マリリンの映画日記

エッセイスト瀧澤陽子の映画ブログです!新作映画からオールドムービーまで幅広く綴っております。

フローズン・タイム

2008年01月25日 | 映画
 時間を止めることができたら、さて何をしようか?

 過去に遡れば、止めたい恥ずかしい出来事ばかりである。が、タイムマシーンのように過去には戻れないし、未来にも行けないのがこの映画の原則。今あるこの瞬間だけ、時間を止めることができる。

 さて、何を止めようか?

 色々考え、想像してみるが、凡人の私はどうも思いつかない。時間を止めたいほどやりたいことがない知的貧弱な人間なのである。

 しかし、主人公の画家志望のベンは違う。立派に時間を止めて、自分のイマジネーションの世界を彷徨うのだ。

 ベンは失恋のショックから不眠症にかかる。1日は24時間。人の平均睡眠時間は8時間として、ベンはこの余剰の8時間を持て余す。苦肉の策から生まれたのが、ロンドンの24時間営業のスーパーマーケットで働き始めることだった。ロンドンのスーパーマーケットという設定も面白い。そこでベンと共に働く人も摩訶不思議で面白い。

 さらにベンは1日24時間の天文学的ルールを破り、時間を止める力を持ち始める。1日24時間の時間がさらに増えていく。意識が混濁した時にだけ、周りの世界が止まる。動いているのは自分だけ。虚空の人になる。
 
 すると、ベンは目に留まった美しい女性たちをデッサンし始めるのだ。縦横無尽に美を追求し、美を表現する。究極の美とは、時間が止まった世界にしか存在しない。そんな芸術家の普遍的な願望や欲望を表しているのも、この異色な「フローズン・タイム」という作品の狙いなのかもしれない。

 失恋からベンは立ち直り、新しい恋を見つける。新しい恋を見つけた瞬間、またベンに別の変化が起こる。この変化が実にコミカルでロマンチックで楽しい。

 恋は盲目と言うが、人は恋することで自然体の全うな人間に戻れるというパラドックス。何よりも映像が美しい。新鮮で「洒落た恋と芸術」への礼賛に拍手喝采!

 恋から縁遠くなっていた(ぶっちゃけ、誰からも相手にされなかった)私は、やはり全うな人間ではなかった。と、今さらながら気がつき、焦った。ということは今からでも遅くない。全うな人間になるために、より良い表現者になるために、皆さん、元気一杯恋をしましょうね!

  
フローズン・タイム公式サイト
 
1月26日~公開。渋谷Q-AXシネマにて
 
監督督 ショーン・エリス
出演 ショーン・ビガースタッフ/エミリア・フォックス/ショーン・エヴァンス/ミシェル・ライアン/スチュアート・グッドウィン /マイケル・ディクソン/マイケル・ラムバーン/マーク・ピッカリング/フランク・ヒスケス

2006年イギリス映画