マリリンの映画日記

エッセイスト瀧澤陽子の映画ブログです!新作映画からオールドムービーまで幅広く綴っております。

レスラー

2009年05月20日 | 映画
女。女。女…。私は女のはずだ。

しかし、『レスラー』を見ている間、ずっと私は男だった。もちろん肉体は女である。が、心はかつて栄光に輝き、老いのために全てを失った初老の孤独なプロレスラー・ランディの男の気持ちそのものだった。

人生の挫折感、孤独感、葛藤に、男と女の強弱や温度差をつけるのは無謀であるが、あえて私はこの作品でそれを顕著にしたかった。

そう、この『レスラー』は世の男たちのために作られた「男への憧憬であり尊敬」なのである。そして、女である私を男の気持ちにまでさせてしまうほど吸引力をもった説得力のある不思議な作品でもある。

名声を失った元大スターのレスラー・ランディの生き様をミッキー・ロークが、俳優生命をかけているかのように、体から心から全ての力を振り絞って、激烈に演じている。

ミッキー・ロークといえば、『ナインハーフ』(86年)である。ミステリアスでセクシャルな男と女の関係を、ミッキーは実にエロチックに演じていた。これで、彼はハリウッド屈指のセックスシンボルに輝いた。

しかしである。その後IRAの元メンバーで殺し屋としてしか生きていけなかった男の孤独を描いた『死に行く者への祈り』(87)など、いい作品に恵まれているものの、代表作は皆無となり、俳優からプロボクサーに転身したと聞いた時は、びっくりだった。

しかし、ボクサーとしても大成することなく時代は容赦なく流れる。そして13年の歳月がたった。ミッキー・ロークという男優がいたことさえ忘れられそうになった映画界。まさにその瞬間、彼にピッタリのはまり役が回り、数々の世界の賞に輝き、アカデミー主演男優賞にまでノミネートされた。

それがこの『レスラー』でもある。ミッキー・ロークファンの私にはたまらないほどうれしい快挙である。ミッキー・ロークは過去を清算して雪辱を果たした。涙が出るほどうれしかった。

だからこそ、スクリーンに反射する波乱万丈のプロレスラー・ランディの人生が、そのままミッキー・ロークの人生に重なって見えるのは私だけではないだろう。

ミッキー・ローク。素晴らしいカムバックだ!

男なら誰でも、ラストのランディの決断を深く理解し、共感し、熱い涙を流すことだろう。


レスラー公式サイト


監督 ダーレン・アロノフスキー
出演 ミッキー・ローク、マリサ・トメイ、エヴァン・レイチェル・ウッド


2009年6月13日よりシネマライズ、TOHOシネマズ シャンテ、シネ・リーブル池袋ほか全国にて公開

2008,アメリカ,
配給、日活