朝、開館時間である10時少し前にRoyal Festival Hallに着くと、既に20人以上の人がチケットを求めて列をなしていた。先頭の方は朝6時から並んでいるという。これは、諦めて帰るべきか、とも思ったが、とりあえず並ぶ。
10時になり室内の当日券待合場所に移動。ここは椅子を出してくれるのでありがたい。イギリス人は、すぐに知らない人ともおしゃべりを始めるので、その輪に加わって時間を潰す。約30~40人の列に日本人が4人。人口比に比べるとかなり高い(知り合った方から後から伺ったところによると合計6人ほどいたらしい)。
暫くして、立見席を20席用意してくれる、また購入できるチケットは一人1枚、立見席であってもチケットを購入したら列から外れる、などの約束事が発表され、ほぼ確実に席を確保できることになって安心する。同じプログラムで翌週のリスボンの演奏会を確保しているので、経験にも良いし、立見席を購入。約2時間半でチケットを手に入れることができた。
今日のプログラムは、
Stravinsky: The Rite of Spring
Estevez: Mediodia en el llano
Revueltas: Sensemaya
Castellanos: Santa Cruz de Pacairigua
演奏会開始時に、主催者から発表があり、前半と後半の曲を入れ替える、とのことだった。これは非常に正しい判断と感じた。余り知られていない曲を後半に持ってゆくのは、特にロンドンのような保守的な街、比較的高い年齢層の客層に対しては危険だ。プログラムをどう組むかで、客の反応はまったく違うのだ。
実際演奏も、これまでになく、団員が「緊張」しているように見て取れたし、特に1曲目は、この1週間働き詰めで、皆疲れてしまったのか?と多少心配になるほどノリも悪く、音も出ていないように感じられた。
しかし、後半の「春の祭典」では、彼らの持ち味を遺憾なく発揮。恐ろしく早いパッセージを乱れることなく皆が弾ききる。ドゥダメルはまさに「指揮棒を振る動物」と化す。立見で席が比較的自由に選べた私は、音よりドゥダメルを見ることを優先して席を選択し、彼の指揮を充分堪能させてもらった。
アンコールは、マンボ、これは定番。そして、エルガーのエニグマからニムドット。テンポ良い曲で楽しませる路線から、しっとりと聴かせるところへ落としてきた。日本人の私でも(またこの日知り合った日本人の方も同じことを仰ったが)泣きそうになった。今、ロンドンに居ることを心から感謝したくなった。それにしても、この曲-イギリス人ならば、もっと感動することだろう。
本当にドゥダメルか主催者か知らないが、賢い選択だ。イギリス人の心の琴線に触れるやり方を心憎いまでに心得ている。始まったとたん、会場からざわめきというかどよめきが起こった。今日のリハーサルが非公開だったのは、このせいだったのではないかと思うのは私だけだろうか。
ドゥダメルは最後まで、自分が賞賛を受けることではなく、団員を褒め称えることに徹していた。彼のSBYOとの演奏をご覧になった方ならば皆が気づくように、彼は指揮台の横に立って挨拶をしない。団員、しかも第二ヴァイオリンの団員の間に挟まってお辞儀をするのである。彼はmodestなので、どんな有名オケに行っても好かれるのだ、と誰かが言っていた。
それにしても、素晴らしい1週間だった。まるでロンドンではイースターのお祭りが今日まで続いたかのようであった。ドゥダメル、シモン・ボリバル・ユースオーケストラ、1週間ありがとう。本当に楽しかった。