ヴォルフガング・ホルツマイアーのバリトン、アンドレアス・ヘフリガーのピアノ伴奏でシューベルトの「冬の旅」を聴いた。
ホルツマイアーはオーストリアのバリトン歌手で、オーストリア人=ドイツ語Native=ドイツリートにぴったり!、という極めて単純な発想で聴きにいった。
果たしてホルツマイアーは、豊かな声量、濁りのない美しい声質を誇っていた。前から13列目とホールのほぼ中央付近に居たにもかかわらず、ところどころ声の波動が耳にびんびんと響くのである。彼にはこの500席程度のホールでは狭すぎるのだろう。また私の中で彼の声質は、ヴェルディのレクイエムやオペラを歌ってほしい類のものであり、シューベルトの「冬の旅」ではなかった。勿論、筋肉隆々のお兄さんだからといって失恋して、失望して、死をもすら考えないとは言わない。しかし、やっぱり、ちょっとドイツの暗さではなく、明るい南の太陽に照らされた国の歌を歌って欲しい、溌剌として艶やかな声質に思われるのであった。
ザルツブルク・モーツァルテウムでリートとオラトリオを教えている、というのだから、歴としたドイツリート歌手なのであろうが、何度思い起こしても、ヴェルディ向きの声に思えてならない。彼がヴェルディやプッチーニといったイタリアオペラを歌う演奏会があれば是非聴きに行きたい。