rakitarouのきままな日常

人間様の虐待で小猫の時に隻眼になったrakitarouの名を借りて政治・医療・歴史その他人間界のもやもやを語ります。

書評 「通貨」はこれからどうなるのか

2013-01-09 22:03:10 | 書評

書評 「通貨」はこれからどうなるのか 浜 矩子PHPビジネス新書216 2012年刊

 

新しい政権を担う安倍総理は「アベノミクス」なる政策を掲げて「金融緩和(お金を沢山市中に流してインフレを誘導)」「財政出動(公共投資をして無理矢理需要を創出する。13兆円を超える補正予算を策定、経済対策としては20兆円規模)」「成長戦略の実現」を行って日本経済をデフレから脱却させて、再び成長路線に乗せようとしています。市場ではその期待感から円安、株高が現出され、新政権への追い風となっています。金融緩和や財政出動はいままでも散々やってきたことですが、「兵を小出しにしてもその都度大きな不況の波に損耗してしまうので、思い切って大量の兵を投入してみる」というのが今回の違いなのでしょう。「賭け」的な要素もあり、要は3個目の「成長戦略」をいかに実現させるか(大胆な規制撤廃とか)に計画の正否がかかっていると言えそうです。成長戦略が単にTPPに入るという意味で、金融緩和も財政出動もあらかたアメリカに吸い上げられて(米国債を50兆円買うという話もある)終わり、という結末であればもう日本は本当に終わりになるのかも知れません。

 

ここで金融緩和の主役である「お金」とは何か、について詳しく説明されているのがこの本です。本にも書かれていますが、「100円」と書かれた紙切れを皆が100円の価値がある、と考えればそれが通貨としての100円の価値を持つというもので、国が発行しようが、地域が発行しようが、場合によっては個人が発行してもそれが100円として流通しえるものと言えます。日本では馴染みがありませんが、外国では銀行に口座を作ると通帳はくれませんが、小切手帳を渡されます。その銀行の発行した紙に100ドルと書いてサインさえすれば、それは100ドル札として通用してしまいます。勿論銀行に行けば現金に替えられるという保証があるから個人が発行した小切手が「お金」になるのですが、実際は換金してみないと不渡りであるかどうか分からない訳で、それまでは額面上の価値があるものとして流通してしまうことになります。

 

本書では、現代のお金の問題について、実に具体的に「疑問に答える」形で解説がなされています。例えば第一章、読者の疑問に答える、では

1)      円高はいつまで、どこまで続くのか(1ドル50円になるまで)

2)      1ドル50円になったら日本の産業は壊滅するか(急にはならない)

3)      日本の財政が破綻寸前ならば円の未来も暗い?(そのとおり)

4)      財政デフォルトが起こるとどうなる(社会保障やサービスが消滅)

5)      財政再建には増税しかないか(そのとおり、但し課税法に工夫)

6)      ユーロは今後どうなる(現在の形は消滅する、重複通貨として残る?)

7)      中国やインドが基軸通貨になるか(ならない、基軸通貨という概念が消失する)

という具合に簡明かつ具体的に解説がなされてゆきます。本の構成としては、4-5回のシリーズでNHK特集の番組ができそうな形式でまとめられていて、第一章で通貨の全体像を概観し、第二章で21世紀の通貨のありかたとしての「地域通貨」の活用(現実にあるフランスやスイスの地域通貨を紹介)、第三章では欧州の分裂(国家間の南北問題)と今後、第四章で1ドル50円時代の日米関係を解説(アベノミクスに比肩されるレーガノミクスが一見インフレなき経済成長に見えたが結局1ドル250円から100円にドルを暴落させるプラザ合意とブラックマンデーに終わる課程を解説し、その後の金融立国を目指したニューエコノミーも結局リーマンショックに終わった顛末の解説が圧巻。そしてドルの本来の相場である1ドル50円になることで、通貨が安定し、短期的な円の相場変動によって一喜一憂することがなくなると解説される)。

第5章は日本の財政破綻を避けるための税制の改革について述べられています。つまり、現在の税制は高度成長時代に作られたものがそのまま使われているから経済成長がのびなくなると税収も減ってしまう。成熟した経済においても安定した税収が得られて所得の再分配がなされるような形、そこに定住している国民からだけでなく、グローバル時代で物と金が自由に行き来している所からも税を徴収できるしくみを国際的に作ってゆくことが大事と建設的な意見が出されてゆきます。そして結論として、国家や政府に吸収されずに強大な力となって世界を荒らしている「マネー」を飼いならすために「基軸通貨」から「地域通貨」の時代へ変わってゆく事が必要という提言がなされます。

 

いや本当に分かりやすい「NHK特集」ができそうに思う、新春に読むにはお勧めの一冊です。

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