★ 規制緩和でワーキングプア ★
タクシー乗務員手取り15万、仲間自殺も
弁護士「ぜひ裁判官に聞いてもらいたいことは」
男性「タクシーの増車で仕事が減り、年収も大幅に減りました。同僚の離婚や多重債務、自殺、そういう例も見ています。ぜひ規制緩和を見直していただきたい」
東京都内のタクシー会社に勤める男性の乗務員(61)は、朝八時から翌朝四時まで二十時間ハンドルを握る。
タクシー業の規制緩和で、全国の台数が一気に増え、"水揚げ"が激減したからだ。二〇〇二年施行の改正道路運送法により、タクシーの需給調整は廃止され、新規参入や増車が自由になった。
東京地区(二十三区と武蔵野・三鷹市)の認可台数は、一九九六年の約二万五千九百台から〇四年には約三万一干二百台と20%近くも増加。供給過剰の状態に陥った。
勤続三十七年の男性は「これほど客が取れなかったことはない」と言う。
デパートや駅前など人が集まる場所でも空車の長い列。一時間半待ってようやく一人乗ってくる程度だ。「流し」の営業はなおさら難しい。
客の取り合いも激しくなった。「対向車線のタクシーが目の前でUターンし、お客さんを拾うこともしばしば。危険運転が目立つ」という。
勤務時間を延ばして頑張ってみても、年収は九六年の五百六十七万円から〇五年四百十四万円と、九年間で約百五十万円も減った。
昨年の月の手取りは十五万六千円。年間で二百万円にも満たない。
家族は会社員の長男と妻、二男の四人。家族の夢で購入したマンションのローンが、今は重くのしかかる。
長男と妻の母から毎月、数万円ずつ援助を受ける。「義母の年金まであてにしているのは心苦しい」と嘆く。
妻は食費を一日二千円に抑えてやりくりし、親類の冠婚葬祭の付き合いも断るように。「蓄えはない。今の生活で必死。老後どころではない」
似た境遇の同僚は多いという。昨年には同じマンションに住んでいた同僚が自殺した。以前、一緒にマンションを購入した間柄だった。
★ 同僚らと提訴「国は政策失敗、認めよ」
会社の労組が中心となり、同僚九人と〇五年十一月、国を相手に提訴した。「生活苦の原因は規制緩和を進めた政策的誤り」と、原告十人で計約二千八百万円の損害賠償を国に求めた。狙いは、政策の失敗を国に認めさせ、変更を促すことだ。
男性が勤務するタクシー会社の労働組合が、厚生労働省の統計調査を基に試算したデータによると、全国の乗務員の平均年収は、規制緩和前の九六年は全産業平均の約73%。規制緩和後の〇四年には約57%にまで落ち込んだ。
国土交通省は「乗務員の待遇改善が必要」として、業界からの値上げ申請を認可する方針に傾いている。規制緩和のツケが、乗務員だけでなく利用者にも回ることになる。
「働いても働いても生活は苦しくなるばかり。気が付いたら、ワーキングプアになっていた」と男性は言う。
男性は裁判長に「一日も早く普通の生活ができるようにお願いしたいと思います」と切実に訴えた。 (寺岡秀樹)
『東京新聞』(2007/8/20 法廷ひと模様)
☆ タクシー値上げ なぜ ☆
★ 規制緩和で台数過剰
参院選後に先送りされていた東京地区(二十三区と武蔵野、三鷹市)のタクシー運賃の値上げ認可の検討を国土交通省などが本格化させる。業界の申請は18・7%だが最大で10%程度になるとみられ、そこからどれだけ圧縮されるかが焦点だ。ただ、参院選の与党惨敗で政治日程が不透明になっており、認可時期は秋口までずれ込む可能性もある。
タクシー各社が値上げを申請した一番の理由は運転手の「待遇改善」。一九九六年ごろを境に始まった規制緩和の影響で、東京地区の法人タクシーの台数は二〇〇五年度で、規制緩和前の九五年度に比べ12・9%増。半面、乗客の数はほぼ横ばい。このため、運転手一人当たりの収入は減少を続けている。
東京地区の運転手の平均年収は〇五年度で四百六万円。九五年度比で百二十二万円(23・1%)ダウンした。全産業平均より二百六十六万円低い水準だ。
増車が供給過剰を生み、歩合制が主流の運転手の収入を直撃。規制緩和の失敗のツケが値上げという形で消費者に回る皮肉な構図となりそう。同様に値上げ申請は全国各地で出されている。影響を及ぼす可能性が高い東京の審査結果を全国のタクシー会社はかたずをのんで見守っている。 (花井勝規)
※タクシー運賃認可
タクシー運賃の改定申請は国交省が約半年かけて審査、認可の是非を判断するが、東京地区だけは「物価に与える影響が大きい」ため、物価問題関係閣僚会議の了承が必要。今年5月末に開かれた事前手続きの物価安定政策会議で「値上げが本当に運転手の待遇改善につながるのか」などと異論が相次いだうえ、参院選への影響を心配する政府部内で慎重論が出て、認可は参院選後に先送りされた。同会議を所管する内閣府と国交省で調整が行われている。
『東京新聞』(2007年8月7日【経済】)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/trend/CK2007080702039240.html
タクシー乗務員手取り15万、仲間自殺も
弁護士「ぜひ裁判官に聞いてもらいたいことは」
男性「タクシーの増車で仕事が減り、年収も大幅に減りました。同僚の離婚や多重債務、自殺、そういう例も見ています。ぜひ規制緩和を見直していただきたい」
東京都内のタクシー会社に勤める男性の乗務員(61)は、朝八時から翌朝四時まで二十時間ハンドルを握る。
タクシー業の規制緩和で、全国の台数が一気に増え、"水揚げ"が激減したからだ。二〇〇二年施行の改正道路運送法により、タクシーの需給調整は廃止され、新規参入や増車が自由になった。
東京地区(二十三区と武蔵野・三鷹市)の認可台数は、一九九六年の約二万五千九百台から〇四年には約三万一干二百台と20%近くも増加。供給過剰の状態に陥った。
勤続三十七年の男性は「これほど客が取れなかったことはない」と言う。
デパートや駅前など人が集まる場所でも空車の長い列。一時間半待ってようやく一人乗ってくる程度だ。「流し」の営業はなおさら難しい。
客の取り合いも激しくなった。「対向車線のタクシーが目の前でUターンし、お客さんを拾うこともしばしば。危険運転が目立つ」という。
勤務時間を延ばして頑張ってみても、年収は九六年の五百六十七万円から〇五年四百十四万円と、九年間で約百五十万円も減った。
昨年の月の手取りは十五万六千円。年間で二百万円にも満たない。
家族は会社員の長男と妻、二男の四人。家族の夢で購入したマンションのローンが、今は重くのしかかる。
長男と妻の母から毎月、数万円ずつ援助を受ける。「義母の年金まであてにしているのは心苦しい」と嘆く。
妻は食費を一日二千円に抑えてやりくりし、親類の冠婚葬祭の付き合いも断るように。「蓄えはない。今の生活で必死。老後どころではない」
似た境遇の同僚は多いという。昨年には同じマンションに住んでいた同僚が自殺した。以前、一緒にマンションを購入した間柄だった。
★ 同僚らと提訴「国は政策失敗、認めよ」
会社の労組が中心となり、同僚九人と〇五年十一月、国を相手に提訴した。「生活苦の原因は規制緩和を進めた政策的誤り」と、原告十人で計約二千八百万円の損害賠償を国に求めた。狙いは、政策の失敗を国に認めさせ、変更を促すことだ。
男性が勤務するタクシー会社の労働組合が、厚生労働省の統計調査を基に試算したデータによると、全国の乗務員の平均年収は、規制緩和前の九六年は全産業平均の約73%。規制緩和後の〇四年には約57%にまで落ち込んだ。
国土交通省は「乗務員の待遇改善が必要」として、業界からの値上げ申請を認可する方針に傾いている。規制緩和のツケが、乗務員だけでなく利用者にも回ることになる。
「働いても働いても生活は苦しくなるばかり。気が付いたら、ワーキングプアになっていた」と男性は言う。
男性は裁判長に「一日も早く普通の生活ができるようにお願いしたいと思います」と切実に訴えた。 (寺岡秀樹)
『東京新聞』(2007/8/20 法廷ひと模様)
☆ タクシー値上げ なぜ ☆
★ 規制緩和で台数過剰
参院選後に先送りされていた東京地区(二十三区と武蔵野、三鷹市)のタクシー運賃の値上げ認可の検討を国土交通省などが本格化させる。業界の申請は18・7%だが最大で10%程度になるとみられ、そこからどれだけ圧縮されるかが焦点だ。ただ、参院選の与党惨敗で政治日程が不透明になっており、認可時期は秋口までずれ込む可能性もある。
タクシー各社が値上げを申請した一番の理由は運転手の「待遇改善」。一九九六年ごろを境に始まった規制緩和の影響で、東京地区の法人タクシーの台数は二〇〇五年度で、規制緩和前の九五年度に比べ12・9%増。半面、乗客の数はほぼ横ばい。このため、運転手一人当たりの収入は減少を続けている。
東京地区の運転手の平均年収は〇五年度で四百六万円。九五年度比で百二十二万円(23・1%)ダウンした。全産業平均より二百六十六万円低い水準だ。
増車が供給過剰を生み、歩合制が主流の運転手の収入を直撃。規制緩和の失敗のツケが値上げという形で消費者に回る皮肉な構図となりそう。同様に値上げ申請は全国各地で出されている。影響を及ぼす可能性が高い東京の審査結果を全国のタクシー会社はかたずをのんで見守っている。 (花井勝規)
※タクシー運賃認可
タクシー運賃の改定申請は国交省が約半年かけて審査、認可の是非を判断するが、東京地区だけは「物価に与える影響が大きい」ため、物価問題関係閣僚会議の了承が必要。今年5月末に開かれた事前手続きの物価安定政策会議で「値上げが本当に運転手の待遇改善につながるのか」などと異論が相次いだうえ、参院選への影響を心配する政府部内で慎重論が出て、認可は参院選後に先送りされた。同会議を所管する内閣府と国交省で調整が行われている。
『東京新聞』(2007年8月7日【経済】)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/trend/CK2007080702039240.html
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