特集ストライキ@14春闘 《労働情報》
◆ 郵政産業労働者ユニオン
3倍の格差に挑む
郵政産業労働者ユニオンは3月18日、全国28職場で時限ストに入った。うち3職場では非正規も加わった。
東京都北区にある王子郵便局には、組合員11人(スト当時)の郵政産業労働者ユニオン(以下、ユニオン)の支部がある。そのうち非正規4人を含む8人がストに入った。集配課で働く三浦進さん(28)もその一人だ。
働き始めたのは2012年。当たり前のように多数派のJP労組に入るが、相談しても動いてくれない。その点ユニオンは、「正規だから、非正規だから」でなく、一人ひとりの人間を見ている。そこに惹かれ、13年3月に加入した。
もちろんストなどしたことはない。14春闘の職場討議で話が持ち上がった当初は、不安もあった。「その時、『スキルの件』が出てきたんです」と三浦さんは言う。
日本郵政グループに約18万人いて非正規の大半をしめる時給制社員は、A、B、Cの3ランクに分かれ、それぞれの段階で問われる項目があり、それができると「習熟度」が「なし」から「あり」に変わる。
新入社員は「Cなし」(Cランクの習熟度なし)からスタートし、Cの仕事を覚えると「Cあり」。
さらに「Bなし」「Bあり」と上がり、最高が「Aあり」で、その上はない。
ランクが上がると時給も上がる。三浦さんは「Cなし」時給千円から始まり、「B」になって仕事を覚え、自己評価も班長の評価も「○」。
当然、「Bなし」から「Bあり」に上がるはずだったが、部長(一般企業の課長に相当)が「△」(できていない)を付け、三浦さんは「Bなし」(時給1170円)に据え置かれた。
フルタイムで手取り16万円。生活は苦しい。「△」の理由を訊いても、部長は説明できない。「その時、心の中が変わりました。納得できないんで、(自分の意思を)ちょっと見せてやろうと」。ストに立った気持ちを、三浦さんはそんな風に話す。
◆ 待ちに待ったスト
阿部充昭さん(38)は郵便局に勤めて19年、ずっと非正規だ。JP労組にいたが、6年前、思うところあってユニオンに移った。
評価は「Aあり」で時給1570円。時給制社員である限りどんなに頑張っても、もう1円も上がらない。正社員登用試験も2度受けて、落ちた。
どう頑張れば正社員になれるかも知らされない。他局でストがあると、休暇を取って支援に行った。
そんな阿部さんは「待ちに待ったストでした。現状をびしっと訴えかけたかったので」と話す。
14春闘でのユニオンの要求は、
①すべての労働者の賃上げ
②希望者の正社員化と均等待遇
③人手不足解消のための正社員の増員だ。
組合員数を大きく超える7千のアンケートを集約し、練り上げた。
2月14日に要求を提出。3月14日まで6回、交渉を重ねる。3月10日の一次回答は「ベア0、一時金3.3ヵ月」。
話にならないとユニオンが拒否すると、3月13日、会社は「正社員、月給制社員に千円のベア、一時金3.5ヵ月、時給制正社員のうち『Aなし』だけ時給10円アップ。14年度中に正社員増員」と回答した。
民営化以来初めてのベア獲得だったが、ユニオンは「期間雇用社員(大半は時給制社員)の賃金底上げが必要」と主張。「これ以上はない」と言い張る会社に、交渉を中断しストに入ると通告した。
◆ 地域からの支援も
3月18日のストでは、スト参加が8名以外、1名は局前集会に参加した支援者がトイレに行く際の誘導係になった(局側との事前折衝で、スト参加者は集会中構内に入れないため)。もう1名は局前集会に参加し途中から就労。労災事故のけがで休む1名を除き、全員参加の取り組みになった。
朝7時40分からの局前集会には、地域からも支援者が駆けつけた。
日本郵政グループでは、従業員のうち正規が約22・4万人で非正規が19・6万人。職場の半分を非正規が支える。
三浦さんたちが王子でストに立った日、本社前でも集会が開かれた。ユニオンの須藤和広書記長は、「3倍もの格差は何としても是正しなければ」と、力を込めた。
非正規は14春闘の“蚊帳の外”なのか-。本社前で配られたユニオンの「ストライキ宣言」は、すべての組合への問いかけに聞こえる。
非正規の正社員化や均等待遇で、正規の条件が下がると心配する声はないのか。支部組合員で正規社員の斉藤厚史さん(49)は、「全然ないですね。必要ないものや、たくさん取ってる上の人たちから回せばいいだけ」と即答した。
日本郵政の利益剰余金(内部留保)は2・7兆円で、今期純利益は4200億円になる見通し。賃上げ原資は十分すぎるほどだ。
◆ 踏み出す勇気と波紋
ストの1週間後、ユニオン本部と日本郵政との団交で、対立点を残して14春闘は終わった(ユニオンでは「対立整理」と言う)。
だが、運動の波紋も確かにある。阿部さんは「自分的には『やったぞ!』と。班の同僚は何も言わないけど、ストを見に来てくれた人もいる」。
ストの後、三浦さんによる不服申し立てに回答があり、「△」評価が「○」に訂正された。これで4月から、時給が110円上がる。
倉林浩さん(58)は「以前私は、非正規を組合に迎えたら、彼らを守れるのか不安でした。でも、雇い止めをめぐる争いで何度負けても、当事者が立ち上がる。民営化でスト権も手にし、労契法もできた。当事者が道を拓いてきたんです」と全逓時代からの日々を振り返る。
三浦さんは、「踏み出す勇気っていうんですかね。少し自信がつきました」と笑った。
ストの日の昼休み、非正規の同僚が加入届けを持ってきた。一人ひとりを大切にする運動が、一人ひとりが大切にされる職場を創る。ストを経験し一人増えた王子支部の挑戦は、始まったばかりだ。
『労働情報 886・7号』(2014/5.1&15)
◆ 郵政産業労働者ユニオン
3倍の格差に挑む
郵政産業労働者ユニオンは3月18日、全国28職場で時限ストに入った。うち3職場では非正規も加わった。
東京都北区にある王子郵便局には、組合員11人(スト当時)の郵政産業労働者ユニオン(以下、ユニオン)の支部がある。そのうち非正規4人を含む8人がストに入った。集配課で働く三浦進さん(28)もその一人だ。
働き始めたのは2012年。当たり前のように多数派のJP労組に入るが、相談しても動いてくれない。その点ユニオンは、「正規だから、非正規だから」でなく、一人ひとりの人間を見ている。そこに惹かれ、13年3月に加入した。
もちろんストなどしたことはない。14春闘の職場討議で話が持ち上がった当初は、不安もあった。「その時、『スキルの件』が出てきたんです」と三浦さんは言う。
日本郵政グループに約18万人いて非正規の大半をしめる時給制社員は、A、B、Cの3ランクに分かれ、それぞれの段階で問われる項目があり、それができると「習熟度」が「なし」から「あり」に変わる。
新入社員は「Cなし」(Cランクの習熟度なし)からスタートし、Cの仕事を覚えると「Cあり」。
さらに「Bなし」「Bあり」と上がり、最高が「Aあり」で、その上はない。
ランクが上がると時給も上がる。三浦さんは「Cなし」時給千円から始まり、「B」になって仕事を覚え、自己評価も班長の評価も「○」。
当然、「Bなし」から「Bあり」に上がるはずだったが、部長(一般企業の課長に相当)が「△」(できていない)を付け、三浦さんは「Bなし」(時給1170円)に据え置かれた。
フルタイムで手取り16万円。生活は苦しい。「△」の理由を訊いても、部長は説明できない。「その時、心の中が変わりました。納得できないんで、(自分の意思を)ちょっと見せてやろうと」。ストに立った気持ちを、三浦さんはそんな風に話す。
◆ 待ちに待ったスト
阿部充昭さん(38)は郵便局に勤めて19年、ずっと非正規だ。JP労組にいたが、6年前、思うところあってユニオンに移った。
評価は「Aあり」で時給1570円。時給制社員である限りどんなに頑張っても、もう1円も上がらない。正社員登用試験も2度受けて、落ちた。
どう頑張れば正社員になれるかも知らされない。他局でストがあると、休暇を取って支援に行った。
そんな阿部さんは「待ちに待ったストでした。現状をびしっと訴えかけたかったので」と話す。
14春闘でのユニオンの要求は、
①すべての労働者の賃上げ
②希望者の正社員化と均等待遇
③人手不足解消のための正社員の増員だ。
組合員数を大きく超える7千のアンケートを集約し、練り上げた。
2月14日に要求を提出。3月14日まで6回、交渉を重ねる。3月10日の一次回答は「ベア0、一時金3.3ヵ月」。
話にならないとユニオンが拒否すると、3月13日、会社は「正社員、月給制社員に千円のベア、一時金3.5ヵ月、時給制正社員のうち『Aなし』だけ時給10円アップ。14年度中に正社員増員」と回答した。
民営化以来初めてのベア獲得だったが、ユニオンは「期間雇用社員(大半は時給制社員)の賃金底上げが必要」と主張。「これ以上はない」と言い張る会社に、交渉を中断しストに入ると通告した。
◆ 地域からの支援も
3月18日のストでは、スト参加が8名以外、1名は局前集会に参加した支援者がトイレに行く際の誘導係になった(局側との事前折衝で、スト参加者は集会中構内に入れないため)。もう1名は局前集会に参加し途中から就労。労災事故のけがで休む1名を除き、全員参加の取り組みになった。
朝7時40分からの局前集会には、地域からも支援者が駆けつけた。
日本郵政グループでは、従業員のうち正規が約22・4万人で非正規が19・6万人。職場の半分を非正規が支える。
三浦さんたちが王子でストに立った日、本社前でも集会が開かれた。ユニオンの須藤和広書記長は、「3倍もの格差は何としても是正しなければ」と、力を込めた。
非正規は14春闘の“蚊帳の外”なのか-。本社前で配られたユニオンの「ストライキ宣言」は、すべての組合への問いかけに聞こえる。
非正規の正社員化や均等待遇で、正規の条件が下がると心配する声はないのか。支部組合員で正規社員の斉藤厚史さん(49)は、「全然ないですね。必要ないものや、たくさん取ってる上の人たちから回せばいいだけ」と即答した。
日本郵政の利益剰余金(内部留保)は2・7兆円で、今期純利益は4200億円になる見通し。賃上げ原資は十分すぎるほどだ。
◆ 踏み出す勇気と波紋
ストの1週間後、ユニオン本部と日本郵政との団交で、対立点を残して14春闘は終わった(ユニオンでは「対立整理」と言う)。
だが、運動の波紋も確かにある。阿部さんは「自分的には『やったぞ!』と。班の同僚は何も言わないけど、ストを見に来てくれた人もいる」。
ストの後、三浦さんによる不服申し立てに回答があり、「△」評価が「○」に訂正された。これで4月から、時給が110円上がる。
倉林浩さん(58)は「以前私は、非正規を組合に迎えたら、彼らを守れるのか不安でした。でも、雇い止めをめぐる争いで何度負けても、当事者が立ち上がる。民営化でスト権も手にし、労契法もできた。当事者が道を拓いてきたんです」と全逓時代からの日々を振り返る。
三浦さんは、「踏み出す勇気っていうんですかね。少し自信がつきました」と笑った。
ストの日の昼休み、非正規の同僚が加入届けを持ってきた。一人ひとりを大切にする運動が、一人ひとりが大切にされる職場を創る。ストを経験し一人増えた王子支部の挑戦は、始まったばかりだ。
『労働情報 886・7号』(2014/5.1&15)
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます