【シリコンバレー=中藤玲】
米アップルは10日、自社開発の生成AI「Apple Intelligence(アップルインテリジェンス)」を発表した。スマートフォン「iPhone」などに搭載する。
米オープンAIの対話型AI「Chat(チャット)GPT」との連携も発表し、一部のサービスでは消費者の許可を得た上でチャットGPTが対応する。
10日に米カリフォルニア州の本社で開幕した年次開発者会議「WWDC」でアップルインテリジェンスを発表した。
ティム・クック最高経営責任者(CEO)は「生成AIで製品を新たな高みに持っていく。(AIが)あなたを理解し、パーソナルな機能を提供する」と説明した。
今秋からの次期OSに一部搭載する。
今夏には米国で試験提供を始め、最新のiPhone15Proやアップル製半導体を搭載した比較的新しいパソコン「Mac」などで使えるようにする。日本語などの追加言語は2025年から使える。
10日のイベントでアップルは「アップルインテリジェンスはアップルだけが提供できるAIだ」と打ち出した。
紹介したAI関連サービスは多岐にわたった。AIがiPhoneに蓄積されるメールや写真などのアプリから個人データを集めて分析し、利用者に便利な機能を提供する。
例えば、音声アシスタント「Siri(シリ)」に「母親の到着時間を教えて」と聞くと、メールから飛行機のスケジュールを自動で抽出し、リアルタイムの航空情報と照らし合わせてユーザーに時間を知らせる。
「ライティングツール」と呼ぶ新機能では、例えば利用者が書いたメールの返信文について、書き直しのパターンを複数提案する。
利用者は自分の文体や言葉遣いの組み合わせを選べる。利用者の日常に応じてiPhoneの通知に優先順位を付けたり、簡単な指示からオリジナルの絵文字を生成したりするAI機能も紹介した。
AIは主にクラウドではなく端末側で処理されるため、アップルは個人情報を収集しないという。
香港の調査会社カウンターポイントによると、1〜3月の世界のスマホ販売台数における生成AIスマホのシェアは6%で、24年内に11%に高まるとしている。
現状の生成AIスマホは中韓勢が中心だが、世界シェア首位のiPhoneが搭載することで、消費者に身近になる。
サービス向上にChatGPTを活用
一方、今回、アップルは事前の業界や市場の見立て通りにオープンAIと提携したと説明した。アップルのプラットフォームとチャットGPTをつなぎ、その技術をサービス向上に生かしている。
チャットGPTの技術は複数のサービスに活用する。一つはシリだ。利用者がシリに質問した際、シリはチャットGPTの方が精度が高い回答をできると判断した場合は利用者に同意を求めたうえで、チャットGPTの回答を示す。
新機能のライティングツールでも、チャットGPTを使うことでサービスの利便性を高めている。チャットGPTが執筆した文章に合った画像を生成する機能を付加した。
アップルは10日のイベントで、オープンAIと提携した背景や理由は述べなかったが、その技術を使ってサービスの質の向上を狙ったのは明らかだ。
10日の基調講演の会場ではオープンAIのサム・アルトマンCEOも客席に姿を見せたが、登壇することはなかった。
アップルは今後、他のテクノロジー大手の生成AIも連携先に加えていく予定という。
アップル株価は下落
オープンAIはアップルの最大のライバルであるマイクロソフトが巨額を投じて提携を進めている。
業界や市場関係者の多くは、アップルがライバル陣営との連携を進めなければならなくなった背景には、同社のAI開発の遅れがあるとみている。
アップルの開発者会議でオープンAIのロゴとチャットGPTの文字が画面に大きく映し出された
(10日、カリフォルニア州)
アップルはプライバシーを「基本的人権」と位置づけ、個人データを保護する仕組みを自社の製品やサービスに取り入れてきた。
そのため生成AIについては当初、学習データの収集方法などを念頭に「整理しなければならない問題がたくさんある」(クック氏)と、一貫して慎重な姿勢を示してきた。
このため開発が後手に回った。他のテクノロジー大手が生成AI分野に経営資源を集中したことで、技術競争のなかでのアップルの立ち位置は厳しさを増している。
世界首位だった時価総額で1月にマイクロソフトに逆転を許し、6月5日にはエヌビディアにも一時抜かれて世界3位となった。
パソコンやスマホ分野では、生成AIの搭載が相次いでおり、アップルが突出しているわけではない。米グーグルは「Pixel(ピクセル)」で写真編集や要約の機能を持たせた。韓国サムスン電子はグーグルの基盤技術を使ってリアルタイム翻訳などを実現している。
アップルの株価は10日、米国株式市場で一時約2%下落した。AIスマホの登場が発表前から期待されていた一方、発表内容が想定よりも小幅にとどまったことが嫌気された可能性がある。
分析・考察
今回の発表でAppleが特に強調したのがプライバシー保護です。
多くの機能が端末上で実行できる他、より複雑な機能は同社製チップを採用したクラウドで処理します。
ChatGPTの機能を使う際には利用者の同意を求め、OpenAIには利用者の情報を渡しません。
ユーザーの行動を補助するAIエージェントが製品差別化の核になる時代には「そのAIエージェントは誰の味方か」が問われます。
AIエージェントがユーザーの情報を横流ししたり、提供企業の利益を優先したりしては、いずれ信頼を失います。
Appleは学習データの獲得よりもユーザーの信頼を第一としたサービス設計で、AI大競争時代を勝ち抜こうとしているようです。
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日経記事2024.06.11より引用