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マスク氏登用も財政再建は難路 トランプ政権の弱点に

2024-11-14 15:25:03 | 米大統領選2024


実業家のイーロン・マスク氏㊨はトランプ次期政権で歳出削減の司令塔を担う=ロイター

 

 

【ワシントン=高見浩輔】

大統領職と連邦議会上下両院の多数派を共和党が占める「トリプルレッド」が13日、固まった。

幅広い減税策などトランプ次期大統領の公約は実現可能性が高まった半面、財政悪化への懸念も強まる。歳出削減の司令塔に指名した実業家のイーロン・マスク氏は「2兆ドル(約310兆円)カット」を掲げるが、実現へのハードルは高い。

 

「現代の『マンハッタン計画』になる。共和党の政治家たちは、長い間『DOGE(政府効率化省)』の目標を夢見てきた」。

トランプ氏は12日の声明で第2次世界大戦中の原爆開発計画の名前を持ち出し、マスク氏の起用が強い衝撃をもたらすと示唆した。

 

マスク氏が熱を上げてきた仮想通貨「ドージ・コイン」にちなんで提唱した名称もそのまま採用した。

「政府官僚主義を解体し、過剰な規制を削減し、無駄な支出を削減し、連邦機関を再編成する」。トランプ氏はこう説明するが具体策は見えない。

 

マスク氏は「少なくとも2兆ドルを削減する」と主張してきた。だが米政府の予算は削れない「聖域」が拡大している。

2024年度の歳出は6.8兆ドルで、そのうち4割近い計2.5兆ドルはトランプ氏が削減しないと公約した社会保障費とメディケア(高齢者向け公的医療保険)が占める。

 

第1次トランプ政権前の16年度は1.6兆ドルだったが、高齢化で肥大化に歯止めがかからない。米議会予算局(CBO)によると10年後には4.6兆ドルに膨らむ。

国防費は16年度の6000億ドル弱から24年度は8500億ドルになった。中国を中心として世界的に軍備増強が続くなか、共和内には予算増額を求める声が根強い。

 

第1次政権との最大の違いは利払い費の増加だ。新型コロナウイルス禍後の財政拡張で債務残高が急に増えたうえ、その後のインフレ対応で金利も上昇した。

16年度の2400億ドルから24年度は8900億ドルと国防費を上回る水準に増え、10年後には1.7兆ドルに膨れ上がる。

 

これらの「硬直予算」を除いた歳出額は24年度に2.5兆ドルしかない。ここから政府職員の削減などで実現できる部分は限られる。

教育などの補助や低所得層の生活支援策に加え、国際機関への拠出やロシアからの侵略を受けるウクライナなどへの支援の削減が先行すれば国際社会との連携に影響が及ぶ。

 

 

 

バイデン政権と民主党の大統領候補だったハリス副大統領は、歳入のてこ入れ策として法人税率の引き上げや富裕層への課税強化を掲げてきた。

実際には実現せず歳出増が先行したため、コロナ禍後の好況下でも1.7〜1.8兆ドルの財政赤字が定着した。コロナ禍前はリーマン危機後の09年度に記録した1.4兆ドルが最大だった。

 

トランプ次期政権は幅広い減税策を掲げており、財政改善につながる公約は高関税などしかない。

超党派組織の「責任ある連邦予算委員会(CRFB)」は公約を実現すれば10年間で7.75兆ドルの赤字拡大要因になると試算している。

 

このシナリオでは歳入と歳出のギャップが「ワニの口」のように広がる。歳入の国内総生産(GDP)比は25年度の17.0%から35年度は16.1%に下がり、歳出は23.5%から25.7%に拡大する。

9.6ポイントのギャップは歴史的にもまれだ。これを超えたのは比較可能な1962年度以降、リーマン危機時の09年度とコロナ禍の20〜21年度しかない。危機時と同じ規模の財政赤字が定着する状態になる。

 

 

米CFA協会が7月に世界各地の公認アナリスト4000人以上に実施した調査では、77%が米国の財政を「持続可能ではない」と回答した。

63%が今後5〜15年でドルが準備通貨としての「卓越した地位」を失うとも答えた。

 

短期的には、格付け機関による米国債の格下げや財政赤字を懸念した金利の上昇(国債価格の低下)がリスクになる。

市場の混乱が経済成長を下押ししたり、金利上昇で利払い費がさらに膨らむ悪循環につながったりする懸念がある。

 

バイデン政権下では、共和の強硬派議員らが財政悪化への懸念から予算案に反対し、たびたび政府機関が閉鎖寸前まで追い込まれる事態に陥った。

23年には政府債務の法定上限を引き上げることにも反対し、米国債が史上初のデフォルト(債務不履行)になる直前まで近づいた。

 

この財政悪化への批判や不満は今後、トランプ次期政権が背負うことになる。

大統領と米連邦議会の上下院を共和が支配するため短期的な混乱は回避しやすいが、社会保障の改革などに目をつぶったままの「マスク頼み」では根本的な解決には至らない。

 

「トランプ色」に染まったようにみえる共和が、内部で骨太な議論を取り戻せるかがカギを握る。

 

 
 
 
 
 
 

※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。

 

 

 

 

 

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楠正憲
デジタル庁統括官 デジタル社会共通機能担当
 
別の視点

Elon Musk氏率いる政府効率化省がDOGEと名付けられたことでDOGEコインの価格は倍以上に釣り上がりました。

Trump氏の当選でBitcoin価格も史上最高値を更新しています。

米国の財政が好転せずインフレが継続すれば、暗号資産や株式の相対的な価値は上がり、更なる値上がり益が発生します。

こうした状況は中央銀行の裁量に基づく金融調節を信用しない暗号資産愛好家たちが夢想してきたことです。

財政再建へ向けた取組の裏で現実に起こっている利益相反の萌芽も気になるところです。

 (更新)
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小野亮
みずほリサーチ&テクノロジーズ 調査部 プリンシパル
 
ひとこと解説

マスク氏が、2兆ドル削減を単年度で実行するのか、数年後をターゲットとするのか、という論点がある。

一つの仮説は、米国の財政は10年間の総額で語られるため、2兆ドル削減もそうではないか、というもの。

たとえそうだとしても、3%近い歳出削減が必要で(3%インフレ率と仮定)、政府を中心とする雇用やGDPへの影響は避けられない。

天才マスク氏でも、この難題は解けないのではないか。

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日経記事2024.11.14より引用

 

 

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