シャープが2009年に稼働させた液晶パネル工場の建設風景(堺市)
シャープはKDDIなどと連携し、9月に稼働を停止する堺市の液晶パネル工場の建屋をデータセンターにする。
現在はテレビ向けのパネルを手掛ける堺市の工業用地はかつて八幡製鉄(現日本製鉄)などが所有する製鉄所の一部だった。堺市の立地は鉄鋼から液晶パネルを経てIT(情報技術)と、基幹産業の移り変わりを映している。
KDDIは3日、アジア最大級の人工知能(AI)用のデータセンターの構築に向け、シャープなどと協議を始めると発表した。
米エヌビディアの次世代の画像処理半導体(GPU)などを搭載したサーバーを1000台規模で運用する拠点を構築する。生成AIの基盤となる大規模言語モデルの開発・運用拠点として外部に提供する。
シャープとKDDI、システム受託開発のデータセクションと米サーバー大手のスーパー・マイクロ・コンピューターの4社が組む。堺工場の建屋を活用する形でデータセンターをつくる。
データセンターの新設に向け協議することに合意したKDDIやシャープなど4社の関係者=KDDI提供
堺市堺区匠町とその周辺。大阪湾に面した堺市の沿岸部を埋め立ててつくられた工業用地の歴史は約60年前に遡る。
大阪府で堺臨海工業地帯の造成計画が立ち上がり、最初の進出企業となったのは八幡製鉄だった。
1961年に製鉄所の操業を開始し、65年に第1高炉、67年に第2高炉に火を入れた。
高度経済成長期の鉄鋼需要に見合う供給を続けたが、市場は70年代のオイルショックや85年のプラザ合意を機に縮小へ転じた。84年に第1高炉、90年には第2高炉の火が消え、高炉操業は終わった。
土地の所有者は2007年にシャープに移った。04年に稼働した亀山工場(三重県亀山市)で生産した薄型テレビが「世界の亀山モデル」と一世を風靡した後、さらなる成長を目指し堺製鉄所の遊休土地を取得した。
シャープの液晶パネル生産子会社の外観(堺市)
シャープは約4300億円を投じ、09年にテレビ向けの大型液晶パネルを生産する堺工場を稼働させた。
約130万平方メートルの敷地内にはシャープのほかに、AGCや岩谷産業、栗田工業といった関連業種19社が集積し、「グリーンフロント堺」と呼ぶコンビナートを形成した。
ただ、中韓勢との価格競争によりパネル工場の稼働率は安定せず、12〜16年にシャープが経営不振に陥る主因となった。
米調査会社DSCCによると、堺工場の直近2年間の月間稼働率は一時1割程度に下がった。投資家などから事業の見直しを求める声が強まり、堺工場の生産停止が決まった。
シャープは5月14日に開いた24年3月期の決算会見で、9月末までに停止すると発表した。
親会社である鴻海(ホンハイ)精密工業の劉揚偉・董事長はシャープの発表を受けた声明で「AI(人工知能)データセンターなどへ転用を図る」と述べていた。
今後はKDDIやデータセクションと共同出資会社を設立する方向で協議する。
データセンターの規模や運営会社の経営権をどの会社が実質的に握るかなど、具体的に詰めるべきポイントは多い。
データセンター関連事業を白物家電に次ぐ収益の柱に育て、大型パネルの生産の撤退によりなくなる売り上げを補えるかは、これから作成する事業計画にかかっている。
(坂本佳乃子、岩沢明信、桜木浩己)
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別の視点
ものづくりからITへ、まさに産業の変遷を示していますね。
高まる生成AIへの期待から、データセンター需要がますます過熱し、投資も加速。
データセンターをつくっている最中から、在庫が売れていくような状況と聞きます。
一方でデータセンターはメーカーの工場と異なり、地域に大きな雇用を生むものではなく、多くの電力を消費することで地域に影響を与える存在でもあります。
周辺住民が、データセンターに圧迫を感じ、摩擦を生むケースも報じられています。データセンターを「迷惑施設」と捉えられないようにしていく取り組みも重要になります。
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日経記事2024.06.03より引用