★ 深刻 SE不足 ★
夢持てぬ負の連鎖 「新3K」
飛行機が丸一日欠航したり、IP電話や携帯電話が不通になったり、金融機関で現金自動預払機(ATM)が取引不能になったりと、深刻なシステムトラブルが急増している。これらコンピューターシステムを支えているシステムエンジニア(SE)を、今後どう育てていくべきか、大きな問題になっている。拡大する情報サービス市場でSEの人材不足が叫ばれる一方、インドや中国などの優秀なSEが日本市場に進出するなど、SEを取り巻く状況は複雑で厳しい。 (科学部・引野肇)
■基幹システム自国でまかなえず
中印の進出に危機感
「日本の基幹システムでとんでもないトラブルが起こり始めている。このままでは、全日空や東京証券取引所のようなトラブルが頻発することになる」。
SEの問題に詳しい慶応大学環境情報学部の大岩元教授は、そう警告する。
実際、交通機関や商店街、公共施設などで、システム上の小さなトラブルが日常茶飯事のように起きている。
昨年あたりから、国も情報処理技術者の試験制度や大学の教育制度の見直しに本格的に乗り出した。
欧米先進国や韓国、中国、インドなどの大学で高度な情報技術(IT)教育が推進される一方、日本の大学では「コンピューター科学の専門教育がほとんど行われていない。それを教える教員も少ない」(大岩教授)のが現状だ。
このため、情報サービス産業は専門教育を受けていない学生を大量に採用し、数カ月の社内教育で"速成SE"を養成することになる。
■理科離れ
この問題を検討している情報処理学会「ITプロフェッショナル委員会」の委員長、旭寛治・日立テクニカルロミュニケーションズ代表取締役は「質のいいSEが足りない。理科離れが進み、優秀な学生が来なくなっている。企業でSEを育てるにも限界があり、大学できちっと教育してほしい」と訴える。
SEの職場は残業が多いことで有名だ。かつての3K(きつい、汚い、危険)ではなくて、新3K(きつい、帰れない、給料が安い)ともいわれる。そのうえ、技術革新が激しく、ついていくのが難しい。「三十五歳定年説」までもが、ささやかれる。
そんな人材不足を背景に、中国やインドヘの業務発注(アウトソーシング)が急激に進んでいる。経団連も「このままでは、わが国の基幹システムを自国で担うことができなくなり、産業全体の国際競争力に深刻な影響を及ぼす」と、強い危機感を持つ。
■理解不足
幸いなことに、アウトソーシングの広がりはまだ限定的だ。理由は、日本語という言葉の壁と、日本社会のITへの無理解がある。
早稲田大基幹理工学部の筧捷彦教授は「システムを発注する会社に能力がないので、インドや中国の会社に怖くて注文できない。だからレベルの低い日本の会社でも仕事が取れる」と、"たこつぼ化した"特殊事情を説明する。
つまり、貧弱な大学教育→基礎能力不足→新3K職場+日本社会のITへの無理解-が人材不足の背景というのだ。筧教授は「そうやって日本は世界からどんどん遅れていく」と心配する。
旭代表取締役は「昔からSEの仕事は徹夜が当たり前だが、せめていい技術者には高い報酬を出したい。『SEっていいな』と思える夢を与えることがいま必要」と言う。
コンピューターシステムなしで活動できる産業など、いまや存在しない。教育・資格制度の改革も大切だが、SEという仕事について社会が理解を深めることも大切だ。
★ きつい、帰れない、給料安い ★
「新3K」現場は悲鳴
▽大手ソフトハウスSE(二六)=女性
「私のチームはそうでもないが、隣のチームでは一部を除いて全員がここ数カ月間帰宅せず、職場とホテルで仮眠している。ヒラは残業代が出るので、まだましだが、管理職は給料は少なくて残業代もない。そのプロジェクトは赤字なのでボーナスも減らされる。ほんとうに悲惨」
▽大手IT企業SE(二五)=男性
「深夜帰宅してコンビニ弁当を食べて寝るだけで、最近、体がメタボリック…。泊まりも多いが、次長だって休日なしで徹夜。友人の会社では月二百時間以上残業しているSEが何人もいる。問題は、業務とソフトの両方を理解できる人がいないなど、能力不足の人が多いこと」
▽大手IT企業SE(二五)=女性
「週末は疲れて寝ているので、友人と会うことも減った。職場では、プログラムを作成する能力がない人が多く、仕事を頼んでも分かってくれない。また、ITのことをよく知らないお客さんが訳のわからないことを言うし、上司もグチを聞いてくれない」
※システムエンジニア(SE)
日本では、企業情報システムの設計開発に従事する上級技術者を意味する。
顧客企業の要望を聞き、その要求を実現するためのソフトとハードを設計、構築、試験をし、システム納入後は運用管理を行う。
国内の大学教育など人材育成体制が不備なため、ソフトウエア企業が毎年採用する新卒者のうち、社内研修なしで使える"即戦力"は1割にも満たないという。
『東京新聞』(2007年8月22日【核心】)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/kakushin/list/CK2007082202042880.html
夢持てぬ負の連鎖 「新3K」
飛行機が丸一日欠航したり、IP電話や携帯電話が不通になったり、金融機関で現金自動預払機(ATM)が取引不能になったりと、深刻なシステムトラブルが急増している。これらコンピューターシステムを支えているシステムエンジニア(SE)を、今後どう育てていくべきか、大きな問題になっている。拡大する情報サービス市場でSEの人材不足が叫ばれる一方、インドや中国などの優秀なSEが日本市場に進出するなど、SEを取り巻く状況は複雑で厳しい。 (科学部・引野肇)
■基幹システム自国でまかなえず
中印の進出に危機感
「日本の基幹システムでとんでもないトラブルが起こり始めている。このままでは、全日空や東京証券取引所のようなトラブルが頻発することになる」。
SEの問題に詳しい慶応大学環境情報学部の大岩元教授は、そう警告する。
実際、交通機関や商店街、公共施設などで、システム上の小さなトラブルが日常茶飯事のように起きている。
昨年あたりから、国も情報処理技術者の試験制度や大学の教育制度の見直しに本格的に乗り出した。
欧米先進国や韓国、中国、インドなどの大学で高度な情報技術(IT)教育が推進される一方、日本の大学では「コンピューター科学の専門教育がほとんど行われていない。それを教える教員も少ない」(大岩教授)のが現状だ。
このため、情報サービス産業は専門教育を受けていない学生を大量に採用し、数カ月の社内教育で"速成SE"を養成することになる。
■理科離れ
この問題を検討している情報処理学会「ITプロフェッショナル委員会」の委員長、旭寛治・日立テクニカルロミュニケーションズ代表取締役は「質のいいSEが足りない。理科離れが進み、優秀な学生が来なくなっている。企業でSEを育てるにも限界があり、大学できちっと教育してほしい」と訴える。
SEの職場は残業が多いことで有名だ。かつての3K(きつい、汚い、危険)ではなくて、新3K(きつい、帰れない、給料が安い)ともいわれる。そのうえ、技術革新が激しく、ついていくのが難しい。「三十五歳定年説」までもが、ささやかれる。
そんな人材不足を背景に、中国やインドヘの業務発注(アウトソーシング)が急激に進んでいる。経団連も「このままでは、わが国の基幹システムを自国で担うことができなくなり、産業全体の国際競争力に深刻な影響を及ぼす」と、強い危機感を持つ。
■理解不足
幸いなことに、アウトソーシングの広がりはまだ限定的だ。理由は、日本語という言葉の壁と、日本社会のITへの無理解がある。
早稲田大基幹理工学部の筧捷彦教授は「システムを発注する会社に能力がないので、インドや中国の会社に怖くて注文できない。だからレベルの低い日本の会社でも仕事が取れる」と、"たこつぼ化した"特殊事情を説明する。
つまり、貧弱な大学教育→基礎能力不足→新3K職場+日本社会のITへの無理解-が人材不足の背景というのだ。筧教授は「そうやって日本は世界からどんどん遅れていく」と心配する。
旭代表取締役は「昔からSEの仕事は徹夜が当たり前だが、せめていい技術者には高い報酬を出したい。『SEっていいな』と思える夢を与えることがいま必要」と言う。
コンピューターシステムなしで活動できる産業など、いまや存在しない。教育・資格制度の改革も大切だが、SEという仕事について社会が理解を深めることも大切だ。
★ きつい、帰れない、給料安い ★
「新3K」現場は悲鳴
▽大手ソフトハウスSE(二六)=女性
「私のチームはそうでもないが、隣のチームでは一部を除いて全員がここ数カ月間帰宅せず、職場とホテルで仮眠している。ヒラは残業代が出るので、まだましだが、管理職は給料は少なくて残業代もない。そのプロジェクトは赤字なのでボーナスも減らされる。ほんとうに悲惨」
▽大手IT企業SE(二五)=男性
「深夜帰宅してコンビニ弁当を食べて寝るだけで、最近、体がメタボリック…。泊まりも多いが、次長だって休日なしで徹夜。友人の会社では月二百時間以上残業しているSEが何人もいる。問題は、業務とソフトの両方を理解できる人がいないなど、能力不足の人が多いこと」
▽大手IT企業SE(二五)=女性
「週末は疲れて寝ているので、友人と会うことも減った。職場では、プログラムを作成する能力がない人が多く、仕事を頼んでも分かってくれない。また、ITのことをよく知らないお客さんが訳のわからないことを言うし、上司もグチを聞いてくれない」
※システムエンジニア(SE)
日本では、企業情報システムの設計開発に従事する上級技術者を意味する。
顧客企業の要望を聞き、その要求を実現するためのソフトとハードを設計、構築、試験をし、システム納入後は運用管理を行う。
国内の大学教育など人材育成体制が不備なため、ソフトウエア企業が毎年採用する新卒者のうち、社内研修なしで使える"即戦力"は1割にも満たないという。
『東京新聞』(2007年8月22日【核心】)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/kakushin/list/CK2007082202042880.html
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