成立・導入させたら暗黒の雇用社会に (週刊新社会)
◆ 悪魔の3法案
● 派遣法 ● 残業代ゼロ ● 金銭解雇
2012年暮れの政権交代以来、暴走を続ける安倍自公政権は今年、雇用破壊立法政策を断行しょうとしている。
労働者派遣法の全面自由化、新しい労働時間制度=新ホワイトカラー・エグゼンプション(労働時聞規制の適用除外制度)、そして解雇の自由化(金銭解消制度)である。このうち、前者2法案は、今年の通常国会で成立させるとしている。
これが完遂されれば、戦後日本の労働者・労働運動が必死に勝ち取ってきた労働者保護ルール(規制)が徹底的に破壊されてしまう。日本の雇用社会を根底から覆す巨大な危機(メガ・クライシス)をもたらすことになるだろう。
そうなれば、”奴隷労働時代”へ歴史を逆行することになりかねず、暗黒の雇用社会がやってくる。まさに、”悪魔の3法案”だ。
◆ 派遣の全面自由化
1つ目の労働者派遣法の全面自由化は、これまで原則として1年(例外3年)という派遣期間の制限があった規制をなくし、あらゆる業務で永久に派遣労働を使えるようにする法案である。
”正社員ゼロ法案””正社員絶滅法案”などと批判されており、文字通り正社員を派遣社員に全面的に入れ替えることが可能となるもので、派遣先は新卒の正社員を雇う必要がなくなる。
派遣で雇われた労働者は、生涯派遣の身分のままで、最悪の不安定雇用と一生低賃金のままで働かなければならなくなる。
そのようなワーキング・プアの労働者を大量に増産していく危険がある。現在、日本の非正規労働者は遂に2000万人を突破、非正規率は4割近くに迫っている。正規と非正規の格差社会がますます深刻になっていく。
◆ 際限なく働かされ
2つ目の新しい労働時間制度(新ホワイトカラー・エグゼンプション)は、これまた恐ろしい制度で、労働基準法にある法定労働時間規制の適用を除外する(エグゼンプション)労働者を大量に作り出そうというものだ。
労働時間規制の適用を外すということは、人類共通のルールである1週40時間・1日8時間という法定労働時間の適用をなくし、残業代も払わずに際限のない長時間労働を命じても合法になるということである。
対象労働者は、使用者から24時間働け、365日休みなく働けと命じられれば従わなければならない。ホワイトカラー・エグゼンプションは本当に恐ろしい法制なのである。
政府は、「一定の年収要件(少なくとも年収1000万円以上)を満たし、職務の範囲が明確で高度な職業能力を有する労働者を対象とする」としており、「高度な専門職」に限らず、「時間ではなく成果で評価される働き方をする者」を想定している。
既に大多数の企業で「成果主義賃金制度」が導入され、ほとんどの労働者が実態として「労働時間ではなく成果で評価される働き方」をしており、新制度の対象労働者は大きく広がる危険がある。
また、年収要件にしても、法律で金額を定めるのではなく厚生労働省令で定めることになるから、すぐに簡単に引き下げられる恐れがある。
昨年の国会でも既に政府は「将来のことは分からない」と答弁しており、日本経
団連は、「ホワイトカラー・エグゼンプションに関する提言」で対象労働者の年収を400万円と想定している。
そうなれば、サラリーマンの過半数が対象となる。そもそも、年収が高額、高度な専門職だからといって、その人の命や健康を保護しなくてよいということには全くならない。
労働基準監督官等が加入する労働組合が監督官1370人に対し、アンケート調査を実施し、「新制度が導入されたら、職場にどういう影響があるか」を尋ねたところ、73・4%が「長時間・過重労働がいっそう深刻化する」と答えている。
現場の監督官は、新制度が導入されれば、労基法が適用されないのだから、長時間労働を是正指導する法律上の権限がなくなり、取り締まることができなくなってしまう。これでは、万一、働きすぎによって過労死や過労障害、過労うつになった場合、労災認定すら受けられなくなる。
まさに、”過労死・過労うつ促進法”であり、”残業代ゼロ”より怖い法案である。
現在、わが国の過労死・過労自殺の労災件数は戦後最悪の水準であり、長時間労働や職場のストレスなどによる精神疾患の労災件数は過去最高を記録している。このような状況で、「新しい労働時間制度」を導入すれば、ますます労働者の命と健康が損なわれる。断じて導入すべきではない。
◆ 解雇が金で買える
最後は、解雇の金銭解消制度である。
解雇の金銭解決制度とは、解雇事件が裁判に訴えられて、裁判所が解雇無効と判断しても、使用者が一定の金銭を支払えば労働契約を終了させることができる制度である。
この制度が導入されると、使用者はどんな不当な理由でも構わないから、気にいらない、首にしたいと思った労働者を解雇して、金銭を支払って退職させることが自由にできるようになる。いわば、”解雇をお金だけで買える”制度である。
そうなれば、使用者は労働組合の組織を簡単に壊滅させることができる。どんな違法な解雇でもすべて金銭で解決されるのだから、労働組合の執行役員や職場のりーダーを何の理由もなく解雇して職場から追い出すことができるようになる。
労働者が使用者に少しでも文句を言えば、見せしめにすぐ解雇されることになると、誰も使用者に対して何も文句を言えない職場になり、労働組合に入ろうとする人はいなくなってしまい、労働組合の団結は消えてなくなる。
労働者はいつ首を切られるか毎日怯えながら仕事をしなければならなくなる。歴史を遡り、暗黒の奴隷制度の時代に逆戻りである。
◆ 導入させたら終り
このような”悪魔の3法案”は、絶対に成立させてはならない。導入されてからでは、もう労働組合は何をやっても手遅れである。
なつめ・いちろう
中央大学法学部卒。司法修習49期、1993年弁護士登録。第二東京弁護士会所属。日弁連労働法制委員会事務局長、日弁連貧困と人権に関する委員会事務局次長、日本労働弁護団常任幹事として、残業・長時間労働、偽装請負・違法派遣、労働組合弾圧、倒産・整理解雇、不当労働行為などに取り組む。
『週刊新社会』(2015/1/27)
◆ 悪魔の3法案
● 派遣法 ● 残業代ゼロ ● 金銭解雇
弁護士 棗 一郎
2012年暮れの政権交代以来、暴走を続ける安倍自公政権は今年、雇用破壊立法政策を断行しょうとしている。
労働者派遣法の全面自由化、新しい労働時間制度=新ホワイトカラー・エグゼンプション(労働時聞規制の適用除外制度)、そして解雇の自由化(金銭解消制度)である。このうち、前者2法案は、今年の通常国会で成立させるとしている。
これが完遂されれば、戦後日本の労働者・労働運動が必死に勝ち取ってきた労働者保護ルール(規制)が徹底的に破壊されてしまう。日本の雇用社会を根底から覆す巨大な危機(メガ・クライシス)をもたらすことになるだろう。
そうなれば、”奴隷労働時代”へ歴史を逆行することになりかねず、暗黒の雇用社会がやってくる。まさに、”悪魔の3法案”だ。
◆ 派遣の全面自由化
1つ目の労働者派遣法の全面自由化は、これまで原則として1年(例外3年)という派遣期間の制限があった規制をなくし、あらゆる業務で永久に派遣労働を使えるようにする法案である。
”正社員ゼロ法案””正社員絶滅法案”などと批判されており、文字通り正社員を派遣社員に全面的に入れ替えることが可能となるもので、派遣先は新卒の正社員を雇う必要がなくなる。
派遣で雇われた労働者は、生涯派遣の身分のままで、最悪の不安定雇用と一生低賃金のままで働かなければならなくなる。
そのようなワーキング・プアの労働者を大量に増産していく危険がある。現在、日本の非正規労働者は遂に2000万人を突破、非正規率は4割近くに迫っている。正規と非正規の格差社会がますます深刻になっていく。
◆ 際限なく働かされ
2つ目の新しい労働時間制度(新ホワイトカラー・エグゼンプション)は、これまた恐ろしい制度で、労働基準法にある法定労働時間規制の適用を除外する(エグゼンプション)労働者を大量に作り出そうというものだ。
労働時間規制の適用を外すということは、人類共通のルールである1週40時間・1日8時間という法定労働時間の適用をなくし、残業代も払わずに際限のない長時間労働を命じても合法になるということである。
対象労働者は、使用者から24時間働け、365日休みなく働けと命じられれば従わなければならない。ホワイトカラー・エグゼンプションは本当に恐ろしい法制なのである。
政府は、「一定の年収要件(少なくとも年収1000万円以上)を満たし、職務の範囲が明確で高度な職業能力を有する労働者を対象とする」としており、「高度な専門職」に限らず、「時間ではなく成果で評価される働き方をする者」を想定している。
既に大多数の企業で「成果主義賃金制度」が導入され、ほとんどの労働者が実態として「労働時間ではなく成果で評価される働き方」をしており、新制度の対象労働者は大きく広がる危険がある。
また、年収要件にしても、法律で金額を定めるのではなく厚生労働省令で定めることになるから、すぐに簡単に引き下げられる恐れがある。
昨年の国会でも既に政府は「将来のことは分からない」と答弁しており、日本経
団連は、「ホワイトカラー・エグゼンプションに関する提言」で対象労働者の年収を400万円と想定している。
そうなれば、サラリーマンの過半数が対象となる。そもそも、年収が高額、高度な専門職だからといって、その人の命や健康を保護しなくてよいということには全くならない。
労働基準監督官等が加入する労働組合が監督官1370人に対し、アンケート調査を実施し、「新制度が導入されたら、職場にどういう影響があるか」を尋ねたところ、73・4%が「長時間・過重労働がいっそう深刻化する」と答えている。
現場の監督官は、新制度が導入されれば、労基法が適用されないのだから、長時間労働を是正指導する法律上の権限がなくなり、取り締まることができなくなってしまう。これでは、万一、働きすぎによって過労死や過労障害、過労うつになった場合、労災認定すら受けられなくなる。
まさに、”過労死・過労うつ促進法”であり、”残業代ゼロ”より怖い法案である。
現在、わが国の過労死・過労自殺の労災件数は戦後最悪の水準であり、長時間労働や職場のストレスなどによる精神疾患の労災件数は過去最高を記録している。このような状況で、「新しい労働時間制度」を導入すれば、ますます労働者の命と健康が損なわれる。断じて導入すべきではない。
◆ 解雇が金で買える
最後は、解雇の金銭解消制度である。
解雇の金銭解決制度とは、解雇事件が裁判に訴えられて、裁判所が解雇無効と判断しても、使用者が一定の金銭を支払えば労働契約を終了させることができる制度である。
この制度が導入されると、使用者はどんな不当な理由でも構わないから、気にいらない、首にしたいと思った労働者を解雇して、金銭を支払って退職させることが自由にできるようになる。いわば、”解雇をお金だけで買える”制度である。
そうなれば、使用者は労働組合の組織を簡単に壊滅させることができる。どんな違法な解雇でもすべて金銭で解決されるのだから、労働組合の執行役員や職場のりーダーを何の理由もなく解雇して職場から追い出すことができるようになる。
労働者が使用者に少しでも文句を言えば、見せしめにすぐ解雇されることになると、誰も使用者に対して何も文句を言えない職場になり、労働組合に入ろうとする人はいなくなってしまい、労働組合の団結は消えてなくなる。
労働者はいつ首を切られるか毎日怯えながら仕事をしなければならなくなる。歴史を遡り、暗黒の奴隷制度の時代に逆戻りである。
◆ 導入させたら終り
このような”悪魔の3法案”は、絶対に成立させてはならない。導入されてからでは、もう労働組合は何をやっても手遅れである。
なつめ・いちろう
中央大学法学部卒。司法修習49期、1993年弁護士登録。第二東京弁護士会所属。日弁連労働法制委員会事務局長、日弁連貧困と人権に関する委員会事務局次長、日本労働弁護団常任幹事として、残業・長時間労働、偽装請負・違法派遣、労働組合弾圧、倒産・整理解雇、不当労働行為などに取り組む。
『週刊新社会』(2015/1/27)
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