rakitarouのきままな日常

人間様の虐待で小猫の時に隻眼になったrakitarouの名を借りて政治・医療・歴史その他人間界のもやもやを語ります。

心筋梗塞患者の6割以上はコレステロール値が正常である

2013-02-21 18:49:39 | 医療

昨日大学教授に昇任した同級生の講演を聞く機会がありました。循環器疾患の権威になっていて活躍しているのですが、普段自分が扱っている専門分野と異なる最新の話題について話を聞くのも刺激になってしかも不十分にしか理解できていなかった所が理解できて「目から鱗」の状態になった部分もあり、良い経験でした。以下に備忘録として記しておきます。

 

新しい虚血性心疾患の一次予防のガイドラインにおける高脂血症の扱いについて、高LDL(悪玉)コレステロール、低HDL(善玉)コレステロール、高中性脂肪が心筋梗塞などの危険因子であり、この状態の患者さんの脂質異常をスタチン製剤などで改善することが、心筋梗塞の予防に重要であることは間違いないのですが、脂質異常症の患者が0になっても心筋梗塞患者が0になることはない。なぜなら心筋梗塞患者の6割以上はコレステロール正常だから。一度梗塞になった患者さんの最梗塞を予防する(二次予防)場合においても、脂質異常の改善は最梗塞の頻度は下げるけれども0にはしない、という部分が問題になります。

 

脂質異常の人が梗塞を起こす確率は、正常の人よりも高いことは間違いないのですが、圧倒的多数を占める脂質異常のない心筋梗塞患者をいかに一次予防するかについて有効な手段が今の所示されていないことが大きな問題となります。多数の正常な人達の中から、近い将来心筋梗塞になる人をいかに手間と金をかけずに有効に見つけ出すか、その検査は何かということが現在の最大の課題、ということでした。

 

心筋梗塞をおこすリスクは脂質異常だけではなく、高血圧や糖尿病、年齢など様々な因子が複合してあるのですが、これらが組合わさった高リスクの人達の発症をいかに抑えるかについては世界中で科学的データに基づく実証的研究が既になされていて、莫大な医療費が使われ、それなりに効果もあがっているのは事実なのですが、実数ではリスクが低いとされる正常者達が患者の半数以上を占めていることから、一次予防というのが未だ不完全な医療であることが露呈されるのです。つまり発症率はずっと少ないながら、莫大な数の正常者群から、いかに心筋梗塞を起こす人を事前に拾い上げて予防するかの方策が立たなければ、「これをしていれば安心です」と一般の人に説明することができない、莫大な医療費を使ってリスクの高い人の発症を一部抑えたところで、大多数の心筋梗塞患者はその予防医療とは関係なく発症してくるという現実が残ってしまうことになるのです。

 

私は医学生のような質問をして「そもそも心筋梗塞は動脈硬化がないと起こらないものか」という初歩的質問をしてしまったのですが、「動脈硬化」という言葉の定義も難しいということで、血管にできたプラックに何らかの機序で血栓が詰まって梗塞がおきるのだからプラックが僅かでもできている状態を動脈硬化と言ってしまえばそうなる、しかし一般的に動脈硬化指数などと言っているものはもっと大まかな病理解剖学的な組織の状態を反映しているので、その意味では検査にかからない正常な人が沢山いることになる、という説明。そういわれれば納得できますね。

 

このような話は専門家の間ではわざわざ話題にしなくても分かっている事実なのでしょうが、門外漢の我々他科の医師にとっては新鮮な話題であって、あれだけ脂質異常の薬が氾濫して大変効果があると毎日聞かされていると、いずれは急性心筋梗塞の発症はなくなるのではないかと勘違いしてしまい、血管の治療や手術もいずれは必要なくなる医療かと勘違いしてしまうところでした。それは泌尿器科医にとって80歳代の早期前立腺癌は治療などしないで放置していてよい事が常識であっても、他科の医師には理解されていないのと同じ事かもしれません。まして医師でない一般の人達にとっては「どこまでが有効な医療か」を判断することはかなり難しいと思います。

 

自分にとって必要な医療は何かを決めてもらうのは信頼できる医師を見つけて頼る以外はないと思います。「今現在苦しい状態を治してほしい」という急性期医療については迷うことはないと思いますが、「予防医療を受けるかどうか」については、「自分はどう生きたいか」というポリシーを持っていないとその医療が自分にとって有用かどうかの判断がつきにくくなることは間違いないでしょう。

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