車部品各社は業績改善が進んでいる
自動車部品メーカーの業績が改善する。上場する3月期決算企業100社の2025年3月期の合計純利益は、前期比19%増の約2兆200億円となる見込みだ。
増収率が鈍る一方、自動車メーカーとの間で値上げ交渉が進み、原材料費などコスト上昇分を製品価格に転嫁する動きが広がる。製造プロセスの省人化も利益率を押し上げる。
車向けの部品や材料を主力とする企業を対象とした。100社の選定は東海東京インテリジェンス・ラボの杉浦誠司シニアアナリストの協力を得た。企業規模の上位はデンソーやアイシン、住友電気工業、ジェイテクトなどで、いずれも売上高の今期見通しが1兆円を超える。
車部品の売り上げは完成車メーカーの生産や販売に連動しやすい。今期はトヨタ自動車やホンダ、日産自動車など自動車大手7社の世界販売台数の合計が2%増の約2530万台の見通し。伸び率は前期(6%増)から縮まる。半導体不足の解消による生産回復が一巡する。
部品メーカー100社の合計売上高の伸び率も前期の10%から大幅に小さくなり、1%増のおよそ47兆9000億円にとどまる見通しだ。
一方で純利益は2割増となる。アイシンや小糸製作所など過半の企業が増益や黒字転換を予想する。デンソーやニッパツなど10社以上が最高益を見込む。全体の売上高純利益率は4.2%と、0.6ポイント改善する見通しだ。
車は1台あたり3万点の部品を使うともいわれる
増益の要因のひとつが価格転嫁だ。原則として部品メーカーは鉄などの原材料高の影響を車メーカーへの販売価格に上乗せできる。
ただ近年増えたエネルギー費や労務費は、上昇分をどう負担するか取り決めが曖昧な場合もあった。一部企業からは「コスト高の影響が適正に価格に反映されていない」との声が上がっていた。
経済産業省や業界団体は車メーカーや部品大手に、適切な価格の交渉や転嫁を促している。業界首位のトヨタの佐藤恒治社長も「仕入れ先の労務費相当分を(購入)価格に反映する」と話す。
点火プラグを手掛ける日本特殊陶業は今期の純利益が過去最高になる見通し。営業利益は前期から74億円(7%)増えると見込む。
値上げ効果は96億円に達する。純利益44%増を見込むシート大手のタチエスの小松篤司代表取締役は「(前期に)取引先がコスト増を踏まえた価格転嫁を認めてくれた」と話す。
みずほ証券の坂口大陸シニアアナリストは部品各社の業績見通しについて「価格転嫁の効果を織り込んでいないケースが散見され、上振れ要因になる可能性がある」と指摘する。
2つ目の要因は生産効率の改善だ。省人化やリードタイムの短縮、不良品の低減などによる費用低減が寄与する。
「業績好調な企業はコスト削減がきちんとできている場合が多い」(東海東京の杉浦氏)
ファスナーを手掛けるニフコは生産ラインなどの自動化を進めるほか、ドイツ子会社の売却で固定費が減る。
シャフトやギアを手掛ける武蔵精密工業はIT(情報技術)を使い生産現場の稼働状況を可視化、コスト管理を進める。両社とも今期の純利益が最高を更新する。
新市場の開拓が3つ目の要因だ。デンソーは電動車に組み込むモーターに欠かせないインバーターや、新型車への搭載が進む先進運転支援システム(ADAS)関連のセンサー部品が貢献する。ばねで世界シェア首位を競うニッパツは北米での値上げが進む。
日本でも販売を始めた中国比亜迪(BYD)は現地で好調
懸念は中国需要だ。不動産不況で経済が停滞する。NOKは主力のシール事業が中国で落ち込む。材料費や人件費の高騰も重なり営業減益を見込む。
現地の電気自動車(EV)メーカーとの競争激化で日系自動車メーカーの販売が振るわない。アイシンの吉田守孝社長は中国について「厳しい戦いで値下げ、値下げ、値下げという状況だ」と強調する。
6月に入り複数の完成車メーカーが認証不正を発表した。トヨタやマツダは一部の新車が出荷停止となった。
停止の対象や期間の広がり次第で、部品メーカーの業績影響が大きくなる可能性がある。トヨタのカスタマーファースト推進本部の宮本真志本部長は仕入れ先との対話について「一社一社と丁寧に補償も含めて話を進める」と話した。
(野口和弘)
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日経記事2024.06.20より引用