rakitarouのきままな日常

人間様の虐待で小猫の時に隻眼になったrakitarouの名を借りて政治・医療・歴史その他人間界のもやもやを語ります。

患者さんはお客様という発想は市場原理主義者の妄言である

2009-11-29 18:08:20 | 医療
私は病院内で患者サービスに関する委員会に属しているので患者さんからの苦情や提案を院内で収集して対応する立場にいます。待ち時間が長いとか救急対応の不備とか「もっとも」と思われる内容や、売店に関することなど早急に対応可能な事例もあります。言葉遣いなども、社会人としての礼を失するような事例を指摘された場合にはそのつどフィードバックをするよう心がけています。

しかし以前モンスター患者の例で紹介したように、患者側にも明らかに認識を改めて欲しいと思われる苦情があることも明らかです。「患者さんはお客様という認識が徹底されていない。」という指摘をする人がいます。我々医療者はそのような認識を徹底する気は全くありません。「患者さん」は「病気を治すために病院に来た患者さん」であり「サービスや物を買いに来たお客様」ではないからです。病院が患者さんをデパートや旅館がお客様をお迎えするように「上げ膳据膳」で接待しないことに不満を抱いている人がいます。しかしそれは誤った認識です。
我々日本人は国民皆保険制度に従って、元気な人も毎年何十万という医療費を払っています。それは自分が病気になったときに安く診療してもらうためでもあり、また日本国民全体の健康が保たれている事が社会のため、また日本の国益にもつながるという考えに立脚しているからです。病気になった人は早く治って社会復帰をすることが社会全体にとって大事であるという思想に基づいています。
外科医は毎週5人手術をしても10人手術をしても給料は変わりませんが、本当は沢山仕事をするほど給料もあげて欲しい所ではありますが、医療を行う事で患者さんだけでなく国民全体の役に立っていると考えるから「これでよし」と考えているのです。病院では毎月、科毎の売り上げが発表されますが、同じ労力でも診療報酬点数が様々であったり、麻酔科、放射線診断部や病理などのように科としての売り上げが出せない所もあり、また病院全体としてはそのような部門はなくてはならないものであるからこそ、医師の給与体系は売り上げでなく年齢と職位で決まっていることに皆納得しているのです。
もし「患者」を「顧客」として扱え、というのであればデパートや旅館のように全額医療費を自費にしないといけません。要は美容整形と同じ扱いであれば患者さん「ペイシェント」は完全に「クライアント」になります。我々も手術や医療をするほど給与を沢山もらうことになります。商売人が「客に頭さげるんやない、銭に頭さげとるんや」と言うのと一緒です。

実は「患者さん」を「患者様」と言え、とか「病院は患者様に来て頂くという意識がない」などというキャンペーンが始まったのは2000年に「日本の医療の市場開放」をアメリカが年次改革要望書で明示して、それに呼応してマスコミが日本の医療叩きやアメリカの市場医療礼賛が始まった時期と一致しています。政治においても、「小泉米国市場万能主義内閣」が日本に「医療特区」を作って米国の病院を誘致したり、株式会社の病院参加を促したりした時期と一致しているのです。2004年には厚労省の相次ぐ診療報酬引き下げによって病院の9割が赤字になり、日本の病院運営は儲からないということがアメリカの市場主義者にもわかったらしく、「日本の医療を市場開放しろ」と年次改革要望書には書かなくなりましたが(アメリカ製の医薬品や医療資材は手続きを簡素化して購入を容易にしろと言い続けている)、「患者さんをお客様扱いしろ」という主張はあまりアメニティの面で良好でなかった病院医療に対して患者さん側としては「その通りだ、我々は金を払っている客なのだ」という意識になり、そのまま残ってしまったと言うことでしょう。

我々医療者側もできる改善は行いますが、医療の主眼は「病気を治す」ことと「医療安全」ですから、それ以外の接客業的サービスに力を注ぐつもりはないですし、その必要もないと考えています。むしろ「医療崩壊」によって最も困るのは「日本国民全体」ですから、WHOが世界一と評価した日本の医療体制を維持し、孫子の代に繋げてゆく事こそが接客などよりも最も大事な現在の課題であると認識しています。

宮城谷昌光氏の小説「月下の彦士」に「人から与えられるばかりで、与える事をしないことを、むさぼると申します。むさぼった者はなべて終わりが良くない。」という心に残る一節があります。自分で一生懸命働き、或いは人の世話をすることで社会に奉仕をしてきた人は人から奉仕されることに素直に感謝の気持ちを表わします。休日に病院で働いていると「先生もお休みの日に大変ですね。」などと自然に声をかけてくれる方もいて「ああ、この人は解っているな。」と思います。患者さんでも、各種サービスにおいても「むさぼる」状態の人ほど「勝手とも言える一方的な要求」をするものです。我々は患者さんのプライバシーもある程度知り得る立場にあるのでより一層解ってしまうのですが、本当に「むさぼった者は終わりが良くない。」です。
コメント (4)
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