rakitarouのきままな日常

人間様の虐待で小猫の時に隻眼になったrakitarouの名を借りて政治・医療・歴史その他人間界のもやもやを語ります。

日米「反知性主義」の違いについて

2017-04-06 18:11:22 | 社会

「反知性主義」という言葉について良く理解している人は「いまさら感」があるかも知れないのですが、最近宗教学者の島田裕巳氏の近刊「反知性主義と新宗教」イースト新書(081)2017年刊を読んでいて、巷で良く耳にする「反知性主義」という言葉が日本で使われている意味と欧米で本来使われて来た意味がかなり異なるという事を知り、しかもBrexitやTranpismという最近の流れにおいて、日本においては欧米でも日本で考えられている意味で「反知性主義」という言葉が使われているかの如く誤解されていると思われるので、私は改めて整理しておく必要を感じました。

 

日本における反知性主義

 

内田樹氏の「日本の反知性主義」(原典であるRホフスタッターの著作「アメリカの反知性主義」を意識した題名)では、アメリカの本来の意味に触れながらも、日本における反知性主義は「感性や感情が理性に勝って力や説得力を持って来ている現在の日本の風潮」を表現する言葉として定義付けられているようです。またその他のメディアや評論家が使う「反知性主義」の内容も概ねその意味で使われていて「ほぼネガティブな意味合い」つまり「反知性主義≒思慮が足りない≒非インテリ的≒衆愚(ポピュリズム)」といった一連の概念を現す内容として語られていると思われます。

 

米国における反知性主義

 

反知性(Anti-intellectualism)とは、知性(intellect)よりも知能(intelligence)を重視する考え方と説明されます。Intellectを知性と訳してしまうのでこの違いが日本語においては良く解らないのですが、「既成の権威主義的な学問体系」みたいなものをIntellectと称しているのであって、自ら状況に応じて考える能力が高い事をintelligenceと称して、総じてポジティブな意味合いで使われることも多いのが本来の反知性主義と解説されています。

 

アメリカの人気テレビ番組「メンタリスト」は面白いので私も良く見るのですが、シーズン2第二話「The Scarlet Letter」の冒頭で、橋の下で発見された若い女性の遺体が自殺か他殺かを法医学者が「最新の法医学をもって分析すれば数日の内に結論を導き出せるだろう。」と主人公に対して自慢げに話したのに対して、学問はないけど海千山千で人の心理を読んで生きて来た主人公(メンタリスト)のジェーンが「僕には法医学は分からないけど、女性の靴が片方しかなくて、橋の上にも靴がなかったからこれは他で殺されて橋から落とされた他殺だよ。あなたは真面目な学者だけどバカだ。」と学者を瞬殺するシーンがありました。

これこそが米国における「反知性主義」なんですね。「知性よりも知能が勝ることを示して権威主義に頼る人達に喝を加えることを良しとする思想」です。

 

トランプ大統領に対して民衆が賞賛するのも、彼が言いたい事を言っているからというよりは、既成の体系となった政治的正義や経済・外交の常道といったものを一度否定して、その場において適切(と思われる)要求や主張を展開して、それが既成のメディアに否定的に取り上げられることで却って宣伝効果を高めているというかなり知能犯としての行いが「反知性主義的」と認められていると思われます。

 

日本で言えば、福島の原発事故後にいくら原子力の専門家が再稼働について「危険はない」と学問体系に照らして説明しても一般民衆の方がサイエンスにも限界がある(これは真実)ということを生理的に見抜いて反対している現状に近いのではないかと思います。

 

反知性主義は日本においては「インテリ」と自負する人達が自分達の論理的な言質に効力がなくなってきたことを嘆く意味で使われているのですが、本来は既成の権威的な学問への懐疑、現状に柔軟に対応する知能の高さを賞賛して使う場合もあるのだということを理解していないと外国人と会話をする際にとんでもない誤解を招く事になりそうです。

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4 コメント

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言葉遊びのようですが・・ (海坊主)
2017-05-15 22:36:18
ご無沙汰しています。久々にコメントいたします。

日本で取りざたされたのは「知性」主義 vs.「反知性」主義であって、米国で議論されてきた「知性主義」vs.「反知性主義」とそれとは別物と私は理解しています。また困ったことに、この日本では「反知性」主義と「反知性主義」が混淆してしまって、言い出しっぺの知識人本人がその陥穽にはまってしまう、という皮肉な光景を私たちに見せてくれました。
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レッテルとしての効果 (rakitarou)
2017-05-17 13:20:44
海坊主さんコメントありがとうございます。
 右翼、左翼という言葉もそうですが、反知性主義も「あるワンセットになったステレオタイプなエトスや思想を持った人」にそれぞれの人を規定して落とし込んだ上で「批判」するための道具として使われています。
 人は個々の問題に対して、それぞれ違った結論を持っているのが当たり前なのですが、個々人がワンセットになった思想を持っていると決めつけて「違った問題に対しても類型化、セット化した結論を出すのだ」と無理矢理規定して「批判」する風潮が戦後、特に左翼(マスコミを含む)が自分達の思想を受け入れない人達を批判する時に「便利な道具」として使ったために今だ定着しているように感じます。
 レッテル張りをして人を批判すること自体が「反知性」主義なのですが、ネット上の討論を見ていても、社会のニュースなどを見ていても、その陥穽から抜けられる知性のある人(メディア)が少ないように見えます。実は政治においても日本では「党議拘束」などという反知性主義がまかり通っている事も問題と思いますが。
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おおーっ! (山童)
2017-12-15 02:21:38
ドクターである先生の記事を読みまして納得。
私は臨床にか変わる医者は別物と考えているのですね。私自身はチンピラな人生を送ってきましたが、学者の家系でして。
人文科学系が多いのですが。
医者は人体という自然に接するので、彼らとは別に見ています。
そので知性と知能ですか……山で害獣駆除のハンターを足掛け25年ほどやりましたが。
ある時に里山で遭難した小学 3年生の捜索に参加しました。幸いに無事でした!
この子、なかなか偉いのです。
寒いから焚き火に当たろうとして実行するが、
なかなか燃えない。
そこで色々と集めてくるのですが、燃えやすい
付け火できる素材と、燃え難いが長く燃焼する素材の差に気がつく。
彼女は長く燃える素材が長軸の物体であると考えて、さらに直径による差がある事を発見。
そこで、太い薪を二本用意して、その間に細い薪、さらに細い枝。そこに燃えやすい針葉樹の皮や落葉をまぶした。
ケバケバやササクレのある枝が良く燃えるのを見て、小さなナイフで木々に刻み目を入れる。
そうして一晩を過ごしたのですが、実は彼女の
焚き火は伝統的なマタギのそれとそっくりなんです。普通の方は山型に薪を組むのですが、
そのやり方だと長時間、焚き火が持たない!
何の科学知識もなく、そこに行き着いたのは
合理的でしょう科学的な思考をしたからではないでしょうか?
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血圧やコレステロールの問題 (rakitarou)
2017-12-15 17:53:29
コメントありがとうございます。臨床医学で言うと、高血圧の基準をいくつにするか、コレステロールの値はどうあるべきかといった問題は、学会が数年毎に基準を改訂してガイドラインが変わったりします。このガイドラインに沿った医療を行わないと「不勉強な医者」などと批判されたりするのですが、そもそもこのような基準が「何を目的にどのような研究を下に何%位のメリットがあるから決まった」といった経緯を全て省略して「ガイドラインを知らないのか」的な批判がなされる事自体が「愚かな知性主義=権威妄信主義」なのだと思いますね。

「おいしい物食べて楽しく生きて心筋梗塞でコロッと死ぬのが良い人生」と定義すれば、「精神的に生き生きと健康な生活を送るために血圧やコレステロールなんてどうでも良い」が正しい医療ですから。
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