣旨等に鑑みると、人は誰しも、不当な差別を受けることなく、人間としての尊厳を保ちつつ平穏な生活を送ることができる人格的な利益を有するのであって、これは法的に保護された利益であるというべきである。」
以下あてはめである
「本来、人の人格的な価値はその生まれた場所や居住している場所等によって左右されるべきではないにもかかわらず、部落差別は本件地域の出身者等であるという理由だけで不当な扱い(差別)をするものであるから、これが上記の人格的な利益を侵害するものであることは明らかである」とした上で、三点を付加(ここが私自身の胸アツポイント!)。
「今日においてもなお本件地域の出身者等であることを理由とする心理面における偏見、差別意識が解消されていないことから認められる当該問題の根深さ」(部落差別自体の性質)、
「本件地域の出身等であるという理不尽、不合理な理由に基づく不当な扱い(差別)がこれを受けた者のその後の人生に与える影響の甚大さ」(被差別者の損害)、インターネット時代の差別の危険性。
そして「実際に不当な扱いを受けるに至らなくても、これに対する不安感を抱き、ときにそのおそれに怯えるなどして日常生活を送ることを余儀なくされ、これにより平穏な生活を侵害されることになるのであって、これを受忍すべき理由はない」
とした。
さらに、一審判決が,救済される対象を、本人の現住所・本籍がある人に限定していたのを、過去及び親族にも広げたことによって、差止めの範囲は一審より六県増えて三一都府県になった(全体の差止めが認められなかったことなど不服があり上告した)。
そのまま引用したい部分が多く判決の紹介ばかりで字数が尽きた。私たちの主張や差別助長を正当化する被告らの主張についてはhttps://www.stop-burakuchosa.com/などを参照してほしい。
(全国部落調査事件弁護団 山本志都)
『月刊救援 第652号』(2023年8月10日)
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