2009年8月29日。27日と同じプログラムを聴いた。スナイダーの緊張の度合いは27日よりかなり和らいでいる感じではあったが、指揮者とオケにおんぶに抱っこ、という関係は変わらなかった。おそらく、出来自体は27日より良かったのであろうが、個人的には27日の綱渡りの緊張感がなぜか気に入っている。
などと厳しいことを言うものの、私自身極度の緊張に悩むタイプであり、ザルツブルク音楽祭という最も注目を浴びる舞台に招聘される栄誉と、だからこその緊張を思うと、何はともあれ弾ききったスナイダーに敬意を表したい。
後半の春祭。「本番に強い」とどこかで読んだウィーンフィル、管楽器のソロやパーカッションが素晴らしく、また弦楽器も一番前で聴いていても、ひどく乱れることなく、素晴らしい技術を持ったメンバーであることが改めて理解できた。春祭はただ「ごちゃっ」とした音の塊の洪水になりがちだが、一つ一つのパートもクリアで(この点は他の曲でもドゥダメルの得意とするところと思う)、特に第一部の後半は、この美しい音が層を成し、喩えるなら「巨大ミルフィユ」状態になって押し寄せてくるようで、体中をアドレナリンが駆け巡り、こちらまで臨戦態勢であった。そのままの調子で第二部が演奏されていたら、間違いなく大泣きしていたと思う。この日のために何枚かCDを購入したり借りたりしたが、もう二度とこれらを聴くことは無いかもしれない。
第二部は、Simon Bolivar Youth Orchestra of Venezuelaでの演奏より、テンポが落ちついていたように思う。もう少し早い方が好み、というフレーズもあったが、全体としてはこのくらいのテンポでよいと思う。途中、楽団員の緊張の切れや第二部の最初の乱れ、終曲冒頭の客席からの大きな咳払いなど、音楽から気が逸れてしまう部分があったことは残念であった。
ともあれ、第一部の後半の演奏は本当に素晴らしく、聴きながら、これほどの素晴らしい演奏を聴かせてくれるドゥダメルに、一体どんなお返しをしたらよいのか、と問いたくてたまらなくなった。勿論、そんなものは自分で見つけて実行する以外には無いのだけれど。。。
演奏会後、約束どおり家人と出待ちをした。ドゥダメルは多くのファンのサインや握手に応えていたが、ふと一瞬間が空いて、一群の人々の少し後ろに居た私と目が合うと「ご家族の方ですね(見たら分かりますよ)?」と声をかけてくれた。家人は彼と握手し、サインを頂き、写真に納まって大満足。「それでは、また、ベルリンで」、手を差し出すと、すっと引き寄せられ、しばしの別れをラテン風に惜しんだ。